2-3 『ゴーレム蒼騎士』
マヨーリさんも木刀を手に持ち素振りを始めた。素振りしているだけなのに、なぜか誰かと切り合っているようにも見える。
「僕のは自己流にもならない、子供の頃のチャンバラ遊びの延長ですよ。」
僕はもう一度木刀を振り始める。マヨーリさんからの視線を感じる。
「おはよう。二人とも朝が早いな。」
エモリさんも庭先に出て体を動かし始める。
「お兄ーさまー!! おっはよーございまーす!!」
そう声が聞こえたほうを振り向くと、2匹の大型犬にまるで引き摺られるようにものすごい勢いで走ってくるサキさんの姿が見えた。
そういえばランニングに行く前に居たあの犬たち、戻ってきたら居なかったのな。入れ違いで散歩に行ったみたいだね。
勢いそのままに、サキさんはエモリさんに向かって飛び込んでいく。2匹の大型犬も一緒にダイブ…
一人と2匹を支えきれなかったエモリさんが地面に転がり、その顔を大型犬がべろべろと舐め廻していた。サキさんはエモリさんの胸に顔をこすり付け、ニヘラァとした笑顔を浮かべている。
大丈夫なのかな?この
「うわ! 舐めるな! やめろ!! お前も他の人が見ている前で抱きつくな!」
なんとか2匹の犬とサキさんを引きはがして立ち上がった。
「朝っぱらからひどい目に遭った。
そうだ! ハルト、午後から時間が有るか?
一緒に昼飯食った後に教室棟に行って、おれのゴーレムを見せてやるよ。
教室棟の入り口で待ってるから。」
「はい! 是非! お願いします!」
「その前にハルト君、僕と
「じ…
「
ハルト君は自分の剣筋の確認もできるし、僕は相手がいないと想定しずらい部分もあるし。10分だけでいいからやってみないか?」
「5分だけですか。わかりました。」
ゆっくりと振る剣なら、イエーカーさんの時みたいな事にはならないだろう。
マヨーリさんと向き合ってゆっくりと打ち合い始めた。
ゆっくり振ってくれるおかげで、どこを狙って振るっているかわかるし、その剣を受けた後どう切り返すか考える時間もある。でもゆっくり動かす分、剣筋がぶれないように気を付けながら一回一回丁寧に…。
そういえば、キガクレ先生とのチャンバラごっこはこんな感じだったな。
あっという間に10分が経過した。
「やっぱりハルト君の剣筋って独特で面白いね。誰から習ったのその剣。」
「習ってなんかいないですよ、小さい頃に赴任してきた先生や他の子たちとチャンバラごっこをして遊んでいただけです。」
「へぇ~、そうなんだ。なんていう先生だったの? おじいさんの先生?」
「キガクレ先生っていう方です。おじいさんでは無いですよ。
年は…20台半ばぐらいだったかな?」
「そうか。優しい先生だったんだろうね。」
「ええ。とても優しい先生でしたよ。」
「おーい! みんな! 朝飯だよ!」
寮の中から、マチカさんが声をかけてくれた。
寮に入り汗をかいた僕とマヨーリさん、顔を涎まみれにされたエモリさんと3人で交代してシャワーを浴び食卓に着いた。
朝食後、寮生たちはおもいおもいにくつろぎ、ゆっくりとお茶を飲んでいた。
エモリさんはツバキさんに昼食不要と伝え先に教室棟に向かった。僕も昼食不要と伝えておかないと。
お茶を飲み終わった寮生は、徐々にそれぞれの自室にこもり自習を始める。
居間に残っているのは、小型犬と猫と戯れているサキさんと僕だけ。僕も自室に戻って予習を始めた。
切りの良いところまで進めて、時計を確認するとお昼少し前になっていた。学生証も持って鍵を閉め、ツバキさんに声をかけて外出した。
「彼、出かけましたね。」
「そうですね。では早速準備をしてお迎えしましょう。」
教室棟の前でエモリさんが立っているのが見えた。慌てて駆け寄り謝る。
「すみません。お待たせしました。」
「大丈夫だよ。おれも出てきたばっかりだし。
さて、何を喰いに行くかな?
