第10話 暴君
第一ステージ『ミステラス』(途中経過)
【ステージクリア】
水菜月蜜(美月)
師谷倫太郎(シヤ) 計二名
【ステージ進行中】
浦城郁斗(ウラキ)
小野前数馬(カズ)
半場勤(ツトム)
玉利紗代子(タマリ)
黒川ゆめ(ユメ)
桃野未来美(みっく) 計六名
◆
『51: 00 』
ゲーム開始から二十九分が経過。残り時間五十一分。
さて……。思いついたはいいが、どうするべきか。郁斗は鍵を探しながらずっと熟考を繰り返していた。
悩んでいた理由。
それは、この中の「誰に声を掛けるか」だ。
全員に声を掛けるという訳にはいかない。それだとかえって非効率だ。ずっと汚い言葉を吐き捨てている「半場勤」は、
残るは、終始挙動不審で何処か不安のよぎる「小野前数馬」か。集中力も動きも、おそらくこの中では一番落ちてきているであろう「玉利紗代子」か。はたまた一言二言だけだが話したことのある、最年少で未だ謎めいた女子高生「黒川ゆめ」か。
だとしたら……。
候補として一番望ましいであろう「彼女」に、まずは声を掛けてみるのがベストだろう。おそらくは自分と近しい年齢。そして外見からは知的な雰囲気を含み、協力を求めれば何か別の知恵も授けてくれるかもしれない。
郁斗はそう結論付け、ターゲットである「桃野未来美」がいる方へと一歩踏み出した。
けれど、その矢先。
事態は一変し、まさかの展開が。
「ア、アア……」
「やっと、やっとあたしも」
「見つけた!」
『49: 35 』
ゲーム開始から三十分以上が経過し、残り時間五十分を切ったタイミングで。じっくりと、静かに、喜びを噛み締める長身の女性。
それはまさに今、郁斗が声を掛けようとしていた桃野未来美だった。
マジか……。涙を浮かべ歓喜のガッツポーズを振りかざす彼女の姿を、郁斗は真正面から受け止めるだけとなってしまう。
「はあ、疲れた」
「‟王冠”なんて、見つけにくいかもって思ってたけど……でもよかった」
「カシャン——ポイッ」
安堵を
おいおい、ちょっと待ってくれ……。頭で描き上げた計画が早くも音を立てて狂い始める。
ひとまず鍵の捜索を再開しながら、郁斗は改めて思考を巡らせる事態となった。
できれば他の人には勘付かれたくはない。特に、「アイツ」には。
隠密に遂行できるのが一番。となると、やはり女性陣の中からが望ましいか。ひとまず鍵探しをしながら、タイミングをもう一度模索しよう……。
『40: 55 』
ゲーム開始から、もうすぐで四十分が経過しようとしている。
未来美がクリアして以降、一向に鍵を見つけることのできない参加者たち。
奇跡は三回まで。この大量の鉄山の中で二度三度と早々に見つかること自体、本来だったらありえない。だからこその厳しい現実を実感させられているかのように、プレイヤーたちは疲弊を感じつつ捜索を続行していた。
そんな中。思考と捜索の両方に脳と体を没入させていた郁斗の耳を、後方から響く罵声と振動が激しく揺らした。
「んだオマエ、ジャマだ! あっちいけ!」
「ボ、ボクは……順番に見ていってるんです。場所を少しズレれば、それでいいだけじゃないですか」
「あ、なんだと?」
憤った半場勤が地団駄を強く踏む。
「うわぁっっ!」
至近距離からのその轟音に驚いた小野前数馬は顔を上げると、その咄嗟の動きによりかけていた黒縁メガネがずれ落ち、パタンパタンと音を立て半場の足元付近へ滑り落ちて行った。
「クックックッ」
不気味な笑みを浮かべた半場が、床に転がるメガネを素早く手に掴む。
「な、なにするんですか」
「オマエ、コレが無いと何も見えなんいだろ? クソガキが。口答えしやがって」
「か、返してください!」
「フッ、やなこった」
「こ、これはルール違反です!」
「いや違うな」
「ルールにはこう書いてあった。‟他者に肉体的暴力を加えてはならない”、と」
「おれはオマエに、指一本触れていない」
半場の言っていることは間違いではなかった。おそらくこの会場内には、幾つもの監視カメラが隠れて設置されているはず。現にメガネを奪い取った半場に対し、桐島側から何かしらの警告やアクションは一切発せられてはいない。
「そ、そんなの……卑怯だ! 傲慢な考えだ!」
「んだと? それ以上口答えすんならお前のこのメガネ、踏んづけて勝ち割るぞ」
「うっ。そ、それは」
怒号と大声で繰り広げられる揉め事に、さすがの玉利もゆめも手を止め、半場と数馬の二人に視線を向けている。
だがその中で……。郁斗は一人、別の事を考えていた。
これは、絶好の機会なんじゃ。
やるなら、今しかない。
◆
「そうだ、良いコト思いついたぜ」
「えっ……何、ですか」
言いながら半場は、明瞭な視界を失った数馬のもとへと近づいていく。
「オマエはこれから、おれの鍵も一緒に探すんだ」
「え?」
「今からオマエに、おれの鍵穴を教えてやる。だから探せ。それで見事見つけてくれたら、このメガネも無傷で返してやる」
「そんな……」
「時間はまだたっぷりある。視力が悪いとはいえ、少しでも戦力になるなら万々歳だ」
「それと、言っとくがおれもバカじゃねえ。これは戦いだ。必ず誰かが死ぬ。だから仮にもしオマエがおれの鍵を見つけたとして、それを隠して渡さなかったり、他の奴に不用意にマークをバラしたりなんかしたら……そん時はわかってるよな?」
半場は言葉を吐き捨てながら、メガネをブラブラと宙に揺らして見せた。
「は……はい」
「わ、わかり……ました」
「んじゃあ、交渉成立っと」
「おおっと、待て待て。まだ行こうとすんじゃねえ」
「さらに、加えてもう一つだ」
「えっ……」
「クックックッ」
半場と数馬の会話は、既に郁斗たち全員にも筒抜けとなっていた。
「あんまりだわ。あれじゃあの数馬って子、何もできないじゃない」
「……ひどい」
あまりにも卑劣な半場のやり口に、玉利とゆめは互いに近づき憂いの言葉を交わす。
だがそれも、ほどなくして。残酷だがこのゲームには命が掛かっている。これ以上時間を無下にできないと、玉利とゆめは再び捜索のため踵を返し、鍵山へと向かっていった。
『38: 30 』
ゲーム開始から四十二分が経過。残り時間三十八分。
黙々と作業をする女性陣に対し、引き続き揉めている様子の男性陣。
捜索をする玉利とゆめの距離が再び近づいたタイミングを見計らって、郁斗は動いた。
「あの、玉利さん。それとゆめさん」
「ちょっといいですか?」
彼女たちにさり気なく近づいた郁斗は、二人に声を掛けた。
「何? どうしたの?」
「すいません、急に。じつは二人に、あるお願いがあって。それで声を掛けました」
「お願い? ワタシたち、時間も迫って来てるのよ。早く鍵を見つけないと、死んでしまうってのに」
「はい、だからこそのお願いです」
「えっ?」
「…………」
「…………」
「じゃあ、一応聞くけど。そのお願いっていうのは?」
「はい、簡単です」
「それは——」
「オレたち三人で協力し合って、鍵を見つけ出す——ただそれだけ」
「言うならば、共闘ってヤツです」
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