2-7 認定試験

 アヤは躊躇せずに最初にそのタコさんを食べる。ニコニコしながら両手を頬に当てて左右に揺れている。

 この前フナトさんと一緒に食事へ行った時も見たけど、やっぱりかわいい。

 マチカさんの咳払いで我に返り僕も食べ始めた。


 おにぎりの中身は、梅干し、昆布の佃煮、そしてフキ味噌。そういえば、フキノトウはウッスイ峠で野営した時に見つけてみそ汁に入れて食べたな。

 一口。ふんわりとした白米がめちゃくちゃ美味いぞ。寮の食事もものすごく美味しかったから正直期待してたんだ、だけどこれはその期待を軽々と飛び越えてた。

 二口目…。今度は中に入っていた具と遭遇、梅干しだ。梅干しは種が抜かれて、軽く包丁で叩いてあるみたいだ。カリカリの梅干しも好きだけど、この梅干しは包丁で叩いたことでその香りが広がり、酸味と塩味のバランスが白米の甘さを引き立てる絶妙な加減。


 夢中で食べ続け、あっという間に一つ目のおにぎりを完食。

 おかずのタコ姿の腸詰をお箸で摘まみ上げる。真ん中あたりに小さな切れ込みがしてありその部分の皮がそり返り、口を突き出したようにも見える。愛嬌のある腸詰だが一口でパクリ。焼き目の香ばしさとじんわり染み出してくる肉汁。この腸詰はかなりの高級品なのかな?


 他の具のおにぎりももちろん、おかずも美味い。卵焼きはしっかりと出汁の効いた少し甘めの味付け。茹で野菜も塩加減が丁度よく野菜の甘味が感じられる。

 こんなお弁当を毎日食べ続けたら、他のお弁当では満足できなくなりそうだぞ。 


 お弁当も食べ終わり食後のデザートをいただきながらしばし雑談の時間。

 午前中の説明を聞いて不安になってきたので、エモリさん達に聞いてみた。


「皆さんは一年目の講義、どんなふうに組み合わせたんですか?

 あと初級講座の認定試験て難しいのでしょうか?」


「ん~~~。どうだったかなぁ?

 初級は普通に試験合格してスキップしたからなぁ。

 試験が難しいことは無いと思うけど。」


「私もそうですね、昨年で一般教養の上級講座は全部終わってしまいましたし。

 そもそも初級認定は勉強する必要も無かったですしね。」


「僕は歴史学の初級認定試験…ちゃんと勉強したけど、うっかりミスして不合格だったな、それでも上半期で普通に講義に出ていただけで試験合格して歴史学初級の単位貰えたよ。

 今年の上期に歴史学と語学の上級を取れば、一般教養は全部終わりだね。

 あ… そういえば去年の認定試験の問題を残してあったかも。寮に帰ったら探しておくよ。」


「ぜひお願いします!」


「まぁ、ハルトが認定試験の心配する気持ちは判るけどね。

 そういえばアヤ様はどうするおつもりですか? アヤ様なら初級講座の認定試験は問題なく合格すると思いますけど。


 あ…そうなると護衛も同じ講義を受けていないと…

 カエデさん、あなたは勉強の方はどうなんですか?

