第25話 チームポイントの暗示
≪ソレデハ、第三問≫
【3問目】
(K×1+J×2+J×3)÷2=35
{(Q×Q)+(J×J)-(K×K)}÷3=32
J×□×□=11
□□に入るアルファベットは?
連続していた漢字問題とは異なり、ここでアルファベットの穴埋め問題に切り替わった。
何だ、コレは。
小学生でも解けると、桐島は言っていた。ここまで見てきて、問題はおそらくナゾナゾの系統だろう。とりわけ柔軟な思考が必要となる。既に披露しきった脳と体に加え、死と隣り合わせの恐怖が同居する今の状態で、ナゾナゾはかえって酷に思えた。
桐島の、人間の命を弄ぶかのような遊び心に苛立ちが芽生える。その湧き立つ感情が問題の読解を邪魔していた。
ああ、ダメだ……わからない。表示されている英文字は三つのみ。ということは、□に入るのも「J」「Q」「K」のいずれかということか?
頭を抱える郁斗。チームポイントは三ポイントある。隣りのゆめを見て見ると、彼女は目をパシパシさせていた。表情を見るに、困惑して正解に辿り着いていない様子。
三問目はお互い、頭を悩ませていた。これではチームポイントすらも使うことが不可能。他のペアはどうか。遠方の両端にいるそれぞれに目を向けると、師谷と未来美の両者がレバーに手を掛けているのが見えた。ということは、他の二組は答えに辿り着いている。……まずい。
チームポイントはジャンジャン使う方が望ましいかもしれない。競うのは全問題の総得点。問題数は五問と限られていながらも、難易度は徐々に上がっていくと思われる。であれば、最後までとっておくより一問一問を着実に獲得することが重要だ。「最終問題は特別に、ポイント数が二倍!」みたく、バラエティ番組のクイズのような筋書きは無いだろう。ルールに記載の無い展開は、起きえないと思った方が賢明。必要なのは問題の正解数であり、チームポイントではない。
≪デハ、回答が出揃いました≫
師谷・水菜月ペア:
「A」「A」=正解(1tpt使用)
黒川・浦城ペア:
「K」「Q」=不正解(0tpt使用)
桃野・小野前ペア:
「A」「A」=正解(1tpt使用)
正解は二つとも「A」の文字。
「K」「Q」「J」「A」。その並びを見て、郁斗は
――これは、「トランプ」か。
「K= 13」「Q=12」「J=11」「A=1」
そういうことか。複雑に考え過ぎて、まんまと術中にはまってしまったような感覚。このアルファベットのバリエーションを見て、トランプが思い浮かびさえすれば、複雑な問題式をわざわざ考える必要も無い。
クソッ……後悔が残る失点だった。
第三問目 終了時点:
師谷・水菜月ペア:3問正解。チームポイント「1tpt」
黒川・浦城ペア:2問正解。チームポイント「3tpt」
桃野・小野前ペア:2問正解。チームポイント「2tpt」
師谷・水菜月ペアが全問正解でリードし、他の二組が後を追う形に。勝負は接戦。郁斗とゆめは目を合わせ、「切り替えよう」と言い合うように互いに小さく頷いた。
大丈夫だ、チームポイントは三ポイントもある。次は必ず使う心積もりで挑もう。
ん?
チームポイント?
その時。郁斗の頭に、一つのひらめきがよぎった。
このチームポイント……その用途は、ペアで正解を導くための道具。すなわち正解を知る片方が、正解を知らないもう片方に言葉を与えることで成立する仕組みだ。
だけどそれだけじゃない。
このチームポイントという仕組みそのものが、問題を紐解くヒントになっている。
郁斗は脳内で、一問目からの正解を振り返った。
一問目の答えは、「化」または「仁」。仮にここでチームポイントを使用した場合、使用できるポイントは必然的に1tpt、つまり一文字のみ。問題自体イ行の縛りがあるため、ペアの片方がわからない場合はイ行の一音だけで正解を示すことができる。
続いて二問目の答えは、「怒」または「恐」。ここでは師谷・水菜月ペアがポイントを使用している。その際に使用した言葉はおそらく「ド」の一音。それで正解が出せるからだ。
そして三問目の答えは、両マスとも「A」。ここでは二組が1tptを使用していた。となれば共有した言葉はきっと、「エ」とか「ア」の一音しか考えられない。
一問目が一音、二問目は一音、三問目も一音……。
つまりこの問題における答えは全て、音で表した時に一マス当たり「一音」で共有できるモノに絞られるのではないか。
≪ソレデハ、第四問≫
一マス「一音」。その暗示を脳内にインプットし、郁斗はスクリーンを見つめた。
出されたその、四問目では。
新たに、子ども向けの図鑑に出てくるような「写真」と「イラスト」と「文字列」の複合式が映し出される。
【4問目】
‟ライオンのイラスト”+‟生肉の写真”=34
‟PM”+‟WEST”=33
‟日本国旗のイラスト”+‟星条旗の写真”=□□
□□に入るモノは?
並んだ三つの式。それぞれが別ジャンルのパーツでの組み合わせ。
初見の時点で共通点がまるでわからない。さっぱりだった。
ライオンと肉? その下は英文字? で、最後は国旗だと?
答えは生き物、動物か? それとも国の名前?
郁斗は対象の呼び名を別の言い方にできないか脳内で変換していった。PMは午後だろ? で、WESTは西だ。うーん……。
あっ!
今回の問題は郁斗にとって、ものの一分弱で、すぐに正解へと辿り着くことに成功する。
確かに、桐島の言う通り。これは小学生でも解ける。さらに先程、脳内に刻み込んだ暗示。
一マス「一音」で、この三問目の各マス目を表現することはできる。
……だが。
答えを確信した郁斗は、ゆめの動向を確認した。
先程の不正解が響いているのか、はたまた焦ってしまっているのか、彼女はこめかみに手を当て苦汁を嘗めるような顔色を見せていた。まるで、大学入試で苦戦する受験生のよう。
それもそのはず。この子はまだ十代だ。冷静でいられるはずも無い。
よしッ。
ここで郁斗は決断した。
このタイミングで1tptではなく、一気に2tptを使用しよう。一音でも伝えることはまあ可能だが、確実性は下がる。ここで正解数を獲得しなければもう後が無い。
郁斗はそっと二人の間にあるレバーに触れた。その姿を見て、ゆめが瞳を光らせ郁斗を見つめる。「大丈夫」と、優しく告げるように頷くと、郁斗はレバーを二段階動かした。
向かい合って見つめ合う二人。
言葉を待つ少女。
「クク」
ゆっくり、そしてはっきりと。
郁斗は言葉を放った。
瞬間、闇から解き放たれたかのように。彼女の瞳に、まばゆい閃光を宿したのがわかった。
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