ハルトは何を喰いたい?」
「そうですね… このところツバキさんの作る食事が美味しすぎて、食べ過ぎぎみなので、軽くてあっさりした物を食べたいですね。」
「軽くて、あっさりかぁ…
… なら、蕎麦はどうだ! 超美味しい店知ってるぞ!」
「蕎麦ですか。 いいですね。(ニヤ」
実は僕は麺類が大好きなんだ。
茹でてから水で締めて、ざるに乗せられた蕎麦。
最初はつゆや薬味も使わずに蕎麦を噛みしめて味わう。蕎麦の香りが口の中いっぱいに… いけない。涎が出てきた。
大柄なエモリさんの案内で目的の蕎麦屋に到着。サッとエモリさんが暖簾をくぐって中に入ったのですかさず後を追う。
太めで大柄なのに、機敏な動きで昼時で込み合った店内の小上がりの席を確保、その対面に僕も座る。
「暖かいのと冷たいのがあるが…」
「冷たいざるで!」
間髪入れずに答えた僕を見て、エモリさんはこいつ解ってやがると言った表情をして大きな声で注文する。
「へぎの大盛り! 二つ!!!」
へぎ? 僕が頼んだのは”ざる”なんだけど…
待つことなくすぐに出てきた蕎麦を見て安心した。四角い器の中に
ご丁寧に器の端には薬味の乗った小皿が添えられている。
「さぁ食おう!」
エモリさんの一言でいただきますをして蕎麦だけを口にする。
! ! !
噛みしめると口の中一杯に蕎麦の香り広がる。香りがが強い!
もしかして十割蕎麦かな?
でも、十割蕎麦なのに、こんなにのど越しが… 良いなんて…
僕の顔を覗き込んだエモリさんがしたり顔で聞いてくる。
「驚いたか? つなぎに海藻を使って、小麦は使ってないからな。
香りが凄いだろ。」
僕は、口の中に残っていた蕎麦を飲み込みながら、無言で頷く。
そして次の一口はつゆをつけて一気に啜る。
ズゾゾッゾゾォー!!!
つゆは蕎麦の香りに負けない、出汁の効いた濃い目になっている。
目の前に座るエモリさんも同じように
ズゾゾゾッゾォー!!!
お互いに、蕎麦を飲み込みながら目で会話する。
『どうだ!美味いだろー!』
『はい!これは絶品です!』
半ばまで食べ終えて、卓上の片隅にある入れ物に気が付いた。
”イソーゴロー” そう書かれている。胴の中央部がへこんだ独特の形の器。
間違い無い! あれだ!!
僕は手を伸ばしてその器を手にして、先端の木栓を抜き残っていた蕎麦に少しだけ振り掛ける。
それを目の当たりにしたエモリさんは再び目で語り掛ける。
『そいつは邪道だ!』
それに対して僕も目で答える
『邪道かどうかは、食べて判断してください!』
エモリさんは、少しためらった後に僕と同じように器の中身を蕎麦に振り掛けて食す。
次の瞬間、目をクワッ!と見開くと、一気に残っていた蕎麦を喰いつくす。
そして店内に響き渡るように一際大きな声で!
「へぎおかわり!!」
その後、エモリさんはしばらく苦しそうにお腹をさすっていた。
会計はエモリさんが持ってくれた。
『先輩! ごちでした!』
店を出て二人で教室棟に向かう。
エモリさんの後をついていくと、倉庫の様な大きな部屋にたどり着く。
「じゃあ、おれのゴーレムを見せてやろう。」
そう言って、部屋の片隅にあるパネルに何かを打ち込んでいく。
それが終わると床下から”ゴゴゴゴッ!”っという振動と音が響いてきた。
その部屋の床中央の割れて左右に開くと、下から
完全にゴーレムが現出し終わると、ゆっくりと床が元の状態に戻っていく。
「こいつが、おれのゴーレム【
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