 仮にも護衛ですよね。アヤ様と同じ講義に出席しないと護衛できませんよね。」


 マチカの話をそれまでまるで他人事のように聞いていたカエデが胸を張って言い切った。


「ふっふっふ。

 たとえ勉強が出来なくても、私の実力なら護衛は務まります。」


「「「「それはダメだろ!」」」」


 アヤとカエデ以外の声が揃って突っ込みを入れた。


「いやはや… これは大問題だな。今夜からカエデさんの勉強会をしないと。」


 そんな状況でも、アヤはデザートのクリームサンドクッキーを食べて、ニコニコしながら揺れていた。



 午後からは専門課程の講義の説明があった。それぞれ担当の講師や教授が壇上に立って話をしたが、はっきり言って複雑怪奇だ。


 魔導工学のゴーレムを例にとれば、部品を構成する素材の知識、素材の加工知識、部品を組み上げる知識、動かす為の魔方陣の知識と最低でも4つ。

 素材だけでも普通の鉱物・石・樹木といった天然の素材だけではなく、迷宮ダンジョン産のミスリル・魔鉄・魔石、錬金術で錬成する特殊な素材と様々な種類。

 そして素材ごとに工具を使った加工・魔法による特殊な加工法、ともかく膨大な範囲の勉強が必要になる。


 迷宮ダンジョン産の素材となると、ある程度自ら収集に出向いて自前で用意する事もある。だから探索学による知識、各個人に合わせた武具・体術・魔法術の訓練が必要になってくる。元々が迷宮ダンジョン探索学科なら悩まずに済むけどね。


 魔方陣学は最初の二カ月で魔法学基礎の基本6属性(木・火・土・金・水・光)の勉強をする。その後に目的に合った特性・魔力量を決めて描くという実習になる。

 適切な魔法文字の組み合わせ、魔方陣の大きさなどのバランスが崩れると思ったように発動しない事も良くあるという。

 僕が聞いた爆発音は、魔道具内の不正確な魔方陣の暴走が原因らしいし… でもよくあれでけが人が出なかったよな。


 錬金術は、構成したい物の物質構造や基本材料を知らなくてはならない。無から有を作り出すことは出来ないので、当然その知識と材料が無ければ全くの役立たず。

 薬品関係の錬成となると、今度は医薬学部へ出向いて講義を受ける必要も出てくる。


 説明の最後にそれぞれの学科の基本となる講義はまとめられて印刷・配布されたから助かった。これを貰えなかったらと思うとぞっとしてくる。


 これからその資料を寮に持ち帰って、どういう順番で講義を受講するか決めるのがかなりの難題になりそう。

 少なくともゴーレム関係はエモリさん、探索についてはマヨーリさんに聞けばなんとかなると思うが、錬金術系は自分で考えるしかないからな。



 僕たち3人が寮に戻ると、キナコとダイフクが出迎えてくれたけど他の人はまだ誰も戻ってきてはいなかった。カエデさんがキナコとダイフクに近づいた瞬間に、2匹とも逃げ出し、そのまま台所にいるツバキさんの元に逃げ去っていった。

 台所からはツバキさんが料理をしている音が聞こえてくる。


 ツバキさんにお弁当のお礼を言って、空の弁当箱をカウンターの上に置くと僕は自室に戻った。


 寮生が全員帰宅し、全員揃って夕食をいただいた。やっぱり美味しい。


 食後お茶を飲みながら、来週の認定試験対策の話が始まる。


「アヤ様は問題ないと思いますけど、護衛のカエデさんの事は盲点でしたわね。」


 ハルエさんの話に他の寮生も頷いた。

 比較的に安全な学術院内と言えども、アヤと護衛のカエデが離れ離れになるのはさすがにまずいと気が付いたようだ。


「ハルトも認定試験は受けるんだよな。」


「そのつもりですけど。」


「なぁ、カエデだけじゃなくて、ハルトも護衛についてもらうか?」


「ハルトの剣術もそれなりだからいいと思う。

 そうだ!忘れてた。去年の問題冊子を探してくる。」


「護衛にかこつけて、変なことをしたら… 解ってますわね。」


 サキさんの圧に思わず頷いてしまった。


「よし決まり! 二人ともダメってことはさすがに無いだろう。」


 一度自室に戻っていたマヨーリさんが居間に戻ってきた。


「あったよ。去年の認定試験の問題冊子。

 これがどこまで解けるか、試しにやってみたらいいと思う。」


「カエデさんもだね。どこが解っていないかで僕たちの教える内容も違ってくるからね。

 …はい!そこ! 逃げないで座ってください。」


 マチカは、こっそり立ち上がって自室に戻ろうとしてたカエデさんに向かってぴしゃりと言い切る。


「護衛するだけって聞いていたのにぃ…。」


「ちゃんと勉強をしてください。

 アヤ様と同じ講義を受けれるようになったら、キナコとダイフクと一緒に一晩過ごせる権利を差し上げますわよ。」


 サキさんがそう言った。


「やる! 絶対に合格する!」


 ダイニングテーブルで模擬試験をする事になった。

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