第40話 問い詰め

-side オーウェン-




「それで、なぜ不思議な国にグリモワールを忘れたのか、教えてくれるよな?」



 俺はシルフを問い詰める。

 じっくり、じっくり……。

 こう言うのは、だんだん精神的に圧をかける事が重要である。



『な、な、なんか、黒い笑みを浮かべて、雰囲気が怖いケロー!』

『まるで悪役ですわ〜!』

『物語の裏ボスみたいだ』



 うーん、こいつら勘が鋭い。大当たりだ。



「……大丈夫大丈夫、多分だけど、悪いようにはしないから。それで?」

『嘘ですわ〜』

『胡散臭いケロー』

『というか、多分って言った、多分って』



 後ろで外野がガヤガヤ騒いでいる。

 シルフもガヤに便乗しようとしているようだ。そうはさせない。



『そ・れ・で??』

『うっ……、仕方がなかったんだ。人間たちがきた時、僕たちは何も知らずに居眠りをしていたんだ』



 シルフによると、人間が来るまで、精霊たちはとても穏やかな生活を送っていたそうだ。精霊は果てしない時を生きる。だから、睡眠時間も長くなる事が多いそうだ。



『でも、まさか、300年近く爆睡してるとは自分でも思わなかったんだよ⭐︎テヘペロ⭐︎』

「絶対それが原因で人間に付け入る隙を与えただろ。」

『うっ……、それについては結構反省してるもん!』



 ジトーとシルフを見つめる。

 最初はふんっ!という感じで腕を組んでいた彼も次第に冷や汗をかき始め、こちらを振り返って……、全力土下座した。



『すいませんでしたーー!』

「ハア……」



 こんなのがお伽話で聞く風の精霊王シルフだなんて。知りたくなかった。



「それで、そのグリモワールがどこにあるのか分かっているのか?」

『それが、わからないんだよね……、一応、なんとなく不思議の国にあるという反応はあったんだけれど、詳しい位置はわからない。不思議な国の地形は頻繁に変わるから』

「それ、どこにあるかが毎回変わるという事だよな?無理ゲーではないのか?その探し物」

『そうだけど、フェアリーケロベロス君に教えてもらえばなんとかなるかなって……』



 テキトーだな、おい。

 見切り発車がすぎる。



『多分できるケロー』

「できるのかよ」

『僕を何者だと思ってるケロー!これくらい、お茶の子再々とまではいけなくても、すっごく頑張ればいけるケロー』

「結構難しいんじゃねえか」



 絶対と言わずに多分というあたり、不安要素しか感じない。不思議の国の案内人ですら苦労するって、やっぱり結構大変そうだ。



『大丈夫!僕も手伝うから、きっと見つかるはず』

「不安だ」



 シルフもあまり当てにできそうにない。というか、俺が見張っとかないと、変な事しでかしそうだ。とりあえず、不思議の国へ行ってみるだけ行ってみることにするか。



 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



『ついたケロ〜!』



 俺たちは、シルフの忘れたグリモワールを取りに、疾風の獣を倒すための、レベルアップのために再び不思議な国へ着いた。



「まだ、ランニングボアも倒せていないのに、それより強い疾風の獣を倒さないといけなくなるとは……」

『この訓練が終われば、ランニングボアも楽勝ケロ〜!』

「だろうな」



 そういう話ではない気がする。

 レベルアップは本来、自分のレベルに合った魔物をコツコツ倒していくのが普通だ。

 ゲームのように、先に強い魔物を方法を考えながら倒して、RTAするなど言語道断。危険すぎる。

 なので、この訓練、想像を絶する大変さをしてそうなのだ。

 とはいえ、そればかり考えてぼけーっとしても仕方がないので、あたりを見渡す。あの時は、急いでいてあまり見る暇がなかったが、改めて見るとすごい国だな。



 可愛らしい絵本のおとぎ話のような場所で、ふんわりとしたコットンキャンディのような雲が浮かび、その下では小人たちがお菓子に家で遊んでいる。小さな湖はきらきらしていて、そこには色とりどりのキラキラの魚たちが楽しそうに泳いでいる。

 最初は普通に何の違和感なかったが、こんなメルヘンな世界観なのに、なんか普通に電車が通ってるんだよな?



「なんなんだ……、この国?」

『不思議な国ケロー!』

「それは知ってる」



 理屈も分からない以上、その返答が多分一番正しいのだろう。正しいけれど、それを言ったらおしまいだ。



『どうせ大した意味もないから、気にしないケロー、それでは本題に入るケロー』

「……」



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