第156話 対信長外交団①

 永禄十年 十一月 小佐々城 小佐々弾正大弼純正


 この辺で、そろそろ信長に対して接点をつくっておかないといけない、と考えた。大友とは接点があるようだし、不利な条件でいろいろ介入・仲裁されても面倒だしな。


 と、その前に!! なんでこんな大事な事を考えなかったかなあ。経済戦をしかけるなら、絶対にやっておかなくちゃならない重要な事を思い出した。


 あーもう、六年だよ六年。時間無駄にした。……それは、


「撰銭令」


 信長がやったやつだ。あ、だがこれは肥前ほぼ統一の、最低今じゃないと意味なかったかな? どうなんだ? ついでにレートも決めよう。


 よし、道喜と神屋宗湛、それから島井宗室を呼んで意見を聞こう。


 金1枚=金10両


 金1両=4分=16朱=銀1枚=銀50匁=銭4貫文=4,000文


 銭1疋=10文


 銭1貫文=1,000文


 1文=永楽銭1枚


 まず形状の良い永楽銭を良貨1文として基準銭とする。そして、宣徳銭などは価値が基準銭の二分の一、破銭などは五分の一、私鋳銭は十分の一に分ける。


 そして貨幣をつくり、紙幣をつくる。信用で貨幣と紙幣を流通できる仕組みをつくる。


「どうだ?」


 恐る恐る聞いてみた。


「そう、ですな……」


 三人がまったく同じ様に腕を組み、目をつむり、考える。なに、それ? 商人のポーズなの?


「撰銭、ですか。これは良いと思います。悪銭を使わず良銭を使う傾向があるので、どうしても貨幣の流通量は減りまする。しかし、これをする事で、悪銭も含めて通貨として流通するので経済は活性化すると存じます」


 道喜が答える。


 おおお! 俺はガッツポーズをした。


「ただし、ただ両替してくれ、というのは意味がありませんので、認めてはいけません。こちらは悪銭ばかりがたまり、良銭はでていきます。つまり売買で悪銭も良銭と同じく使えるが、半分は良銭にするなど決まりを設けるべきです。結果的に悪銭も流通しますが、良銭の流通量も増えるので活性化します」


 なるほど、と俺はうなずく。


「わたくしも同じ考えです」


 と神屋宗湛が答えた。


「ただし、貨幣の鋳造と紙幣の発行は、慎重にやらなければなりません」


 うむ、と俺は『もちろんだ!』と言わんばかりに、ちょっとキョドりながら答えた。お願いゴーサイン出して!


「金や銀、米などは、それそのものに価値がありますから、わかりやすい。だから古くから物々交換がなされてきましたし、俸禄米も名前の通り、米が貨幣のかわりをしているのです。生活に必要だし、どこにでもある」


 島井宗室が言う。


「しかし、新しく鋳造した貨幣となると、まったく信用がありませんぬ。永楽銭一文と同じ様につくっても、それで同じ様に物が買え、様々な支払いに使えるかどうかが問題なのです。紙幣ならなおさらです。見た目も価値が低い」


「そしてなにより、他国では使えませぬ。つまり対外的な支払いは出来ませぬゆえ、輸入には使えませぬ。あわせて、いつでもどこでも、これは領内各所に両替所を設ければいいと思いますが、両替(換金/永楽銭もしくは金・銀)できる様にしなければなりません」


「そうですな。それでも最初は、新貨幣や紙幣を使おうと言う人はいないでしょう。そして一度でも両替ができないならば信用は失墜し、再び使う事は能いませぬ」


 と宗湛。


「まずは大量に外貨、ここでは共通銭の永楽銭ですが、こちらを備蓄します。そして領内の店全て、商いのあるところ、銭の使われる所に両替所を設けるのです。そこで一日一回、週に一回でもいいですから、永楽 銭と換金しましょう。そして、それをやっても余りある永楽銭が必要です」


「この積み重ねが信用につながり、ひいては経済の活性化につながりまする」


 三人全員が交互に、うなずきながら、めをつむって、しゃべる。


 いや、圧がすごいんだけど。


(う……ん。わかた。じゃあ、ちょびっとずつね。とりあえず撰銭令からやろう)。


「あいわかった。ではそのようにいたそう。道喜、その方は大蔵省の弥市と、工部省の忠右衛門と相談しながらやってくれ。三人ともご苦労であった」。


 そして、十一月 一日 堺へ向け使臣団が旅立った。

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