2-10 混乱。成績発表

「「「「ただいまー!」」」」「ただいま戻りました。」


 僕たちは5人揃って寮に帰ってきた。きっとカエデさんはキナコ&ダイフクと戯れているものと思っていたのだが。


「カエデさん? 帰ってきてませんけど?

 皆さんご一緒では無かったのですか?」


 まだ帰ってきていないのか… 何をしてるんだろう?

 寮の玄関のかぎを開ける音がした。カエデさんが帰ってきた。

 全員で一斉に玄関を凝視する。


「ただいま戻りましたわ。

 え? なに? 皆さん、どうされたのですか?」


 帰ってきたのはハルエさんだった。


「今日の試験の後…」


 マチカが話を始めた時に再び寮の玄関のかぎを開ける音が…

 今度こそ帰ってきた…?

 ハルエさんも一緒になって玄関を凝視する。


 ガチャリ


「ただいま戻りましたわ…

 お…お兄さま、わたくし何か粗相をしてしまいましたでしょうか?」


 その場にいた全員の視線を浴びたサキがそう問いかけた。


「実はな、今日の認定試験終了後からカエデが行方不明になっているんだ。」


 先ほど、話の腰を折られたマチカさんに代わりエモリさんが改めて説明する。


「… ……私、理由を閃きましたわ!

 きっと試験の成績が思わしくなくて、逃げ出したのですわ!」


 腕を組んで顎に手を当てていたサキさんが、自慢げにとんでもない推論を口にする。

 もしかして、本当に試験の出来が悪くて逃げ出しちゃった?

 まさかね、そんな訳ないよね。皇王様からの命令だし。


 ジト目でみんながサキさんを見つめる中、マチカさんがふとあることに気が付いた。


「そう言えば、今日の認定試験を受けたのは何人ぐらいだった?」


 試験を受けていた教室を思い出す。


「…僕が試験を受けた教室は、たぶん100人を超えてはいなかったと思います。」


「アヤ様、アヤ様とカエデが試験を受けた部屋は何人でしたか?」


「たぶん、ハルトさんが試験を受けた教室と、人数はそんなに変わりは無いと思いますよ。」


「まずいな。完全に見落としてた。

 確かあともう一室…試験で使ってたはず。

 新入生800人のうち約300人…が受けて、その半分が落ちたとしても…

 合格者は約150人か…

 例年並みの合格率ならば…」


「合格者の人数が多いと、なにか問題があるんですか?」


「中級の講義は… 一教室辺り60人前後。

 もしかしたら、3人とも別教室で講義を受けることになるかもしれない。

 そうなると… ハルト君はともかく、護衛のカエデと教室が一緒にならない可能性が高い。」


 そうか、合格者の人数が多いとそういった可能性もあったのか。


「ちょっと待ってくれ。

 さすがに顔の広いおれでも、そこまでの交渉は出来ないぞ。

 相手は教務課だぞ。」


「わかってます。

 ツバキ! 今からイエーカー様に連絡がつけられるか?

 この一件、なんとか今夜中にも事務局長に連絡をつけてもらって、教務課にねじ込んでもらわないといけない。」


「わかりました。ではすぐに…」


 ガチャリ!


「ただいまー。 あれ? 皆さんどうしたんですか?」


 寮の鍵が開いて、カエデさんが戻ってきた。


「説明は後だ。ツバキ頼んだぞ!」


「はい。至急イエーカー様に伝えます。」


 そう言って寮から馬車乗り場に向かおうとする。しかしそこでカエデが一言。


「もしかして、中級の講義の教室の件ですか? もう話はついてますよ。」


 その一言でカエデさんに視線が集まる。


「私ほど優秀なが、任務遂行の障害となる事態をそのまま放置しておくとお思いですか?

