第6話 試験2

「第二試験会場はこちらになりまーす!」



 第一試験を終えた俺は、たった今次の試験会場へ到着したところだ。



「おーラルフきたかー!さっきの的当てどうだったよー!」



「ラルフ、強すぎ。」



 ケントとニアは俺より先に第一試験を終えて、この会場に到着していた。

 


 ニアは遠目に俺の的当てを見ていたらしく、何故か誇らしげな顔をしていた。



 かわいいやつめ。



 ちなみにケントは75点だったらしい。



 あの貴族の坊ちゃんの言葉を借りるなら、『まぁまぁ』ってとこだな。



 俺たちがお互いの試験結果を報告していると、試験官が第二試験の説明を始めた。



「それでは第二試験の説明を始めます!」



 要約すると、第二試験は受験生同士の実戦形式との事だ。


 

 魔法もスキルも全て使っていいが、相手を殺そうとしたりするなど、常識の範囲から逸脱した行為をした場合は失格となる。



 剣については木剣を使用するとの事だ。



 そして勝敗に関しては、相手が気絶する、もしくは降参をした場合に勝利とするらしい。



「それでは受験番号1235番!3476番!舞台へ上がってください!」



「おっ!早速俺からか!腕が鳴るぜぇ〜!」



 ケントは番号を呼ばれると、力強く腕を回してから舞台へ上がった。



「ふんっ!僕の相手はその平民か!」



 続いて相手の貴族が、自信ありげに舞台へと上がる。



「おい平民!光栄に思え!サーペント伯爵家次男であるこのラートル様が、薄汚いお前の相手をしてやるんだ!せいぜい足掻くんだな!」



 なんだコイツ……



 あまりにも小物感あふれる、ラートル様とやらの発言に俺がドン引きしていると、ケントが口を開いた。



「ハァ〜……」



「なんだ平民?怖気付いたか?」



 ラートルが見下した表情でケントに尋ねる。

 


「弱い犬ほどよく吠えるんだよなぁ〜?」



 くすくすと笑いだす受験生たち。



「貴様ァ……!」


 

 ラートルはギリギリと歯ぎしりをしながら、ケントを睨みつける。



 まぁこの勝負の結果は見えているな。



「それでは両者構えて、始め!」



 試験官が合図をすると、ラートルは詠唱を始めた。



「風よ、我が敵を切り刻め!ウィンドカッター!」



 明らかに負の念のこもった、中級風魔法『風の刃〈ウィンドカッター〉』が真っ直ぐにケントへと放たれる。



「平民如きがこの僕に叶う訳がない!ズタズタにしてやる!」



 だが、残念だったな。



 お前レベルじゃあ、ケントに傷一つつける事は出来ない。



「ハッ!当たるかよ、そんなもん!」



 そういうとケントは、ラートルの魔法を華麗に避けてみせた。



「スキルを使うまでもねぇ!」



 余裕の表情でケントは、すぐさまラートルとの距離を詰める。



「ひぃっ……!!」



「じゃあな!お喋り坊ちゃん!」


 

 ケントがそう言うと、野球のバットの様にフルスイングで振られた木剣がラートルの横っ腹に直撃した。

 


 そしてその衝撃で、ラートルはそのまま舞台の外まで吹っ飛んでいってしまった。



 見事なホームランである。



「貴様ァ……覚えておけよ……」



 ラートルはそう言い残して気を失った。



「そこまで!勝者3476番!」



「へっどんなもんよ!」



 当然の結果だな。



 この5年間、共に研鑽を積んだからこそ分かる。



 ケントがあんな勘違い貴族に、実戦形式で遅れをとる訳がなかったという訳だ。



「イェーイ!ラルフー!ニアー!勝ってきたぜー!」



 ケントが上機嫌で舞台から降りてきた。



「あぁ、見事だったぞ」



「ん、私もスッキリ。」



 へっへーんとドヤ顔のケント。



 どうやら貴族相手に実力が通用して嬉しいようだ。



 共に5年間修行したケントの努力が報われたような気がして俺も嬉しい限りである。



 そして救護班が気絶しているラートルを回収するとすぐに、試験官が次の番号を呼んだ。



「次!4255番!3466番!舞台へ上がってください!」



「ん、今度はわたし。」



 どうやら次はニアの番のようだ。



「頑張れよー!ニア!」



「手加減してやるんだぞ」



「ん、相手による。」



 ニアの相手はどんなやつだろうか。



 ニアがトコトコと舞台へ上がると、すでに舞台上で待機していた女が口を開いた。



「あなたが私の相手かしら?ずいぶん小さいわねぇ?お子様はお家に帰ったらいかがかしらぁ〜?」



どいつもこいつも、いちいち憎まれ口を叩かなければ気が済まないのだろうか……



 だがニアも負けていなかった。



「おばさん。」



 ニアの一言でケントの時と同様、受験生たちがくすくすと笑いだす。



 中にはツボってしまって、笑いが止まらなくなっている受験生もいる。



「私は15よ!あんた!この私にそんな態度とってタダで済むと思ってないでしょうね〜?」



 顔を赤くして騒ぎだすおばさん。



 すると、周りの受験生がざわつきだした。



「あいつ……もしかして『影縫いエミリー』じゃないか……?」



「おいまじかよ……この前の盗賊団殲滅の功労者じゃねぇか……なんでこんなところに……?」

 


『影縫いエミリー』



 冒険者だろうか?



