第7話 転生者の目覚め―父との対話で明らかになる歴史の変遷

 え? ええ? 今なんて? 横瀬浦がうちの領地? それやったらもう歴史変わってるやん! サワノモリ村の名前どころじゃないぞ!


「それはいったいどういう……?」


「どうもこうもあるか! !」


 そう言って親父は、机をドン! と叩いた。

 

「生き様の覚えを失うた(記憶喪失)とは聞いていたが、自分の兄が討ち死にした事も忘れてしまったのか!」

 

 ええええ! なにこの急展開! 領地に兄貴に情報量多すぎ!


 忘れてしまった事への怒りか、それとも兄が殺された事への恨みか、親父は複雑な感情を隠すこともなくあらわにした。


 とばっちり? (前世の俺的に)


「いえ! そのような事は決して! ただ、あまりのことにて。申し訳ございませぬ」

 

「針尾島のやつらがの……」


 何度か深呼吸をして、少し落ち着いた後に親父はポツリと話し始めた。


「そもそも(もともと)針尾島は針尾氏の所領で、北側の佐志方氏と島を巡りて争うておったが、横瀬村や川内村も針尾氏のものであった。南の八木原村や鳥加村、大串村は大村の殿さんの所領で棲み分けができとった。我らとも争いもなくな」


「ところが、だ」


 机の上をとんとん、と指で叩く。


「去年の正月も開けぬみぎり(頃)、さしくみに(いきなり)八木原村の天狗山城に討ち入って(攻めて)きおったのだ。それゆえ大村の後詰めが駆け合う(駆けつける)まで、我らにも後詰めを請われたのだ。かれ(そこで)、直に城に助けにいくのではなく、廻りて(迂回して)針尾島に向かい、針尾城に掛かった(攻めた)のだ」


 怒りを抑えているのがわかる。


「小佐々の軍兵(軍勢)より敵との道程は近いゆえ、宗(中心)の軍兵(軍勢)はすべからく(当然)われら沢森衆となる。陸に上がりき(上陸した)我らは一気呵成いっきかせいに掛かり(攻め)て、あらあらしき(激しい)立て合い(抵抗)もあったが、辛くして(なんとか)抜く事(落城)能うた。然れど侮られきものよ。針尾の高(石高)なぞ、我らと小佐々衆あわせたものとそう変わらんというのに」


 俺は静かに親父の解説を聞いている。古文? 古語は難しいが、なんとなく、いわんとしている事はわかる、かな。


 その後、慌てた針尾軍は城攻めをやめて引き返していったようだ。


 当然、城は攻めるより守るほうが簡単だ。普通だったら大村の援軍と小佐々の本隊をあわせて、勢いに乗せて針尾島に侵攻しそうなもんだが……。


「然れどこのいくさ(戦い・戦争)の、討ち入らるる(攻められた)大村氏は、針尾に討ち入るをいさようた(ためらった)。深掘や西郷が後ろ(背後)を押し掛く(襲う)動きをみせたゆえだ」


 結局横瀬村を沢森家が、川内村を大村に割譲されることで和睦になった。しかし兄は、その攻城戦の際に流れ矢があたって死んだらしい。

 

 横瀬村を得たとして、あまりにも大きな損失だ。小佐々氏からも嫡男が死んだこともあって、異論はでなかったようだ。


 横瀬浦がうちの領地だったって事も驚きだが、兄がいたのも驚いた。

 

 てことは結婚して子供もいるのか? この時代にきてわかったことだが、前世の知識として覚えているものは、あくまでも文字としての歴史。


 この世界の知識は欠けていることのほうが多いのだ。

 

 というかほとんど。だって別人なんだもん。これは周辺勢力や領地運営を考えると同時に、身の回りの事も整理していかなくちゃいけないな。


 よくある転生ものでも、幼児や乳児に転生するものが多い。しかし中途半端に元服直後って、整合性を保つのに一苦労だな!


 ……あ、だからで長男って事ね。なるほど。俺はしばらく親父の話を聞いた後、自室に戻った。

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