#12.5 迎えた運命の日
中学の3年生ではあんみつくんとは別のクラスになったけど、ずっと気になっていた。 でも、自分から話しかけるのは無理だったし、ランコには知られたくなかったからどうすることも出来なくて、ずっとモヤモヤしていた。
そんな中でも、少しだけどあんみつくんの動向を知る機会もあった。
修学旅行では、班での自由行動時間でも、あんみつくんは班の人たちとは別行動で一人で公園のベンチに座り、読書をしている姿を見かけた。
体育大会では、障害物競争で転んでビリになって生徒達からは全く応援されていなかったけど、いつもの様に恥じることなく堂々とゴールしていた。
夏休みには、夜に一人でジョギングをしている姿を何度も見かけた。
そんな姿を見る度に「今日もあんみつくんは、一人だ」と、私は安堵していた。
当時は、なぜ安堵するのか自分でもよく分かって無かったけど。
そして、志望高校を決める時期に、ランコが貴重な情報を教えてくれた。
「ミヤっちも一緒の高校行こう!」
「どこの高校?」
「北高!電車通学とか憧れてたんだよねぇ」
何故そんな物に憧れるのか理解出来なかったけど、学力的には私もランコも問題ないレベルの高校だ。
「あ、そういえば、あんみつも北高志望なんだって」
「え!?あんみつくんから聞いたの?」
「ううん。ウチのママがあんみつのお母さんから聞いたらしくて、昨日言ってた」
「私も北高にする」
即決した。
◇
私もあんみつくんもランコも無事に北高に合格することが出来て、入学式を迎えると、3人とも同じクラスとなった。
高校生になったあんみつくんは、相変わらず一人で周りから距離を置かれたままだったけど、少しだけ様子が変わっていた。
一番に気になったのは、髪型。
中学の時は、いつも寝ぐせ付いててボサボサだったのに、短くカットされてて寝ぐせも直してくるようになって、以前よりはサッパリしていた。
それと、あの印象的なニコニコとした笑顔を見せないようになっていた。
そして、髪型と表情が変わったお蔭か、少しだけ大人になったような印象を受けた。
そんなあんみつくんが同じ教室に居るのだから、気になって仕方なかった。
無意識に目で追ってしまい、それが本人に気付かれることは無かったけどランコにはバレてたみたいで、よく学校帰りに「あんみつのことがそんなに気になるなら、話しかければいいじゃん」と言われ、その度に「別に気にしてない」と素直になれずにいた。
そんな中途半端な態度のまま夏休みになった。
夏休みに入ると、ランコが「野球チーム作ろう!」と言い出した。
メンバーも、小学校時代のガールズのチームメイトに声を掛けていると言う。
小学校卒業と同時に引退していたから、しばらく野球はしてなかったけど、今は丁度夏休みで時間があったし、久しぶりにチームメイトたちに会いたかったので、ランコの誘いに快諾した。
草野球チームで公式なリーグ戦では無く、同じようなガールズの草野球チームと定期的に試合するだけだったけど、やっぱり楽しかった。
夏休みの間、あんみつくんに会うことは出来なかったけど、野球のお蔭で充実した夏休みを過ごすことが出来た。
そして2学期初日。
私にとっては運命的な日となった。
クラスでは朝のHRで席替えが行われた。
残念ながらあんみつくんとは離れた席になったけど、ランコがあんみつくんと隣の席になり、いつの間にか仲良くなっていた。
まさかあのあんみつくんが誰かと仲良くなるとは思ってもみなくて、内心はショックだったけど、後でランコからは「今日一緒に帰ろうって誘ったし、話せるチャンスだよ」と言われ、ランコがお節介であんみつくんと仲良くなって私が話せるチャンスを作ってくれたことを知った。
認めたくないけど、持つべきものは友達だった。
ここは素直にランコのお節介を受け入れ、私も一緒にあんみつくんと帰ることにした。
3人での帰り道は、最初は緊張して全然話すことが出来なかった。
でも、ランコが上手い事会話を回してくれて私にもあんみつくんにも話を振ってくれたお蔭で、あんみつくんの方から私に話しかけてくれたりして、少しづつだけど、返事が返せるようになっていた。
そんな緊張しながらも、あんみつくんとの距離が縮まるのを感じながら歩いていると、トラブルが発生した。
老人が運転する自転車がブレーキを掛けずに突っ込んで来て、私を守ろうとしたあんみつくんに追突した。
最初、何が起きたか分からなかった。
あんみつくんがいきなり私の眼の前に立ったから、ビックリして身構えた瞬間、自転車に追突されたあんみつくんが崩れ落ちた。
ランコが慌ててあんみつくんの心配をしてたのに、私は状況が呑み込めなくて声が出せなかった。
なのに、何か声を掛けないといけないと思っても声が出ない。
でも、あんみつくんは何事も無かったかのように立ち上がると、自分のことよりも私のケガの心配をした。
あんみつくんこそ大丈夫?
私の為に、ごめん。
助けてくれて、ありがとう。
言うべきことがあるのに、声が出ない。
ずっと周りと距離を取って一人で過ごしてきた私には、こういう時にスムーズなコミュニケーションが出来なかった。
でも、何とか感謝を伝えたくて、手に持っていた私のソフトクリームを差し出した。
あんみつくんが私を庇ったせいで自分のソフトクリームを落としてしまったのだから、私の分をあげれば良いんだと、その時はそれしか思いつかなかった。
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