第117話 須古城の平井経治

永禄八年 十月 須古城 平井経治


「やあやあ平井どの、出迎えご苦労にござる。」

まさに熊の様な風体の男が一人の男を連れてくる。これが龍造寺の知恵袋、鍋島直茂か。なるほど、武人というより文人に近いな。


「とんでもありませぬ。ささ、東杵島の国衆も集まっておりまする。こちらへ。」


「いや、それには及ばぬ。」

なに?どういう事だ?軍議がいらぬと?われわれは必要なしという事なのか?


「すぐには出立せぬゆえな。ゆるりと休んでおられればよい。わしもそうする。」

そう言って城内に用意した部屋で休むという。


「鍋島殿、これは一体どういう?」

「ご心配には及びませぬ。殿には考えがあっての事。兵は拙速を尊ぶと言いますが、今回はその限りではありませぬ。ゆるりと構えて、ゆるりと進めばよい、という事です。」


どういう事だ?そもそも最初から兵力に差がある戦だ。一気に押しつぶしてしまえばいい。なぜそうしないのだ?そうした方がいい理由、いや、そうしなければならない理由があるのだろうか。


一万対・・・敵はどう頑張っても五千が関の山だろう。今回は城を落とすのが目的ではなく、塩田津の湊を奪うのが目的だと聞いておる。


それに小佐々の縁戚である相神浦の盛は、大村や有馬の兄弟ではないか。今、小佐々との中が険悪だとしても、奴らが再び結ぶ可能性があるのではないか?


なおさら、ここでゆるりとしておる場合ではないであろう?


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同月 武雄城(後藤氏の本拠) 小佐々純正


「なに?動く気配がないだと?」

千方からの報告を受け、俺は考え込んだ。なぜだ?城攻めならともかく、今回は野戦になるであろう。やつらは待つ必要がない。兵力で勝っているのに、なぜ攻めぬ?


それに大村の動きもおかしい。なにも知らない訳がない。目と鼻の先まで敵が来ておるのだ。なぜ守備隊に動きがない、本隊が動いたという報告すら聞かぬ。


「千方よ。大村の動きを調べよ。波多と有馬もだ。どんな些細な事も見逃すな。」

時間をかけて攻める算段か?だとしても利があるとは思えん。こちらは多少時が稼げて味方の集結ができるが・・・。

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