第90話 椎茸栽培!なるか?!

 同月 小佐々城 小佐々弾正大弼だいひつ純正


 そうか、やはりまだダメか。


 報告を聞いた俺はため息をついていた。


 2年前に始めた椎茸しいたけ栽培がうまくいってないからだ。もちろん、すぐに栽培できるとも思っていなかったし、できたとして、どの程度栽培可能なのかわからなかった。


 しかし、運任せのナタ目法って、本当に運だな。

 

 直射日光が当たらずに、適度に湿っていて適度に暖かい。なんとなくイメージできるが、完全に胞子任せで運任せ。そりゃあそうか。


 ナタで切れ目を入れて、胞子が飛んでくるのを待っているだけなんだから、それなら普通の木と同じ。


 それでもそのやり方で胞子を付着させる方が、確率が高いのだろうか? 

 

 いずれにしても正直採算がとれるレベルまでは、到底至っていない。春、夏、秋、冬、見てきたが、全く数が足りない。


 この方法は何年やっても変わらない、それが結論かもしれないな。


 確率と収穫量がわからない。当然種駒法(丸太の切り込みに椎茸菌が付着した木片を打ち込む方法)も考えていた。


 いたのだが……、これがうまくいかない。椎茸の菌の培養がうまくいかないのだ。うまくいくときもあればいかない時もある。


 常にうまくいく条件でなければ大量の種駒などできない。


 その時である。


「殿! 殿! とのおおおおおお!」


 次第に大きくなるその声は、間違いない、忠右衛門だ。


「何事だ、騒がしい」相変わらずだ。


「出来ました! 出来ました!」


「だから何がだ!」


「……温度計が、出来ました!」


「なに?! でかした!」


 よし、よし、よし! よし! ! これで温度管理ができる。ペニシリンはもちろん、しいたけの菌の培養やイースト菌の培養、温度管理が必要な物、できるぞ!


 忠右衛門をみると、一升瓶くらいのガラス瓶を持っている。

 

 木の栓でフタがされてあり、注射器よりも少し細いくらいのガラス管が刺さっている。ビンの中の水は赤色だ。


 管には0から100の目盛りがついている。氷室の氷にくっつけて、それからお湯を沸かして測ったんだろう。原理的には簡単なんだが、やはりガラスか? 瓶はまだしも、細長い管をつくるのに時間がかかったのだろう。


 いずれにしても一歩前進だ。


 これで100%なんでもできるわけじゃないが、少しずつだ。


 後日、安定的な種駒の製造に成功。原木栽培へと移行した。

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