48日目「ペアノの公理と1+1(その2)」

今回はペアノの三つ組(X,e,φ)が本質的に一意であることを示したのちに、Xの代表としてNをとり、e=1とした時の加法、乗法を前回示した帰納的定義を用いて定義しよう。


ペアノの公理(再掲)

集合X、写像φ:X→X、eについて

1) e∈X

2) φは単射である

3) ∀x∈Xについて、φ(x)≠e

4) S⊂Xについて、

i) e∈S

ii) x∈S→φ(x)∈S

という性質をペアノの公理という。e∈Xは公理として述べず、前提として述べることもあり、φの定義域と終域がXであることをペアノの公理として導入することもある。


ペアノの公理を満たす三つ組(X,e,φ)は本質的に1つである。すなわち次の定理が成立する。


ペアノの三つ組の一意性

(X,e,φ)と(Y,k,ψ)がペアノの公理を満たすとする。この時、次が成り立つ。

ある全単射写像f:X→Yが存在して、f(e)=kが成り立ち、f(φ(x))=ψ(f(x))が成り立つ。

この時のfをペアノ同型写像と呼ぼう。

[証明]

写像の帰納的定義の原理について再確認しておこう。


写像の帰納的定義

ある集合A≠Øに対して、F:A→A、a∈Aが存在するとする。この時、次の様な写像f:X→Aが一意に存在する。

f(e)=a

f(φ(x))=F(f(x))


この時、AをY、Fをψ、aをkと置いてみると、次の補題が成り立つ。


ペアノ準同型写像の構成補題

ある集合Y≠Øに対して、ψ:Y→Y、k∈Yが存在するとする。この時、次の様な写像f:X→Yが一意に存在する。

f(e)=k

f(φ(x))=ψ(f(x))


このfはペアノ同型写像であるとは言い切れない。なぜならfは全単射でない可能性も持っているからである。

現在の状況を図示してみよう。すると、


e→φ(e)→......

f ↓ ↓

k→ψ(k)→......


という様なチャートを描くことができる。明らかにこの図からはfが全単射であるということが読み取れる。よってfが全単射であることを示す方針でいこう。


fの全射性を示そう。S={y∈X| ∃x∈X, y=f(x)}、すなわち、S=f(X)と定義する。

f(X)=Yとなることを示そう。お察しの通り、ペアノの三つ組(Y,k,ψ)に対して4)を用いる。

定義より、f(e)=kとなるので、k∈S。

y∈Sであればy=f(x)となる、あるxが存在する。ψ(y)=ψ(f(x))=f(φ(x))よりψ(y)∈S。よってf(X)=Y。


fの単射性を示そう。S={n∈X| あるmが存在し、f(m)=f(n)となればm=n}と定義する。e∈Sを示す。f(m)=f(e)となるmが存在したとする。m≠eであれば、

前者がmには存在するので、あるlが存在してφ(l)=m。

f(φ(l))=kであり、ψ(f(l))=kが成り立つ。kには前者が存在しないので、これは矛盾している。m=eが示された。


x∈Sであるとする。φ(x)∈Sであることを示す。f(φ(x))=f(m)となるmが存在したとする。m≠φ(x)であるとして、m≠eの時を考える。mの前者はxではない。つまり、xとは異なるあるzが存在して、m=φ(z)。であるので、f(φ(x))=f(φ(z))⇄ψ(f(x))=ψ(f(z))

ψは単射であるので、f(x)=f(z)。この時、x∈Sであるので、x=zが成り立つ。m=φ(z)と定めたので、m=φ(x)。この時、m≠φ(x)であるとしたので、矛盾。よって、φ(x)∈S。m=eの時を考える。f(φ(x))=f(e)=kである。すると、ψ(f(x))=kとなり、3)に矛盾している。よって、x∈Sであるならば、φ(x)∈S。


よって、fが単射であることが示され、fの全単射性が保証された◽︎


この定理によって、ある、ペアノの公理を満たす三つ組を代表としてとって議論を進めても良いということがわかる。では、その代表として、ZFC公理から作れる、

N={1,2,3......}、e=1を取ろう。


このNは普段我々が慣れ親しんでいる自然数である。


このNに今までの結果をフルに使って加法と乗法を導入しよう。


加法

s:N×N→Nを次のように帰納的に定義する。

s(m,1)=φ(m)

s(m,φ(n))=φ(s(m, n))


sが存在して、一意であることを軽く示そう。


写像の帰納的定義

ある集合A≠Øに対して、F:A→A、a∈Aが存在するとする。この時、次の様な写像f:X→Aが一意に存在する。

f(e)=a

f(φ(x))=F(f(x))


