第2話 招待メール

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『シンサイド・スクエア』 

 特別無料招待のご案内


 ウラキ 様

 お世話になっております。


 株式会社シンサイドスクエア 広報担当の桐島きりしまと申します。


 さて、この度弊社では東京都青檜あおひの市(東京都西部地区)に最新技術を搭載した屋内体験型テーマパーク『シンサイド・スクエア』をオープンする運びとなりました。

 本テーマパークは西部地区の更なる地域活性化を目的とし、産業ロボットやAI、先端インターフェースの研究開発から生産までの中心拠点であった「某S社」のエリア移転に伴い、その工場跡地を買い取り大型施設へと改造。

 そしてこの度、子どもから大人まで楽しめる新感覚アミューズメントパーク『シンサイド・スクエア』として生まれ変わりました。

 そこで来たる翌月のオープンに際し、「業界・メディア向け」と「一般個人向け」それぞれにプレスリリースを実施致します。

 今回、ウラキ様の日々感度の高い発信を拝見し、是非「弊社公式インフルエンサー」として当会場へ特別無料体験の招待をさせて頂きたくご連絡差し上げました。


 つきましてはご多忙中のこととは存じますが、是非ともご来臨賜りますようご検討の程よろしくお願い申し上げます。


 【一般個人向け プレスリリース】

 ・日時:5月13日(金) 12時00分

 ・場所:東京都青檜市 某所

 ※住所、電話番号、ホームページ等の情報は後日公表予定です。


 尚、ご来臨の際は「参加」の旨を記載の上、メールにてご返信下さい。

 追って、集合場所と時間をお知らせ致します。


 以上

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 メールの内容は、今後開園予定という新規アミューズメント施設からの招待だった。送信元のアカウントを見て見ると、『シンサイド・スクエア【公式】』という名称のアカウントから送られてきている。だがフォロワー数は四十八と、極めて少ない。現状おおやけに投稿しているモノは何も無く、背景画像も青い無地で殺風景のまま。

 だが確認してみると、メールの文面にあったS社やその同業他社の公式アカウントから複数、さらに所在地のある『青檜市観光課』からもフォローがされていた。おそらくはアカウントができたばかり。これらの点から、まあ信憑性が高いアカウントと見ていいだろう。


 にしても、シンサイド・スクエアか。聞いたこと無いな。「メセラ」にアップされる情報は毎日読み漁っているが見覚えは無いし、テレビは全く持って見ていない。けれどこの文面を見る限り、おそらく大部分の情報をメディアには明かさず、現状は非公表にしているのだろう。何とも珍しい。これもマーケティング戦略の一種なのか。そこら辺のことは郁斗にはよくわからなかったが、何かしら企業サイドの戦略めいた姿勢を感じた。

 とはいえ、企業案件が来るのなんて初の経験。内心郁斗は嬉しかった。メセラでの発信を通して「自分」という存在が注目されている証明。有象無象の情報社会の中、おそらく敏腕な目利きによる厳選を経て、見事自分に白羽の矢が当たった。きっとそうに違いない。フッ、やっぱり。分かる人にはわかるんだ。

 カレンダーに目をやると、指定された日はちょうどバイトも面接も無い。しかも入場料から何から無料って。おいおい。ちょっと。来てるんじゃないのか、波が。やっぱビジネススーツの歯車なんぞ、クソくらいだ。

 職業「インフルエンサー」として名乗る我が身の未来を、無意識に夢想し始めている自分がいた。

 ヨシッ、行ってみるか——。

 意気込んだ郁斗は先程のダイレクトメッセージに「参加」の旨を記載し、返信メールを送った。

「フンフフン、フン……」

 その後。鼻歌交じりにシャツとパンツを脱ぎ捨てると、郁斗は意気揚々と浴室へと向かった。

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