第12話 エンドレス締め切り生活を体が求めている 

 前の締め切りが終わったら、次の締め切りが来るものだろう?


「はぁ……やっぱり締め切りって必要だわぁ~」


 担当ちゃんに原稿を渡してスッキリ爽やかな気分でベッドに倒れ込む私。


 うーん、この感じ。懐かしい。


 ストレスレスな侯爵夫人生活のおかげで緩み切っていた気持ちに喝を入れるため、締め切りを設定しましたの。


『えっ? いいんですか?』とか、担当ちゃんが困惑気味にしていたけど。


 よく分からないわぁ~。締め切りはあったほうが仕事の進みが早いでしょ。


『ちょっと詰め込み過ぎじゃないですか?』とか、言われたけど。


 昔に比べたら、だいぶ余裕のあるスケジュールよ。問題あるわけないじゃない。


『結婚なさったから生活に慣れるまでは無理をなさらない方が』とか、言われたけど。


 結婚したから無理ができるのよぉ~。私、何もしなくてもいいのよぉ~。使用人ちゃんたちが全部やってくれるからぁ~。ホント、私は生きてるだけでいいのぉ~。


「次は何を書こうかしらね……」


 一応、プロットを担当ちゃんに見て貰ったのだけど。


『えっ? この内容で書くのですか?』とか、若干引き気味に言われちゃったのよね……。


 それはいいじゃない。私は書きたいモノを書けるように結婚したのだから。書きたいモノを書いても……。え? コンプライアンス的に問題が? それは大変ね……。ちょっと直さないとマズイかしら……。


「ふぅむ。……私は何を書きたかったのかなぁ……」


 お金のためではなくて。

 私が書きたいモノを書けるとしたら。

 ずっと、何を書きたいと思っていたのかしら?


「冷静に考えると……思いつかないものね」


 私はひと眠りするとガバリと起き上がり、奥さま部屋に置かれた豪華執筆机の前に陣取った。


 ふと窓の外に目をやれば、出掛けていく大男トーマス・ニコルソンの姿が目に映る。


「またペラン王子殿下の所へでも行くのかしら?」


 なんとなく呟く。

 

 何の義務も課されていない私は、最後に夫となったトーマスと顔を合わせたのがいつだったのかを思い出せない。どうでもいいけど相変わらず無駄に金髪がキラキラしてんのムカつく。


「別にいいんだけど……」


 私は装う事にも、食にも、たいして興味がないし。


 ロザリーの相手もメイベルがしてくれるから必要ないし。


 お金の心配も要らないし。


 私は、私のしたい事だけをしていればいいのよ……。


「何を書くか……」


 そうよね。売上を考えなくていいのだから、無理に官能ロマンチックシーンを入れなくてもいいのよね。


「いっそ、官能サービスシーンゼロにするっていうのも手よね」


 そうよ、そうよ。エロ描写サービスシーンを求めている読者さんばかりではないのよね。私が嫌いな方ではないので忘れていたわ。


相棒バディものを書くのも良いわね」


 やっぱり男性を書く方がよいけれど。男性同士のラブを描くBLよりも、男同士の熱い友情が好きという方も多いものね。主人公同士が強く結びついたブロマンスも良いわね。私も好きよ。


 ブロマンスは男兄弟という意味のbroと、ロマンスという意味のRomanceを組み合わせた造語だそうよ。まぁ、ロマンスも好きだけど現実問題、恋愛には破局もつきものよね。友人以上だけど恋愛感情ではない、それでいて絆がとんでもなく強いヤツは、長持ちするのよねぇ。それはそれで良きよ、良き。


「冒険でも、させちゃおうかしら?」


 私は思いついたものをプロットに仕上げて、担当ちゃんに渡した。

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