この定理により、次の写像s(x, ・):N→Nが定められる。

s(x, 1)=φ(x)

s(x, φ(y))=φ(s(x, y))

xは任意であるので、sが定まった。そして、sが一意であることも同時に示せている。


m+n=s(m, n)と定義する。m+nをmとnの和と言って、sを加法と呼ぶ。加法により、帰納的定義の式は次の様に変形できる。


m+1=φ(m)

{m+(n+1)}={(m+n)+1}


後継関数を加法によって表すことができたので4)もこれにより書き換えることができて、

4')

S⊂N

(i) 1∈S, (ii) n∈S→n+1∈S

S=N


さらに、命題関数P(n)を用いることで、次の様に書き換えることができる。


4")(数学的帰納法)

自然数の命題P(n)に対して

(i) P(1)が成り立ち

(ii) P(n)が成り立つなら、P(n+1)が成り立つ

という2条件がなりたてば、P(n)はすべての自然数について成り立つ。


また、写像の帰納的定義の内容も+を用いて簡潔に表すことができる。


写像の帰納的定義

ある集合A≠Øに対して、F:A→A、a∈Aが存在するとする。この時、次の様な写像f:X→Aが一意に存在する。

f(1)=a

f(n+1)=F(f(n))


加法に対して次の様な定理が成り立つ。


(i) (m+n)+l=m+(n+l)(結合法則)

(ii) m+n=n+m(交換法則)

(iii) m+k=n+k⇄m=n(簡約法則)

(iv) x+y=1となるx, y∈Nは存在しない

[証明]

(i)

sを用いて表すと、s(s(m, n) ,l)=s(m, s(n, l))を示せば良いことになる。mとnを固定してlを変数として表す。l=1の時、

s(s(m, n), l)=φ(s(m, n))=s(m, φ(n))=s(m, s(n,1))より成り立つ。

l=kの時成り立つ(s(s(m, n) ,k)=s(m, s(n, k)))として、l=k+1の時を示す。

s(s(m, n), k+1)=s(s(m, n), φ(k))=φ(s(s(m, n), k))=φ(s(m, s(n, k))

=s(m, φ(s(n, k)))=s(m, s(n, φ(k)))=s(m, s(n, k+1))

よりすべての自然数lで示せた。m, nに関する条件は何もないので、すべてのm, n, lで示せた。


(ii)

m+n=n+mを示そう。nを変数としてみる。

n=1の時、m+1=1+mが成り立つことを示せば良い。

これをmに関する数学的帰納法で示す。m=1の時明らかに正しい。m=kの時正しいとしてm=k+1の時を示す。1+(k+1)=(1+k)+1=(k+1)+1


n=tの時正しいとして、n=t+1の時を示す。

m+(t+1)=(m+t)+1=(t+m)+1=1+(t+m)=(1+t)+m=(t+1)+m

より、すべての自然数の組m, nで成り立つことがわかった。


(iii)

m+k=n+k⇄m=nを示す。k=1の時、φ(m)=φ(n)が成り立ち、φの単射性より、m=n。

k=lの時正しいとして、k=l+1の時を示す。

m+(l+1)=n+(l+1)⇄(m+l)+1=(n+l)+1⇄m+l=n+l⇄m=n

よりどんな自然数lについても成り立つ。


(iv)

x+y=1となるx, yを取れたとする。y≠1であるとする。すると、y=φ(z)となるzが存在する。x+φ(z)=φ(x+z)=1。3)より矛盾する。よって、y=1。すると、x+1=1となる。この時、φ(x)=1となり、3)に矛盾。よってこのようなx, yは取れない。


(i)ではsを使い、(ii),(iii),(iv)では+を用いた。+の方がすっきりとしていて、見通しよく証明することができることがわかる。


加法の存在証明が終わったので、加法による計算を行なってみよう。


1+1=φ(1)=2


4+3=4+(2+1)=(4+2)+1=(4+1+1)+1={(4+1)+1}+1=(5+1)+1=6+1=7


3+4=(3+3)+1={(3+2)+1}+1=[{(3+1)+1}+1]+1={(4+1)+1}+1=(5+1)+1=6+1=7


よって、4+3=3+4


(5+2)+3={(5+1)+1}+3=7+3=(7+2)+1={(7+1)+1}+1=(8+1)+1=9+1=10


5+(2+3)=5+{(2+2)+1}=5+[{(2+1)+1}+1]=5+5=(省略)=10


(5+2)+3=5+(2+3)



