第106話 誰が味方で誰が敵か

 同年三月 小佐々城 小佐々弾正大弼純正


 大友義鎮からの文が届いた。


 同盟を前提とした両家のつきあいを・・・と書いてある。即同盟じゃないんだな。まだまだうちは格下らしい。問題はその後だ。


『ちかごろの肥前の状況は思わしく有りません。龍造寺隆信が勝手に他人の領地を奪っているので、弾正大弼がみなを糾合して打倒し、平穏をもたらす様に。』


 えーっと、要するに、みんなで同盟組んで龍造寺をボコれって事でいいのかな?六カ国太守の九州探題だからね。自分を無視し続ける龍造寺に、有馬と大村が負けたから、俺に白羽の矢が立ったって事?


 でも一回負けてるよね。


「殿、報告によりますと、トーレスが府内におり、隆信の所業を義鎮に伝えたようです。」


 なるほど、いい仕事してるね!利三郎をみると、笑顔でコクリとうなずく。俺はこの書面をみて評定衆を集め、会議の真っ最中なのだ。


「さて、これは要するに、大友義鎮いわく、小佐々がまとめ役になり、龍造寺を倒せと解釈したが、皆もそれでよいか?」


 全員がうなずく。


「ふむ。大友義鎮がこちら側なら、本来なら喜ぶべき事だが、俺は両手をあげて喜べない。このままだと捨て駒だし、それに勝算が低い。それには二つの理由がある。」


「殿、それは?」

 勝行が聞いてくる。


「陸戦が主体となるであろうから、陸軍卿、彼我の戦力予測を教えてくれ。」

 治郎兵衛に確認する。


「は、されば、まずは龍造寺にございますが、従属の江上も含めますと七千程度かと。対してわれらは、有馬が千六百、後藤が千二百、大村が六百、宇久が、いや宇久は遠方ゆえ厳しいかもしれませぬ。兵糧のみとしましょう。」


「そして波多が九百に志佐と伊万里が五百ずつ、神代・筑紫が七百五十ずつ、相神浦・平戸が四百ずつ、われらが三千として、総勢一万強となり申す。実際にはもっと動員可能かと存じますが、それは龍造寺も同じにて考えません。」


「なるほど、七千対一万か。戦は水物ゆえ、この程度の兵力差なら、勝てるかもしれぬ。しかし負けるかもしれぬな。」


「杢兵衛はどう思う?」

 評定の間で畳の上に置かれた略地図を見ながら聞いた。


「そうですね。大事な事は、これが攻め戦だという事でしょうか。敵に攻められた防衛戦ならば、ギリギリの兵力でも踏ん張って戦わねば、後がありませぬ。しかし、攻め戦なら、こちらで攻め込む時期が選べます。」


「したがって、彼我の戦力をみて、十分に勝てる見込みがある時だけ、攻めればいいのです。」


「その通りだ。要するに、攻め戦なのにこの戦力比で攻め込まねばならぬ、という事になる。次に・・・・」


「盟友となるべき大名は、乗ってくるか?」

 利三郎に問いかける。


「乗ってこない、とは言いませんが、難しい部分もありましょう。後藤は問題ないでしょう。伊万里と相神浦、それから波佐見衆もわれらに賛同するかと思われます。問題は・・・」


「有馬と大村だな?」


「はい。あわせて波多も難しいかと存じます。」


「うむ。」


「その三家はもともとわれら小佐々家より家格が上です。われらの下風に立つ事をよしとはしないでしょう。大村にいたってはなおさらです。志佐は、まあ、戦力にいれてもいいでしょう。平戸は問題ありません。」


「ありがとう利三郎。結論は、僅差の兵力なのに、裏切るかもしれない奴らと、一緒に戦わなくてはならない、という事だ。正直乗り気がしない。しかし、大友義鎮がせっかくこっち側にいるんだ。無視はできない。」


「殿、いかがでしょう?本音と建前で動いては?」


「どういう事だ?」

 杢兵衛に聞く。


「は、されば、そのまま探題殿にお返しするのです。そうですね、文面は・・・『探題様にご指名いただき光栄の極みにございます。されどわれが身はまだまだ小身にて、三河守様(波多)や修理大夫様(有馬)、民部大輔様(大村)にご出馬願う事、難しゅうございます。されば筑前・筑後の国人衆を動かしあそばし、動く意向をくだされば、お三方は喜んでご出馬されるでしょう。』ではいかがでしょう?」


 全員がくすっと笑い、場が和んだ。


「面白い。ではそうしよう。利三郎、清書してくれるか。花押を押すから届けてくれ。」

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