第5話 無知蒙昧

 なんなのあの女!

 アイフェルト様はわたくしの物なのに!


 王妃になるのも私よ。私はハイウェング公爵家の長女ユシアン。その私にこそ、王妃の座は相応しい。


 王妃になれば、今よりもっと贅沢ができるとお父様が仰ってたわ。そうすれば、こんな陳腐な宝石じゃ無く、もっと大きな物も手に入るもの。それさえ私の美しさには叶わないだろうけれど。


 私はこの世の至宝。美しく聡明で、誰よりもたっとばれるべき存在なのよ。


 ちらりと廊下に並んだ窓に目をやれば、そこに映っているのは女神の如き姿。我ながら惚れ惚れしてしまうわ。


 波打つ真紅の髪は輝きを放ち、澄んだ深緑の瞳は春を告げる若葉よう。まだ幼いのに、魅惑的な体は艶めかしく人々を魅了する。どんな宝石も霞んでしまう私の姿を目にすれば、皆が見惚れてしまって困ってしまうわ。


 そんな私に釣り合うのは、アイフェルト様くらいかしら。それでも並び立てば、私の方が聴衆の目を引くでしょうね。


 本来なら私こそが女王に立つべきなのに、お父様は私に苦労をさせまいと、王妃を勧めてくださったの。王妃の務めは着飾って、アイフェルト様を心身ともに癒し、子を成す事。それには何より美しさが必要。まさに、私にしかできない仕事だわ。


 あんな地味な女、お呼びじゃないのよ。


 それなのに、厚かましくアイフェルト様に色目を使って取り入ろうなんて、私が捨て置くと思っているのかしら。


「あの女の素性を調べてちょうだい」


 そう言えば、すぐに後ろに控えた幾人ものメイドの中から一人が動く。お父様の力を使えば、どんな事でもできるわ。人一人消すなんて瑣末な事。


 なんといっても私は公爵令嬢なのだもの。手に入らない物なんて無い。


 この国も、アイフェルト様も全て私の物。それを横取りするような女狐、痛い目に合わせてやるわ。


 私はほくそ笑みながら廊下を進む。


 まずは公爵邸に戻って報告を待たなければ。それから考える事は山ほどあるのだもの。


 あの女を亡き者にするためなら、手段は選ばない。素敵な案が次々と浮かんできて心が弾む。


 待っていてね、アイフェルト様。


 ユシアンは、貴方のために頑張りますわ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る