加法を繰り返す様な操作は度々表れる。

3+3+3+3や2+2などがその典型である。これを一つの演算として定義しよう。これを乗法という。


乗法の帰納的定義

p:N×N→Nを次の様に定義する。

p(x, 1)=x

p(x, y+1)=p(x, y)+x


写像の帰納的定義

ある集合A≠Øに対して、F:A→A、a∈Aが存在するとする。この時、次の様な写像f:X→Aが一意に存在する。

f(1)=a

f(n+1)=F(f(n))


を用いることでp(x, y)の存在性は簡単に示せる。


x・y=p(x, y)という様に簡略化して表す。略記しても別の関数や文字などと混同することがない状況であれば、x・yをxyと書いても良い。また、pのことを乗法といい、x・yをxとyの積と呼ぶ。


すると、乗法の定義は次の様に書き直せる。


乗法の定義

x・1=x

x(y+1)=xy+x


乗法については次の定理が成り立つ。


(i) x(y+z)=xy+xz(分配法則)

(ii)(x+y)z=xz+yz(分配法則)

(iii)(xy)z=x(yz)(結合法則)

(iv) xy=yx(交換法則)

(v)xz=yz→x=y(簡約法則)

[証明]

(i)

zに関する数学的帰納法を用いる。z=1の時、x(y+1)=xy+x=xy+x・1より正しい。

z=kの時正しいとして、z=k+1のときを示す。x(y+k+1)=x(y+k)+x=(xy+xk)+x=xy+x(k+1)より正しい。


(ii)

zに関する帰納法を用いる。z=1の時、(x+y)・1=x+y=x・1+y・1より正しい。

z=kの時正しいとして、z=k+1の時を示す。(x+y)・(k+1)=(x+y)・k +x+y=x・k +y・k +x+y=x(k+1)+y(k+1)

よりすべての自然数zに対して題意は正しい。


(iii)

お決まりの数学的帰納法によって証明する。zに関する帰納法を用いる。

z=1の時(xy)・1=xy、x(y・1)=xyより正しい。

z=nの時正しいとして、z=n+1の時を示す。

(xy)(n+1)=(xy)n+(xy)=x(yn)+xy=x(yn+y)=x{y(n+1)}

より正しい。


(iv)

yに関する帰納法を用いる。y=1の時、x・1=1・xが成り立つことを示す。

x・1=xを示せば良いから、これを帰納法で示す。x=1の時正しい。x=kの時正しいとして、x=k+1の時を示す。(k+1)・1=k+1=1・k +1=(k+1)


y=kの時正しいとして、y=k+1の時を示す。x・(k+1)=x・k+x・1=x・k +x=k・x +x=k(x+1)

よって、すべての自然数yに対して題意は正しい。


(v)

zの帰納法で示す。z=1の時、明らかである。z=nの時正しいとして、z=n+1の時を示す。x(n+1)=y(n+1)⇄xn+x=yn+y、z=nの時の仮定より、xn=ynが成り立つ。よって、和に関する簡約律を用いて、x=yが示せた。よって∀z∈Nに対して題意は成り立つ。


乗法が加法を繰り返して得られたように、乗法を繰り返し適用することで、新たな演算を構成することができる。その演算を冪乗と呼ぶ。


冪乗の帰納的定義

e:N×N→Nを次の様に定義する。

e(a, 1)=a

e(a, n+1)=e(a, n)・a


このeの存在性と一意性も帰納的定義の定理によって示せる。

a^n=e(a, n)と略記し、eのことを冪乗と呼ぶ。また、nを指数と呼び、aを底と呼ぶ。a^nを冪と呼ぶ。


定義を書き直そう。


冪乗の帰納的定義

a^1=a

a^(n+1)=a^n ・a


冪乗について次の定理が成り立つ。


(i) a^(m+n)=a^m ・a^n

(ii) a^(mn)=(a^m)^n

[証明]

(i)

nに関する帰納法を用いる。n=1の時、冪乗の定義より正しい。n=kの時正しいとして、n=k+1の時を示す。a^(m+k+1)=a^(m+k) ・a=a^m ・a^k ・a^1

=a^m ・a^(k+1)

より題意は示せた。

(ii)

nに関する帰納法を用いる。n=1の時、a^(m・1)=a^m=e(a^m, 1)

n=kの時正しいとして、n=k+1の時を示す。a^(m・(k+1))=a^(mk+m)=a^(mk)・a^m

=(a^m)^k ・a^m=(a^m)^(k+1)

より示せた。


今回、自然数の上に演算を構成する上で重要だったのは、写像の帰納的な定義方法と数学的帰納法であった。自然数に関するほとんどの基本的な定理が数学的帰納法を用いて証明されるのである。






















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