 228寮の私とアヤ様、それとは。おなじ講義を受けれるようになってますよ。


 第一、これで恩を売れれば、キナコちゃんとダイフクちゃんと一緒に寝れるチャンスが増えるかもしれないじゃないですか。

 ねぇ、サキさん。ご褒美で十日間追加してもいいのですよ。(ニヤニヤ)」


 最後の一言が無ければ、みんなが拍手喝采してくれたと思うけど。なんか残念。

 サキさんは”ぐぬぬぬっ!”て感じの表情になっている。


 寮内の張りつめた感じが緩んで、エモリさんのお腹の虫が大きな音で不満を叫びをあげた。

 たしかに、僕もお腹空いてきたよ。


 夕食後、カエデさんがキナコとダイフクと一緒に寝ると言い出したけど、サキさんが「明日張り出される成績表とクラス分けを確認してから」と言いきり、さっさと自室に戻ってしまった。

 でも、カエデさんはその言葉を聞いてあっさり引き下がった。

 もっとごねると思ってたけどなぁ。



 今日は「光」の日なので、講義は無い。だけど、ツバキさん以外の全員で揃って教室棟へと成績発表を見に行くことになった。

 寮を出てすぐにサキさんとカエデさんが話しているのを耳にした。


「だから、それはちゃんと結果を確認してからですわ。」


「ほぉ~ん。結果は知れているんだけどなぁ。

 試験前の約束はちゃんと守ってもらいますよ。(ニヤニヤ)」


「ちゃんと合格出来ていたらの話ですわ。」


「あれ~? 忘れてないかな~? ク・ラ・ス・分・け の件。

 ご褒美は二十日間追加ですよ~。」


「昨日は、”ご褒美で十日間”っておっしゃてたじゃないですか!」


「言ったね、認めたね! ご褒美で十日間! きゃっほーい!

 キナコちゃーん!ダイフクちゃーん!今夜は一緒ですね~。」


「な…!」


 うっかり言質を取られてしまったサキさん。

 完全にカエデさんのてのひらの上で踊らされていたようだ。

 二人の会話が聞こえてたのか、みんなも笑いをかみ殺しているよ。


 そんな感じで約2名だけがやいのやいのと騒がしいまま、教室棟の入り口の脇に設置された成績掲示板の前までやってきた。まだ成績表の張り出し前の様だったが、既にかなりの人数の学生が待っていた。


 しかし、一向に成績表の掲示作業を始める気配がしない。待っている学生たちの中に徐々に不安などよめきが広がっていく。

 その学生たちの中には、228寮のみんなも含まれている。


 学生たちの集団の一角がざわついた。

 大きく印刷された成績表を小脇に抱えた教務課の職員が、ざわついていた学生たちの壁を割るようにして現れ、成績表を貼り始めた。

 掲示板一枚に約50人程度つづ、学籍の番号順に・名前・各教科の得点と合否が記載され、その横に各教科ごとに「木」・「火」・「土」・「金」・「水」のいずれかが表記されている。

 

 「木」・「火」・「土」は中級講義のクラスを示し、「金」・「水」は初級講義のクラスを示している。

 合格者はマチカさんが予想した通り、例年と同様の合格率だった。約6割が合格し残りは初級講座からとなったようだ。


 自分の学籍番号を探す学生で掲示板前はごった返している。


「これは…少し時間を空けたほうが良さそうだな。

 そこの喫茶店でしばらく様子を見ようか。」


 エモリさんがそう言って皆も同意したので喫茶店に入った。

 それぞれお茶や軽食を注文し、その場で受け取ると窓際のテーブル席に陣取る。


「毎年朝には掲示し終わって、今頃はもう生徒も少なくなっているのにな。

 今年は発表自体が少し遅れたみたいだな。」


「一番学生が少ない魔導学部でこれですから、他の学部はもっと混乱してるかもしれませんわね。」


 マチカさんの言葉に続いて、ハルエさんがそう呟いた。


「遅れた原因は、きっとあなたの所業のせいですわ!」


「あらぁ? 人聞きの悪い事を言ってほしくはありませんね。

 単純に手間取っただけかもしれませんよね。(ニヤニヤ)

 それにエスギー家だけが申し入れしたとは限りませんよ、他の八大臣家にゆかりのある方も入学されているでしょうし。」


 確かにそうだ。

 他の八大臣家や八十家からの要望があったかもしれない。


 しかしそれにしても、朝からサキさんのカエデさんへのあたりが強すぎるよね。そんなにキナコとダイフクが、カエデさんと一緒に過ごすのがいやなのだろうか?

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