第4話 不思議な美女

「ああ、びっくりした、あんまり美人で」

「本当、素敵な彼女ね、良かったわ。あなたは心が清らかで、やさしいから、こんな美しい彼女が出来たのよね」

「じゃあ俺は心が汚いのか」

「え!! そう言う?」

若い二人は顔を見合わせ、困ったように微笑んだ。

「料理を持ってきたのだけれど、ちょっとだけ温めましょうか」

夫人の言葉に

「あの、いただいたお料理、私も食べさせていただいたのですが、とっても美味しかったです」

小さな彼女の声がして、女性二人は台所の方に向かった。


「サラダでもと思ったのですが・・・・」

台所にはお皿にレタスとキュウリを切ったものが置いてあったが、しかしながらそのキュウリは、斜め切りにしてあるのか、輪切りにしようと思ったのか定かではなかった。一方レタスは大きなサイコロ大の正方形に切られており、夫人は吹き出しそうになるのを、かなりの自制心で押さえなければならなかった。

「お料理が苦手で・・・上手になるでしょうか・・・」

女性として羨むような美しさを持った人からそう言われた夫人は、安心したように、やさしくなれた。

「大丈夫よ、料理人になる訳じゃないから」

「ネットで調べるんですが、何だかその通りに作っても上手くいかなくて」

「ああ、ネットにレシピを載せている人は、本当に料理好きで、セミプロみたいなものだから、急には真似できないかもしれない。私も新婚時代は図書館に通って、基礎的な料理の本を借りてきていたわよ。学生時代より図書館に通いつめていたかも」

「そうですか・・・・・」まだまだ不安そうな彼女に

「料理研究家でも、若い頃は全く出来なかったと言う人もいるから心配しないで。で、昔、私も読んだの。レタスは手でちぎるのが一番だって。有名な料理店でもそうしているみたいよ」

「そうなんですか、私も図書館行ってみようかな」

やっと不安げな表情が元に戻った。

一方夫人は初めて立つ他人の家の台所に、ちょっとだけ戸惑ったが、彼女に使ってよい鍋などを聞きながら、しばし楽しい時を過ごしていた。炊飯器にはご飯が炊けている良い匂いがして、若い彼女はそれをよそいはじめると、夫人にはあるボールが目に入った。白濁した液体が入っている。

「これは? 」

「あ、お米のとぎ汁です、庭にまくのを忘れて」

「ああ、やっぱりそう」

「彼・・・ずっとそうしていてくれているんです」

このことに、不思議なほど、うれしそうな顔をした。

「米のとぎ汁は出来るだけ流さない方がいいものね、下水でも完全には処理できないみたいだから」

その言葉のあと、美しく大きな彼女の目が、夫人に向けられた。

「あの、あなたは、どうされていますか? 」

今までで一番大きな、はっきりとした彼女の声に驚きながらも

「ああ・・・私も庭木にやっているわ。孫が小学生の時に「絶対に守ってね」って言うものだから。正直言うと、年に何回かは流してしまうこともあるけれど」

「そうですか」

ニッコリと、雑誌の表紙の様な笑顔を見せた。


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