第二十九篇 テーマ「難病を抱える最愛の人」 ジャンル「恋愛」

 彼女は難病を抱えていた。

 私達は学生時代からの付き合いで、別れた時期もあったが、彼女の病気を知った時に再び惹かれ合うようになった。

 彼女の病気は進行性で、彼女自身も自分の命がいつ終わるかわからなくて、私も同じように怖かった。


 毎日彼女と一緒にいることが私にとって何よりも大切なことだった。

 私は彼女のためにできることがあれば何でもやりたかった。

 彼女の病気は彼女自身にとってもストレスでしかなかった。

 治療法もある程度はあるが、根本的な治療法は見つかってなくて、ただ時間が過ぎてしまうだけだった。


 彼女と一緒に過ごす時は、常に彼女が万が一に備えていることに気を使っていた。

 彼女が亡くなったらどうしようとか、もう一度会えることはないのかとか、そんなことばかり考えていた。

 でも、彼女にはそんな風に見せたくなかった。 

 彼女が亡くなるまでに、彼女との時間を最大限に楽しむと決めたからだ。


 彼女が亡くなってから一年が経った。

 彼女との思い出が私の中に消えることはない。好きだという気持ちも、彼女を想い続ける気持ちも、彼女の亡骸を見送るときの嘆きの気持ちも、全て消え去ったわけではない。

 でも、彼女との過去を思い出しながら、少しずつ立ち上がっている。

 彼女の命が短かったとしても、私達が出会えたことが彼女との時間を美しくしていたことを忘れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る