 それにしても盗賊団殲滅の功労者か、只者では無さそうだ。



「ふふ、分かったでしょ?あなたじゃ私には勝てない。怪我する前に降参しなさい」



 エミリーは真面目な表情でニアに忠告する。



 だが、その程度で引くニアではない。



「怪我するのはそっち。」



 ニアの目が燃えている。



 どうやら本気でやるつもりだ……



「生意気なちびっ子ね!どうなっても知らないんだから!」



「それでは両者構えて、始め!」



 試験官の合図と共に、まずニアが動き出した。



「刀剣生成・大地付与!〈ソードファクトリー・アースエンチャント〉」



 ニアは土属性を付与した事によって、ハンマーのような形になった剣槌という表現が正しい剣を空間から生成する。



「どっ……こいしょー!」



 そして掛け声と同時にニアが地面に向かって剣槌を振り下ろすと、地面がエミリーを終点として一直前に割れ始めた。



「ちょっと!なによそれ!」



 通常の土魔法にそんな魔法は存在しない。



 明らかに異質なニアの技に驚きながらも、エミリーはギリギリのところで横へローリングして回避した。



「はい、おわり。」



 しかし回避した先に、ニアが先回りしておりエミリーに剣槌を振りかざす。



 誰もがこれで決まりと思った瞬間、突然ニアの動きが止まった。



「甘いわよおチビちゃん?」



「ぐぬぬ……動けない……。」



 剣槌を頭上に振りかざした状態で、ニアの動きが止まってしまったのだ。



「ふふふ、苦しそうね?大丈夫〜?」



 エミリーは余裕の笑みを浮かべている。



 一体何が起こったんだ……?



 ニアの動きには何も問題なかったように見える。



 となると……スキルか!



「ふふふ、私のスキル『影縫い』は相手の影を針で固定する事で本体も動けなくできちゃうのよ〜?」



 よく見ると、ニアの影に小さな針が一本刺さっていた。



 わざわざ自分のスキル効果を喋っているのもエミリーの余裕からくるものなのだろう。



 中々強いやつがいたものだ。



「子供を痛めつけるのは趣味じゃないんだけど、悪く思わないでね〜?」



 だが、ニアはそう簡単にはやられない。



「刀剣生成・暗黒付与!〈ソードファクトリー・ダークエンチャント〉」



 ニアの詠唱と共に生成された剣は、まるで本体そのものが影のような漆黒の見た目をしており、日本刀のような形をしていた。



 だが『影縫い』のスキルによってニアは動けないままだ。



 生成した暗黒刀はニアの手に握られる事なく、舞台上に突き刺さった。



「あはは!無駄な足掻きだったようね!それじゃ、これで終わりよ!」



 エミリーが握っている木剣をニアに振り下ろし、その場にいる全員が勝負アリかと思った。



 だが、予想外な事が起こる。



「ギリギリセーフ。」



 なんとスキルで動けないはずのニアが、エミリーの剣を剣槌で受け止めたのだ。



「は!?なんで動けるのよ!ありえないわ!」



 はじめて自分のスキルが破られたのか、エミリーは呆然とする。



 すると、会場に声が響く。



「ねぇ!あれ見て!」



 受験生の1人が指差した先は、舞台の床だった。



 全員がその声に反応して舞台へ目を向けると、なんと舞台全てが闇に覆われていたのだ。



「あえて床に闇属性を付与した刀を刺すことで床一面を暗黒に染めたのですなぁ〜、つまり『影縫い』の対象となる影が他の影と混ざって無くなれば、その効果も切れるって事かと〜、興味深いゾ……」



 分析が好きそうな受験生がメガネをクイっとしながらボソボソと早口で呟く。



 スキルオタクか何かだろうか。



 オタクはさておき、ニアの戦闘センスが一級品である事は間違いない。



「くっそぉぉくそくそくそくそー!なによこれ反則じゃない!」



 エミリーは半ベソをかきながら地団駄を踏んでいる。



 そんなエミリーの様子を気にせず、ニアは剣槌を構えなおす。



「それじゃ、あらためまして。」



 そのままニアが地面を踏み込んだ時だった。



「降参よ!!!降参!!!」



 エミリーが両手を挙げて降参を宣言した。



「ん、わかった。」



 ニアがそれを了承すると、剣槌と暗黒刀はそのまま消滅した。



「勝者!3466番!」



 試験官が宣言すると、ワァッと会場が湧き上がる。



「すげー!あいつ『影縫い』に勝ちやがった!」



「何者だあいつ!」



 湧き上がる受験生たちを尻目に、ニアがトコトコとエミリーの元へ向かって手を差しだした。



「わたしはニア、エミリー強かった。」



「だからおばさんじゃ……って……ふん!あんたこそね!ニア!」



 そう言うとエミリーは、ニアの差し出した手を握り返した。



 なんだエミリー、いいやつじゃないか。



 無事、ニアの勝利に終わったが勝敗は審査に関係ない。



 エミリーも合格できるといいな。



 そんな事を思っていると、ニアが降りてきた。



「ラルフ、勝ったよ。」



「あぁ、すごいぞニア」



 む……?



 ニアが俺の前から動かず、じーっと俺の目を見続けている。



 褒め足りないってか、まったく。



「ニアは最強だな」



「うむ、よきにはらへ。」



 そう言って俺がニアの頭をポンッと手で撫でると、ニアは満足そうに頷くのだった。

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