第13話 戦果と成果・下
ミハエルだ。
鬱陶しい奴に会ったな。じりじりと結果を待っている時に、こういうウザったい奴には会いたくない
前と同じように白い騎士の甲冑に身を固めていて、後ろにはアレックスが居た。
「どうした?……おお、そうか。その拾い物を入れてようやくアタックが出来たわけか……しかし」
壁に貼られた紙を見て大袈裟な驚いたように首を振った。
「おお、こんな時間にしか配信できないとは……不人気パーティはまったくつらいな、同情するよ。
私は明日の18時からだ。有望なパーティのアタックは皆が見たがるからな」
聞いてもいないのにミハエルが勝手にしゃべる。
その後ろでアレックスがニヤついているのがまた鬱陶しい。
「で、アストン。お前らの輝かしい初陣の稼ぎはどうだったんだ?
ちなみに俺の初回は230,000クラウンでな。初回としては破格の好成績でギルドの方から褒められてね、まったく困ってしまったよ」
ミハエルが悦に入って話しているところに、ギルドの制服を着た男が近寄ってきた。
さっきの女の子のじゃなくて、40歳くらいの金色の飾りひもをつけた何となくお偉方っぽい奴だ。
その後ろには同じようにきっちりと制服を着こなした職員らしき人が3人付き従っている。
そいつが深々と俺たちに頭を下げた。
「アタッカーコード2985、アストン様。お待たせしました。
これがアタックの報酬です。規約によりギルドの手数料を10%頂きます」
妙に丁寧な口調で言って、男が恭しく薄茶色の書類を差し出してくる
アストンが書類を見てうれしそうな信じがたいっていうような顔で固まった。
「425,000?」
「え?これ、ホント?」
覗き込んだマリーチカとオードリーが顔を見合わせる。
ミッドガルドの公式設定によると、分かりやすさ重視で1クラウンは1円くらいらしい。つまり425,000円相当。
ただ、425,000クラウンはゲームのミッドガルドではまあまあの額だが、アタックの報酬としては高いのかどうか。
この辺の相場感はわからない。
「425,000クラウンはこの時間帯では歴代9位。初アタックの記録としても歴代3位です。この時間の初アタックとしては最高記録となります」
そういうと周りで見ていた他のアタッカーたちがどよめいた。
「最高記録?」
「初回で40万クラウン越えってマジかよ」
「アタックの時間は?」
「12時半から……ってちょっと待て、あり得んだろ」
「そんな時間でなんでそんな記録出るんだ?」
「記録更新の記念としてプレートの設置をおこなわせていただきます。素晴らしい成果でした」
「今後の健闘と武運をお祈りいたします、アストンさん、アトリさん。マリーチカさん、オードリーさん」
ギルドの係員たちが言ってもう一度頭を下げてくれる。
同時に周りから拍手と歓声が上がった
「すげぇぜ!」
「やるな、兄さん方」
「後で見とくよ。名前はなんていうんだ?」
「あやかりたいねぇ」
「つーか羨ましい!!40万越えとか!!」
拍手と歓声が広いホールに反響する。
ミハエルとかを見てても、アタッカー同士はライバルと言うか、もっとギスギスしてるのかと思ったがそうでもないらしい。
この辺はミッドガルドと同じかもしれないな。RTAをやる者同士はライバル関係ではあったが、そこまで敵対意識剥き出しってわけではなかった。
その中でも周りに刺々しく敵意を撒き散らす奴は多少はいたが。
「バカな!
ミハエルの怒鳴り声が拍手と歓声を遮るように響いた。その後ろではアレックスが愕然とした顔で固まっている。
……周りが静まり返って、何言ってんだコイツって感じの白けたムードが漂った。
ギルドの職員がじろりとミハエルを睨む。
「ギルドが不正をするといいたいのですか?それは聞き逃せない」
男が鋭い口調で言ってミハエルが気圧されたように黙った。
「彼らの得た報酬は基準に従い厳密に計算されています」
周りから白い目線がミハエルたちに集中する。
「くそっ、ふざけるな。こんなこと認めるか」
ミハエルが悪態をついて慌ててホールを出て行った。
◆
その後、ひとしきり周りの奴らにアピールしておいた。
これも地球と同じだが、狭い界隈なら横の関係は良好な方がいい。どこで誰が助けになってくれるか分からないからな。
そして報酬として金貨を入れた袋をもらった。
金色のコインには複雑な文様が描かれている。単なるお金というだけじゃなく、見た目も中々いいな。
ゲームをやってるときは単なる数値だったが、こうしてみると気分がいい。
「ありがとうございます。アトリさん」
金貨の袋を懐にしまってアストンが深く頭を下げてくれた。
「すごいのか?これ」
「初アタックなんて50,000クラウンも貰えれば大成功ですよ。下手すればだれも見てくれなくてギルド保証の5,000だけだったりもするんですから」
「ボク、こんなお金見たことない」
マリーチカがちょっと現実感が無いって顔で言う。
「何したい?」
「ゆっくりお風呂に入りたいです」
「ボクはやわらかいベッドで寝たいな」
オードリーが疲れたように、マリーチカが嬉しそうに笑いながら言う。
アストンが一枚の金貨を摘まみ上げて俺の方を見た。
「次も……行けますかね」
「大丈夫だ、頑張っていこうぜ」
これだけ稼げてるってことは、多分深淵の止まり木亭以外でも見てくれた店があったんだろうな……RTAの面白さには自信があったが、見てもらえなければ話にならない。
時間については考えたが……ツキも味方してくれたか。
一回目が上手く行ったなら、二回目は大事だ。
連続でうまくいけば相乗効果でバズが大きくなる。とはいえ、一回目で高まった期待を超えないといけないから難しさもあるが。
「よし、じゃあまずは打ち上げだな。次のアタックについても打ち合わせよう」
「賛成です」
「美味しいもの、一杯食べようね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます