第10話 決闘はワンパンだった。
「おいっ! オルソン! たかが木っ端貴族のディジョルジオ家が、姫様や俺を差し置いて、どういうつもりだ。目障りだからおとなしくしとけ」
一人の男子生徒が絡んできた。
彼の名はリシパ。
いわゆる噛ませキャラ――プレイヤーに実戦経験を積ませるためのやられ役だ。
本来なら、リオンに「平民のクセに調子に乗るな」と絡んでくるのだが、リオンが女になったのと、俺が首席を取ったせいで、こっちに矛先が向いたのだろう。
「おとなしくするのはどっちだ?」
「チッ、決闘だッ!」
<リシパに決闘を申し込まれました。受けますか?>
ゲームなら、このアナウンスが流れる。
だが現実では――そんなものはない。
演習場に移動してリシパと決闘することになった。
演習場――ゲーム内でも重要な施設だ。
戦闘のトレーニングができて、実戦形式の決闘も行える。
演習場の特徴としては、どんなにダメージを負っても、回復することだ。
なので、怪我したり、死んだりという心配は一切ない。
この世界でも同じだと、教員から説明されたのでひと安心だ。
俺が怪我するとは考えていないが、リシパ君に怪我させるのは忍びない。
彼はゲームという制約に縛られて、行動したに過ぎないのだから。
決闘には勝敗を決めるルールがいくつかあるが、今回は「戦闘不能になるか、降参を認めるか」というスタンダードなヤツだ。
俺とリシパは20メートル離れて向かい合う。
これだけ離れているのは、「遠距離攻撃キャラが不利にならないように」という理由からだ。
二人とも学生服姿。
テスタメンティア学園の制服は、ゲームでの初期装備で防具扱いだ。
お金が貯まるまでは制服でダンジョンに潜るのだ。
どこから聞きつけてきたのか知らないが、Sクラスだけでなく他のクラスの生徒も集まり、ギャラリーは50人以上いる。
皆、初めての決闘見物ということで、緊張した空気が漂っていた。
それはリシパも同じで顔がこわばっている。
俺はもちろん、なんの気負いもない。
「それでは、戦闘開始!」
審判を担当する教員の声で決闘が始まる。
といっても、俺にとってはただの作業だ。
そもそも、リシパはゲーム内でも最弱キャラ。
普通に戦えばまず負けない。
彼には申し訳ないが、この決闘もチュートリアルのひとつに過ぎないのだ。
入学試験でのバトルは物理戦闘のチュートリアル。
リシパ戦は魔法戦闘のチュートリアルだ。
リシパは作中では珍しい物理職と魔法職のハイブリッドタイプだ。
もちろん、どっちも中途半端。
ダメな方のハイブリッドだ。
新しい剣技を覚えたから――。
新しい魔法を覚えたから――。
何度も何度も主人公に挑んでは返り討ちにあう。
まさに、噛ませの為の存在で、少し可哀想になるほどだ。
とまあ、そういうわけで、この決闘、最初のうちは遠距離からの魔法の撃ち合いになる。
ガチ勢にとっては、リシパの放つ魔法を全回避で接近戦に持ち込んで勝つ――という遊び方もできるが。
俺が選ぶのはどちらでもない。
撃ち合いも、避けゲーもしない。
ただシンプルに、ステータス値でのごり押し。
レベルを上げて物理で殴る――ようなもんだ。
開始前からスタンバイしていたリシパが合図と同時に魔法を発動させる。
『――――』
主人公は三択を迫られる。
(1)回避する。
(2)こっちも魔法で相殺を狙う。
(3)魔法を防御し、カウンターで魔法を放つ。
この中で最善手は(3)だ。
リシパが自信満々で放つ魔法だが、その威力はたいしたことない。
受けて、反撃して――これだけで勝てる相手だ。
このせいで、初見プレイヤーは勘違いする。
ああ、楽勝じゃんと。
しかし、この後にプレイヤーは絶望する。
テスレガが優しいのはここまでなのだ――。
さて、俺はどうするか――4番目を選ぶ。
俺はリシパに向かって歩く。
走らず、いつも通りのペースで。
無表情のまま。
その間、リシパの魔法が直撃するけど、ダメージはゼロ。
これがレベル差の暴力だ。
最初から、リシパがどうあがいても、絶対に勝てないのだ。
「ヒッ……」
俺が一歩進むたび、リシパの顔に浮かぶ恐怖の色が濃くなっていく。
奴はムチャクチャに魔法を連発しようとするが、慌てすぎて魔法発動に失敗する。
そこであわてて剣に切り替え、斬りかかってくるが――。
――パシッ。
俺はリシパの一歩手前で立ち止まり、リシパの剣を片手で掴む。
「なっ……えっ……」
驚愕しているリシパに向かって、俺は――。
『――【
レベル8で覚える闇魔法だ。
闇の魔力で対象を操る魔法だが、今回は
無表情の俺がよっぽど怖かったようで、リシパは青ざめ、今にも気を失いそうだ。
俺はヤツの喉元にダガーを突きつける。
「どうする?」
「まっ……参りました」
「勝者、オルソン!!」
審判が宣言し、俺はリシパの拘束を解く。
その場に崩れ落ちるリシパ。
まあ、レベル1のリオンで勝てるんだから、今の俺が相手だと、こうなるのは必然だ。
そして、ギャラリーは俺のあまりの規格外ッぷりに静まりかえっている。
「おとなしくするのはそっちだったな」
「…………」
俺が上から投げかける言葉に、リシパは無言で返す。
ゲームだとこの後もしばしばちょっかいを出してきて
なので、完膚なきまでに実力差を見せつけたのだが――。
心が折れてしまったか?
ちょっとやり過ぎたかも――。
「ほら、立て」
後悔の念にかられながら、リシパに向かって手を差し伸べる。
俯いたままだったリシパは顔を上げ、俺の手を掴む。
「アニキっ!」
キラキラと輝く目、嬉しそうに弾んだ声。
グッと俺の手を握り、リシパは立ち上がる。
「アニキ、凄いっす! 一生ついていくっす! 舎弟にして下さい!」
リシパは深く頭を下げる。
どうしてこうなった……。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『午前中は座学だ。』
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