デスゲームに参加させる為に拉致して来た奴が不死身のヒーローだった件

南米産

第1話 ウルトラハッピー☆ランド

【ホウジョウタカネ】


日本の地下666メートルには選ばれた者だけが入れる巨大テーマパークがある、当然そんな所にあるのは普通のテーマパークではない。秘密裏に建設されたそれは、人が人を殺すのを眺める為のデスゲーム娯楽施設だった。


デスゲーム、それは命を賭けた遊び。人の命をなんとも思わない観客を楽しませるための残虐ざんぎゃく遊戯ゆうぎだ。その内容はジャンケンであったり、鬼ごっこであったり、カードゲームであったりして、遊びの敗者になった者は漏れなく死ぬ。


人が死ぬところを見るのは楽しい。悪趣味かもしれないが、これは確固たる事実であるのでもうどうにもできない。人が撃たれ、焼かれ、かれ、殴り殺される様は格好のニュースのネタにもなるし規制の無いダークウェブではそれらは最大の人気投稿となる。人々はそれを食い入るように見つめる。残酷さは最も分かりやすく興味をひきやすいからだ。私も中学生の頃は死体になった人のグロ画像を散々見て画面の前でフヒヒとか言っていた。我ながら趣味の悪い学生時代を過ごしたものだ。


しかしだからと言ってこんなものによくもまあ大金を払うものだと思ってしまう。高級ワインやウイスキーの入った透明なグラスを持つスーツ姿の紳士、ドレス姿の淑女達を見るたびに思うのだ、他にやることはないのかと。


いくら楽しいと言ってもこれではどう考えてもリスクの方がでかすぎる。ばれた時のデメリットが破滅はめつ的だ。今時、浮気程度でも社会的な制裁は凄まじい、もう二度とテレビには出られない可能性すらある。それは比喩表現ひゆひょうげんではなく大概たいがいの場合見つけられ次第物陰に引きずり込まれて死ぬまで暴行を受ける羽目になるという意味だ。昔は浮気程度で人が死ぬのは非常に稀なケースだったが今は違う。随分イノチの重みは軽くなったらしい、常に死のリスクを負わなくてはならない。


あの特等席で自分の嫁以外の女とイチャついている国会議員はそんなことも分からない位のマヌケなのだろうかと私は思う。危機管理がなっていない、ここでのことは公言されたりはしないがこの調子では上に戻った時にも同じことを繰り返すだろう。


私はただのデスゲームの監視員。ホウジョウタカネ、今年から高校生活二年目になるはずだったのにこんな場所に居る平均的デッサンの女だ。私は9000人いる監視スタッフの一人でしかない、ただの時給制のパート待遇だ。福利厚生ふくりこうせいはあるが全然社会に保証などされていない、かなり邪悪な闇バイトの部類に当たる存在で、普通のバイトだと勘違いしてから一年近くもこんな場所に居る。来てしまったからには私にも逃げ場がない、アリジゴクみたいな空間であった。それでも不服ながらやるしかない、これが人生だ。


そして今日も目の前で殺戮さつりくショーが始まろうとしているのだった。どのデスゲーム業界にも存在するデスゲームの花形とも言える高性能AIロボであるデスマスコットの三三三さんさんさんの出番がやってきた。太陽の様に明るく愛くるしいがキャッチコピーで三三三はぱっと見たかぎり缶コーヒー位のサイズでアニメ風な妖精の幼女のような形をしていた。長い触覚が足元まで垂れ下がり、固そうな前羽が常に跳ね上がっていて、透明な後羽で空中を羽ばたき続けている、ショートカットのヘアスタイルと顔面以外の全身は黒い外骨格みたいなものに覆われていて手足には短いスパイクが生えていた。言ってしまえばゴキブリだった。デスゲームのマスコットは不気味で不穏さをかきたてる方が良いと、ゲームブック第一項にも書かれている、つまり最重要事項だ。自分で考え自分で不穏な発言をしてくれるマスコットキャラは何時の時代も重宝されるものだ。


やはりデスゲームはマスコットがいないと始まらないと言っても過言はない。

三三三が目の前の命令を守らないと爆発するデス首輪を装着した赤色のパーカーを着た比較的特徴のない若い男に話しかけた。こういった人物は大概最初に死ぬ。


「貴方の首輪には爆弾が仕込まれていますデス」

「なんだって?」

「助かりたければ、ゲームをしましょうデス」

「おい、爆弾つったのか?」

「そーデス、爆弾デスよ。首に巻き付いてるそれが……」

「いったいなんなんだこの状況は!」

「今から簡単なゲームをするんデスよ、目の前にある迷路を突破出来たらあなたは自由の身デス」

「どうしてこんなことをするんだ!」

「……それは自分の胸に聞いてくださいデス、思い当たるはずデス」


三三三は形式上毎回これを言うが大抵相手にそれらしい過去などはないし時間の無駄なのでこちら側も調査をしていないが、ただそれらしいことを言っておけば相手は勝手に解釈してくれるのだ。それに調べようと思えば一瞬で調べられる、そういう人員も道具も十二分に揃っている。すねに傷の無い者などいない、私の脛はもう削られっぱなしで骨が見えている。……あの壁のようにつるつるではない。


「いや、マジで覚えがない。ここはどこなんだ、オレは家に帰る途中だったんだ」

「いまはゲームの参加者デス」

「そんなのしらねーよ、オレはただの一般人だ、はやく解放してくれ」

「ゲームに勝てば解放されますデスよ」

「いやだね! 拒否する!」

「では首輪を爆破するとしますデス、いいんデスね。ほんとーにボンッ! デスよ」

「やってみろこのやろう!」

「……さよならデス」


会場にはあちこちに収音マイク付きの監視カメラが設置されていて、物陰に潜むのが得意な三三三にもその機能が搭載とうさいされている為に会話や行動は常に細かく視聴できる。画面が男の頭部にズームすると男の首輪が爆発して、生首が宙を舞い首の断面図からは鮮血が勢いよくふきあがった。プレイボール、早速死者一名だ。毎回こういう生贄いけにえ役が出てくれないと兎に角ゲームは始まらない。チュートリアルで死者一名は順守するべきルールとゲームブック第二項にも書かれている。


「うわあああああ! 人が死んだ!」

「きゃあああああ! たすけてええええええ!」

「さあ、みなさんあわてず騒がずとっとと迷路に向かってくださいデス、この男のように死にたくなければね! ミーンミンミンミン!」


ゴキブリのくせにセミのような奇怪な笑い声をあげながら、参加者たちを迷路に追いやるお馴染みの展開で参加者たち十三人は急いで迷路の中に入っていった。


ここは、この瞬間の為に建築された製作費一兆と二千億円の超デスアトラクション複合施設ウルトラハッピー☆ランド。


地下666メートルに存在し五十キロにも及ぶ広大な空間にありとあらゆるデスゲーム施設が詰め込まれている、その中のひとつ絶対脱出不可能とされる大迷宮、ミノタウロスホール。攻略に必要な予定時間はおよそ三日間。


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