剣を求めて-2


 王都の城下。


 そこは大きく五つの区画に分けられる。



――貴族区


 ローズさんの屋敷のあるエリアもここに含まれる。


 貴族や一部の上級騎士の屋敷が、王城を囲むようにして立ち並ぶ。



――商業区


 飲食店やアパレルをはじめとした店が軒を連ねる。


 武具や冒険に必要なアイテムの多くが、このエリアで購入することができる。



――居住区


 文字通り、王都の住民が住むエリア。


 冒険者の依頼で訪れる場所だが、攻略一筋だった僕は一度も行ったことはない。


 なので、民家が立ち並ぶ場所という認識しかない。


 だけど、観光目的でなら居住区を歩いてみるのもアリかもしれない。



――職人区


 家具や冒険で使う道具、武具を作る職人が集まる区画。


 既製品なら商業区だが、持ち込みでオリジナルの武具を作る場合などは、こちらの職人に依頼をする。



 そして、最後。


 僕が今居る区画が貧困区。


 俗にいうスラムだ。


 治安が悪く、犯罪の温床となりやすい区画。


 冒険者の依頼では、この区画に潜伏する盗賊団や犯罪組織を討伐する依頼もある。


 また、この区画は他のエリアと比較して、少々特殊な性質を持つ。


【エリア内で殺人行為を行ってもPKに判定されない】


 そのため、犯罪者を討伐に来たプレイヤーをPKするという手法が横行していた。


 僕も時々お世話になった区画だ。


 余計なトラブルを避けるため、ここに来る前に薄汚れたローブを羽織っている。


 普段ならトラブルは大歓迎なのだが、昨日のこともある。


 嫌な予感しかしない。


 スラム街の裏路地を進む。 


 倒壊寸前の家屋が多い。


 道端では、襤褸切れを身に纏った人々が寝ていたり、疲れた様子で座ったりしている。


 ゲームでは背景演出のひとつだった光景。


 しかし、ここでは現実に、今日を生きるのも困る人々が溢れている。



――助ける


 その選択肢は僕の中には無い。


 例えば、目の前で膝を抱えるの人に食料を与えたとする。


 その人は僕の施しに喜ぶだろう。


 しかし、次の瞬間には、歓喜が恨みに変貌する。


 周囲の人間が、食料を求めて奪い合いをするのだから。


 当然、食料を持っていた人は殺される。


 お金を持っていると知られた僕も標的にされることだろう。


 安易な善意ほど愚かなものはない。


 助けるなら、覚悟を持つべきだ。


 全てを見捨てるか、全てを救うか。


 選択肢は二つに一つ。


 だから、僕は思考を放棄する。


 目の前の光景から目を背ける。


 力のない今の僕には、選択をする権利すらないのだから。



 目的地に到着するためには、多叉路になったスラム街を、一定の法則に従って進む必要がある。


 スタートはどこからでもいい。


 まず、三叉路の道の一方。


 朽ちた剣の立てかけてある方を進む。


 その後、辻では薄汚れた籠手、五叉路では槍といったように、正解の道を選択する。


 蜘蛛の巣のように入り組んだ路地を、薄い記憶を頼りに進んでいく。


 それを十二叉路まで繰り返すと、ようやく袋小路に突き当たった。


 もちろん、目的地はここじゃない。


 僕は懐から金貨を取り出す。


 これが入場料だ。


 金貨一枚100万R。


 ギミックを知らなければ、こんな大金をこんな場所で取り出そうとは思わないだろう。


 周囲に人影がないことを確認。


 そして、金貨を宙に放り投げる。


 放物線を描く黄金の輝きが、陽光に反射し煌めいた。


 気が付けば、目的の場所へと辿り着いている。


 静まり返った店内。


 スラム街の太陽は高い位置にあったが、ここは星ひとつさえ顔を見せない闇夜。


 申し訳程度に光を放つ照明が、ここでは唯一の光源だ。


「――待ってたぜ、クソ野郎」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る