第十七篇 テーマ「真夜中」 ジャンル「伝奇」

 真夜中、街は静まり返っていた。ただ一人、走り抜ける影があった。

 それは半ば義務感で、半ば自己満足的に赤い月の下を駆けていた勇者アレックスだった。


 彼は、モンスターの魔王を倒すため、果てしなく続くダンジョンへと挑んでいた。

 今日はその最深部へと向かうため、決死の覚悟で力を振り絞る。


 だが、その力も限界に近づいたその瞬間、彼の目の前に見慣れない景色が広がった。

 壁の向こうから聞こえる騒音が、彼を狼狽させた。


「誰だ!出てこい!」


 アレックスが掲げた剣を構えると、壁はゴリゴリと音を立てて開いた。

 現れたのは、顔のない長い髪の女性だった。


「ようこそ、勇者。私が、このダンジョンの管理者であるレイラです。」


 レイラは微笑んで手招きし、彼女の案内で広がる展示室を見せてくれた。

 そこには、遺物や書物、そしてモンスターの歴史を説明する自動人形が陳列されていた。


 アレックスはため息をついて言った。


 「でも、魔王はどこにいるんだ?」


 レイラが答えた。


「ここには、魔王はいません。あなたが求めるものは、このダンジョンの終わりです。」


 彼女の言葉に驚いたアレックスは、成功報酬を受け取ることなく、帰路に着いた。

 真夜中の闇に紛れて駆ける彼は、レイラとの出会いで心の中に何かが動き始めた気がした。


 しかし、彼女の言葉からは新たな謎も生じていた。

 果たしてこのダンジョンの中には、現れないはずの魔王がいるのか?

 それとも、すべてがレイラの考える「終わり」だけなのか?

 次なる冒険に向かう彼の心には、まだ答えがない。

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