#14 生ハムの謎
昨日約束した通り、ランちゃんが放課後にシャイゼに連れて行ってくれた。
シャイゼとはシャイゼリアンというイタリア料理のファミリーレストランのことで、この付近では学校の最寄り駅の反対側の正面通り沿いにあって、駅から5分程度の距離。そこまでを昨日と同じように3人でお喋りしながら歩いた。
今日もランちゃんと俺ばかりが喋っていたが、今日のミヤビちゃんは口数こそ少なかったけど、相槌を打ってくれたり時折笑顔も見せてくれて、本当の仲良し3人組みたいで、ちょっと嬉しかった。
お店に着くとランちゃんを先頭に入店し、店員さんにテーブル席に案内して貰うとランちゃんが一番に座ったので俺はその対面に座ろうとしたが、そこにミヤビちゃんが座ってしまった。
てっきり女子二人が並んで座ってその対面に俺が座るものだと思っていたので、ドコに座れば良いのか分からなくなってしまった。
しかし、こういう場で女性を待たせるのはマナー的に良くないので、速やかにお隣のテーブル席に移ろうとすると、ミヤビちゃんが「あんみつくん、こっち」と言いながら、ミヤビちゃんの座るシートの空いたスペースをポンポンと叩いた。
なんてこった。
小学5年の妹ですら家族で外食の時には俺の隣に座るのを拒否すると言うのに俺を隣に座らせようとするなんて、友達とはそこまで親密なものなのか?
いや、待てよ。
もしかして、ペットと思ってる可能性もまだ否定できない。
ビジュアル的に豚っぽく見られる自覚はある。
最近では子豚を家畜ではなくペットとして飼育する人も居るらしいしな。 ペットから目を離さない様に、隣に大人しく座らせようとしているだけかもしれないのか。
いやしかし、今日のお昼ご飯の時はそんな感じは無く、俺の隣に自分から来てたな。
ならやはり、友達だから隣に座るのはOKなんだと判断しても大丈夫か。
「すまない。もし俺の体臭が気になるようなら直ぐに言ってくれ。ファブリーズを持ち歩いてるから、対処は可能だ」
「あんみつくんは臭くないからその必要ない」
「そうか。ならよかった」
ミヤビちゃんの隣に座り、そんなやり取りをしていると対面に座るランちゃんがニヤニヤしていた。
いやニヤニヤどころか、ニタニタしていた。
何がそんなに面白いのか分からなかったが、何だか揶揄われている様なバカにされている様な感じがして、俺はこういうのはいつものことだから平気だが、俺のせいでミヤビちゃんまでそんな風に見られている様で、申し訳なかった。
俺が申し訳なさで気落ちしていると、テーブルの下でガタッと音がしたかと思った瞬間、ランちゃんが「痛った!?」と突然叫んだ。
「どした!?ケガでもしたのか???」
「いや、別に大したこと無いし・・・」
さっきまでニタニタしてたのに、今度は急に大人しくなった。
「余計なお節介だとは思うが友達として忠告させて貰うと、こういう場で大声を出すと他のお客さんや店員さんに迷惑掛かるからな、気を付けた方が良いぞ」
「あーうん、そだね。気を付ける」
俺がランちゃんとのやり取りしている間、ミヤビちゃんはメニュー表を見つめながら無言のままで、相変わらずのマイペースさんだった。
メニューをどうするかを3人で相談することになった。
俺は、生ハムのピザとコーラと決めていたのだが、ランちゃんが「みんなでシェアしよーぜ」と言い出した。
「シェア?シェアとは共有するということか?」
「そそ。それぞれ注文したの分けて、交換しようってこと」
「つまり、ピザなら3等分に切り分けて、二人に一切れづつあげる代わりに、二人からも何か分けて貰えるということか?」
「そういうこと! あんみつは、生ハムのピザでしょ?私はパスタにしよっかなぁ。ミヤっちは何にする?」
「ドリアとティラミス。あとドリンクバー」
「ピザのシェア方法は分かったが、コーラも分けないといけないのか? こういうお店でのコーラは恐らくそれほど量が多く無いから分けるとなると俺は少し困るのだが」
「ここドリンクバーだし!好きなだけコーラ飲んで! ミヤっちはドリアとティラミスとドリンクバーね」
「そうか。なら安心だ。なんだか勉強不足ですまない。何せ学校帰りに友達とこういう場を訪れるのは初めての経験でな、ローカルルールなど全く知らないんだ」
「いや、シェアは別にローカルルールじゃねーし、っていうか気にすんなし。あんみつがそういう経験無かったの知ってるから」
「あんみつくんの生ハム楽しみ」
「そうだな。俺も楽しみだ」
「じゃあ店員さん呼ぶよ!」
今日もランちゃんが仕切ってくれるので、俺のような不慣れな男でもスムーズに注文することが出来た。
ランちゃんは、とても面倒見が良い人だ。
昨日公園でミヤビちゃんの事を話していた時も、ミヤビちゃんのことを本当に心配していたし、こうやってファミリーレストランに不慣れな俺には親切丁寧に教えてくれるし、俺やミヤビちゃんにとっては保護者の様な存在なのかもしれないな。
注文も終えて、しばらく待つと3人が注文した料理が次々とテーブルへ運ばれてきた。
生ハムのピザは、焼いた生地の上に大きな生ハムが3枚ペローンと乗っていたが、どうやら後から乗せてて生ハム自体は過熱されていない様に見え、想像していた物とは違っていた。
俺は我慢出来ずに料理を運んでくれた女性の店員さんに質問をした。
「すみません。生ハムは焼いてしまったら生では無くなるので生地を焼いた後に生のまま乗せているんですか?」
「えーっと、生ハムは乾燥状態で熟成させて製造しているのでそもそも生モノじゃないんですよ。お魚の干物みたいなものですね。スライスにすると見た目が生っぽく見えるからそう呼んでるそうですよ。 それで、生地を焼いた後に乗せるのは、こうするのが一番生ハムが美味しく頂けるからなんです」
「なるほど!確かに干物は生モノではないな。 あいや、お仕事中なのにコレはすまなかった。大変勉強になりました。ご丁寧に説明して頂き、ありがとうございます」
「いえいえ~、ごゆっくりどうぞ~」
「生ハム、奥が深い」
「そうだな。しかしとても勉強になった」
「っていうか、早く食べよ!」
生ハムの謎が解明されて俺とミヤビちゃんが感心していると、ランちゃんはお腹ペコペコなご様子。
3人で「頂きます」してから食事を始めた。
生ハムのピザはとても美味しかった。
いつもはデリバリーを頼んだりスーパー等で購入した冷凍食品を食べているのだが、こうしてお店に来て焼き立てを食べたのは初めてのことだった。
それに、ランちゃんに分けて貰ったカルボナーラもミヤビちゃんに分けて貰ったミラノ風ドリアも美味しかった。
シェアというのは、色々なメニューを少しづつ味わい楽しむことが出来る非常な画期的なシステムだった。
但し、ウチの家族では間違いなく妹が拒否するだろうから、我が家でシェアをすることは無いだろう。
_________
少し余談。
作中で登場するファミレスのモデルとなっている某有名ファミリーレストランでは、生ハムのピザは既にメニューから消えている模様です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます