製作不可アイテム-1
剛腕のベネディクト。
確かに、その二つ名も納得だ。
アビリティの破壊力から、ステータスの筋力値は相当高いことが窺える。
ただ、1つ疑問がある。
筋力特化の戦士なのに、なぜ大量のアクセサリーを装備しているのか。
特に指輪系のアクセサリーは、筋力値がマイナスされる代償に、他の能力値を上げる効果を持つ。
一般的に指輪は、筋力値をあまり必要としない魔法職が、MPや魔法攻撃力の底上げを計るために装備するアイテムだ。
それを十個も装備していたら、筋力値のマイナスが大きすぎて、戦士にはデメリットでしかない。
あの戦斧に理由があるのか?
攻撃時にHPやMPなどが減少する代償に、高い攻撃力を発揮するものや特殊効果が付与されている武器は多数存在する。
そう考え、男の戦斧を鑑定して目を疑った。
【アイテム名】繧キ繝エ繧。縺ョ繝代Λ繧キ繝・
【ランク】13
【必要能力値】なし
【攻撃力】斬撃+2500
打撃+2500
【属性値】火+1000
雷+1000
風+1000
――製作不可アイテム
通称『バグアイテム』や『チートアイテム』などと呼ばれる代物。
正規プレイでは入手することが不可能であり、異常なパラメーターを有している武器や防具といったアイテムを指す言葉だ。
文字化けしたアイテム名。
攻撃力と属性値に表示された、有り得ないほど高い値。
そもそも、武器のランクは最大で【12】であり、ランク【13】以上のレアリティは存在しない。
一体、なぜアレが……いや、考えるまでもない。
プレイヤーだ。
どこの誰かは知らないけれど、僕らと同じく、この世界に来たプレイヤーがバグを持ち込んだ可能性が高い。
「アヤさん、可能ならばコイツを生け取りにしたいんですけど」
「私も提案しようと思っていたところです。どうやら『フェンリル』には、色々と裏がありそうですからね」
僕とアヤさんが武器を構えるのを横目に、フェンリルの頭目ベネディクトは周囲を見渡した。
そこには、先ほどの戦闘で倒した構成員の死体が横たわっている。
「……テメェ等、よくもやってくれたな」
「来ます! ……ッ‼」
「アラタさん⁉」
やはり、狙われたのは僕の方だった。
咄嗟に構えた【倶利伽羅】で、戦斧の一撃を受け止める。
――重い
筋力値の差、武器の攻撃力の差を体現する一撃だ。
嵐のような猛攻を【俱利伽羅】で捌く。
打ち合うごとに、鈍い金属音が地下室に響く。
「レベル100にもならねぇ奴が、やるじゃねぇか!」
戦士であるベネディクトが【鑑定】のスキルを持っているとは考えにくい。
アクセサリーの中に【鑑定】の効果を持つものがあるのだろうか?
「――!」
「見えてるぜ‼」
アヤさんの攻撃を防いだ?
ベネディクトの背後、完全に死角となる位置からの攻撃を彼は戦斧を背中に回すことで防いで見せた。
だが、それによって正面に隙ができる。
「これでも喰らいやがれ!」
「なっ⁉」
ベネディクトが突き出した左手から、巨大な火球が撃ち出される。
詠唱時間を無視した魔法の発動。
魔法のガードはタワーシールドでもない限り、余波でダメージを受けてしまう。
【縮地】によって攻撃の射線から出ると、標的を失った火球が部屋の壁に激突し、小規模な爆発を起こした。
アヤさんが数本のスローイングナイフを懐から取り出して投擲するが、ベネディクトに当たる直前で透明な“何か”に弾かれてしまう。
「これは、かなり厄介ですね」
「大丈夫ですか、アラタさん」
「ヴェルギリウスさんと戦うよりはマシです」
一度ベネディクトから距離を取り、体勢を立て直す。
火球はその規模から判断すると、少なくともレベル5相当の威力があった。
そのため、特殊なスキルを使用しない限り、最低でも数秒の詠唱時間が必要になるはず。
スローイングダガーを防いだのは、レベル5の風魔法『ウインドシールド』のように見えた。
これもアクセサリーの効果か?
そもそも、戦士系のベネディクトが魔法系のスキルを使えることに違和感を覚える。
製作不可アイテム、【鑑定】のスキルと同等の効果を持ったアクセサリー、戦士系でも魔法を発動させることが可能なアクセサリー。
なるほど、これだけのアイテムを持っていれば『フェンリル』が急速に力を付けたというアヤさんの話も納得がいく。
だけど――
「倒せない相手じゃないですね」
「ええ、そうですね」
「何だと?」
僕たちの会話に、ベネディクトが額に青筋を立てる。
正直に言うと、もっと苦戦するかと思っていた。
だけど、製作不可アイテムである黄金の戦斧は、対処ができない程の攻撃力じゃない。
魔法だって、ベネディクトが使ったものを見る限り、高レベルのものは使用できないようだ。
十分に勝機はある。
「……ぶっ殺してやる」
「死なないで下さいね?」
「アヤさんこそ」
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