第410話 専守防衛?第二次尼子再興運動と対毛利、そして信長を考える①

 元亀元年 九月一日 諫早城


 例のごとく戦略会議室のメンバーが集まって、一通の書状を囲んで考え込んでいる。





 正四位下近衛中将小佐々様


 突然の書状をお許し賜りたく、伏して願い上げ候。


 それがし尼子勝久様が家臣、山中鹿之助幸盛と申し候。


 近衛中将様におかれましては、九州ならびに四国の十三カ国を統べ、まさに西国の覇王のごとき威勢かと存じ候。


 こたび厚かましきと存じたりしも書状を差し上げたるは、お願いの儀、これありとて候。


 われら尼子の家は四年前の永禄九年に、毛利元就によりて月山富田城を攻められ滅びて候。


 われら家臣の力足りずと痛感して候へども、こたび時勢を得、毛利に対し反旗を翻す事とあいなりて候。


 それがし非力に候へども、村上武吉殿ならびに牧尚春殿と連絡を取りあいて、再興の兵を指導し準備を着々と進めており候。


 また、因幡においては毛利方の国人たる武田高信が力を伸ばしておるゆえ、ともに毛利を敵とする、山名豊数殿の弟である山名豊国殿を味方につけており申し候。


 これにて因幡国の各地で転戦し、徐々に力を蓄えれば、尼子氏再興も成就いたすと考えており候。


 しかしながら毛利は強大にて、このまま立ち向かうのは難しいと考えており候。


 どうかわれらに支援を賜りますよう、お願い申し上げ候。


 近衛中将様は義理に篤きお方と聞き及んでおり候。われらが今信じるは、近衛中将様に他ならぬと考えまして候。


 わが尼子は、過去には山陰山陽八カ国の太守に候へり。然れども、今それを望むは詮無き事と存じ候。


 ただ家の再興と、毛利に奪われし領国を取り戻したいのみにござ候。


 どうか、どうかご支援賜りますよう、伏してお願い申し上げ奉り候。


 山中鹿之助幸盛





「ううむ。さて、どうするか」


 純正は頭を抱え、考えている。小佐々は大きくなり五百万石を超え、軍事・経済両面で明らかに毛利を上回っている。戦えば、まず負ける事はないだろう。


 それでも、相手は山陰山陽に根を張る大国毛利である。


 慎重にならない方が、おかしいのだ。それに、火の粉は降りかかってはいない。降りかけてきたのは事実だが、今ひとつ、開戦に踏み切れないのだ。


「三河守に千方よ、この書状の内容について、どうだ。間違いはないか」


 三好を降して四国を制圧し、藤原千方の管轄がすべて領内となったので、情報省の組織改編を行った。


 領国内向けの情報収集部門を領内捜査局(FBI?)とし、領国外の情報収集や諜報活動を対外情報局(CIA?)が担う事となったのだ。


 千方が大臣で次官が三河守である事に変わりはない。


 畿内とそれ以北、以東は大使館内に配属されているが、管轄は情報省である。外務省管轄の純久商人ネットワークとあわせて情報が吸い上げられ、中央で精査、分析される。


 対毛利に関しては山陰が三河守、山陽ならびに瀬戸内海が千方だ。


「「殿」」


 二人が同時に返事をし、顔を見合わせる。しばらくして藤原千方が発言した。


「では、それがしのもとに集められ、精査された情報のみを申し上げます」


「うむ」


「まず村上水軍ですが、ご承知の通り来島出雲守殿はお味方にて、瀬戸内の海賊と讃岐の大名国人の調略に動いておりました」


 純正は目をつむり聞いている。


「そして因島村上は毛利に臣従しております。しかしながら能島村上は時に毛利に反する動きもしており、今は尼子勢に与している模様」


「それは確かか?」


「はい、厳島の戦い以降親毛利であった能島は、ここのところ毛利離れをしておりまする。さりとてわれらにつく気配もなし、独立独歩にござる」


「では今のところは毛利とわれら、どちらにも与してはおらぬが、状況によってはわれらに転ぶ可能性もあるな」


「は」


「よし、では能島の件は出雲守にも再度申し伝えるが、千方は引き続き調略を続けよ。他には?」


 純正は報告された情報についてそれぞれ対処を行い、最後に総合的に修正が必要であれば個々に指示を出していく。


「は、出雲守殿(来島通総)の調略により讃岐の海沿いの国人はわが方に寝返っておりましたが、三好が服属した事で、西は防予の忽那衆から東は小豆島の海賊衆まで服属しております」


「よし、それならば航行に問題なし。備前美作の浦上と宇喜多は別として、三村や赤松、別所への支援は、要請があれば問題なくできるな」


 山中鹿之助がどのような支援を求め、どのような行動を起こすかにもよる。


 また、実際に毛利に敵対する事となれば、毛利に属していない山陽の諸大名、それが例え浦上や宇喜多であっても、織田と純正に敵対しない限り、支援可能だ。


 しかしそれでは、いままで三村と親交を深めてきた意味がない。尼子を支援する事で毛利と敵対するなら、毛利の支配下である三村も敵に回すことになるからだ。


 純正は詳細に個々の利害関係や敵対関係を調べ上げ、それに則って対応する必要があった。そもそも三村は、将来的に毛利が不倶戴天の敵宇喜多と手を組んだことで離反する。


 純正はそれを見越して三村を支援していたのだ。


 しかし、その離反の発端となる信長の、備前、播磨、美作所領安堵の朱印状問題は、まだ発生していない。当然ながら、三村が毛利から離反することはないのだ。


 要は、尼子が敵と認識している毛利が、表向きは敵ではないので、支援をするにもおおっぴらにはできない。


 ……対毛利戦略はまだつづく。

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