トリタテ日報~ハーフ&ハーフ3~
関川 二尋
一人目『幼少にして大黒柱の男の子』
前編 『柱間陽兵の場合』
「わたしたちの仕事を簡単に説明するとね……」
天使の笑みを浮かべて女社長『ミス・ミスティ』はこう告げた。
「……貸したものは利子つけてちゃんと返してもらえ、ってこと」
それから妖艶な目の奥に悪魔の炎をちらつかせてこう続けた。
「だから、返してもらうまではくれぐれも、く れ ぐ れ も手ぶらで戻ってこないようにね。手ぶらで帰って来た時は……」
そう言いながら長い舌をねっとりとナイフの刃先に絡みつかせ……
「あ、痛ッ!切った……切っちゃった!」
ちょびっと切ったらしい。
ピンクの舌先に赤い血のしずくが浮いている。
そんな様子をわたしはほほえましく眺める。
本人は凄みを聞かせているつもりなのだろうが、いかんせん本業は主婦である。
デニムに白シャツ+エプロン姿では迫力も半減だ。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫に決まってるわよ!口の中の切り傷は直りが早いんだから!それよりさっさと仕事に行きなさい!」
「分かりました。でもナイフを舐めるのは今後やめた方がいいですね」
「分かったわよ、それよりちゃんと回収してきてよね」
貸したものを返してもらう。
わたしの仕事を簡単に説明するならそういうことだ。
実にシンプルな商売。
素直に返してくれる相手ばかりなら、こんなに良い仕事はないくらいだ。
だがもちろんそんな相手ばかりではない。
それどころか海千山千の猛者……もとい、顧客がたくさんいるのだ。
(いつの間にか胃薬が手放せなくなったな……)
ガリリと錠剤をかみ砕いて飲み込み、青空をにらみつける。
今日も天気がいい。
天気が良すぎて仕事するのが嫌になる。
だがそうも言ってられない。
今日の交渉先は『
なんと十二歳の男の子。
しかも幼い弟妹を抱え、親の面倒まで見ているしっかり者。
なんでミスティさんがそんな子供にお金を貸したかはわからないが、知りすぎるとロクなことがないのであえて聞いたことはない。
確かに助けたくなるような良い子なんだけど……それだけに厄介な相手なのだ。
かくしてわたしは憂鬱をずるずると引きずりながら、今日も顧客のもとに足を運ぶのだった。
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