39日目「群の作用って結局なんなの?」

前に書いた通り、抽象代数学の基礎的な部分に「群」という概念があった。

群というのは次のように定義される、集合と関数の組である。


Gを集合、φ:G×G→Gとなる写像とする。

(G,φ)が群であるとは次の条件を指す。

∀a,b,c∈Gに対して、

1 φ(a,e)=φ(e,a)=aとなるようなe∈Gが存在する(単位元の存在)

2 φ(a,x)=φ(x,a)=eとなるようなx∈Gが存在する(逆元の存在)

3 φ(a,φ(b,c))=φ(φ(a,b),c)(結合法則)


a・b=φ(a,b)と略記すると、この法則群は見通しをよくすることができる。


1⇄a・e=e・a=aとなるe∈Gが存在する

2⇄a・x=x・a=eとなるx∈Gが存在する

3⇄a・(b・c)=(a・b)・c


実際我々が目にする演算のほとんどは、これらの法則を満たしている。

そして、これらの法則は非常に、写像の集合と合成の組に類似していることがわかるだろう。

実際、この考えが群論を少し進めた時に出てくる、作用という概念で非常に重要となる。

実際、作用の定義はどのようになっているのか見てみよう。


左からの群作用(left group action)

ある集合Xに対して、ある群(G,・)が左から作用しているというのは次のような写像ψ:G×X→Xが存在していることを指す。ただし、Gの単位元をeとかき、Gの元aの逆元をa^-1と書く。

ψ(e,x)=x

ψ(g,ψ(h,x))=ψ(g・h,x)


なかなかに抽象的な定義である。


ここで、この定義を感覚的に理解するために、次のようにこの定義を眺めてみよう。


g(x)=ψ(g,x)と定義する。この時、先ほどの定義は、


e(x)=x

g(h(x))={g・h}(x)

と書き直せる。

ここで、この定義を言語化してみると、

e(x)=xはe∈GをX→Xとなる写像だと思ってみると、eは恒等写像であるというように、

(g・h)(x)=g(h(x))

はghというのはXから見ると写像の合成になっているというように言える。


つまり、作用というのは、作用している群の元を作用している集合X→Xの写像だとみなす方法であるということだ。つまり、群の元は写像のように定義上見えるので、実際に写像とみなしてみようということである。


この考え方は、線形代数学で自然に用いられている。例えば、成分が実数であるような正則な2×2行列は、それら単体で見てみると確かに群をなしている。これをSL2(R)と呼ぶ。2-列ベクトルの集合はR^2とかける。R^2にSL2(R)を作用させると、次のような自然な作用・を作れる。


|a b| |x| |ax+by|

|c d| ・ |y| = |cx+dy|


これは、普段の行列の計算となんら変わらない。しかし、これはしっかりと作用をなしている。行列の計算で、(AB)x=A(Bx)と

|1 0|・|x| |x|

|0 1| |y|=|y|

が成り立つのは周知の事実であるが、これは行列がベクトルに対して作用していることを表していると考えられる。


ここでxがgによってyに移るというのを、ψ(g,x)=yとなることと定義しよう。

また、見やすいように、g(x)=gxと書く。これはまるで、行列の積のように見える。


作用ψ(g,x)は次のような性質が成り立つ。


ψ(g,x)の全単射性

gを固定した時、ψ(g,x):X→Xであり、これは全単射。

[証明]

単射であることを示す。ψ(g,x)=g(x)とかく。

g(x)=g(y)であるならば、g^-1を両辺に合成して、

g^-1(g(x))=g^-1(g(y))⇄(g^-1・g)(x)=(g^-1・g)(y)⇄e(x)=e(y)⇄x=y


全射であることを示す。y∈Xを用意する。x=g^-1(y)とすると、g(x)=yになることから示せた。


xがgによりyに移されるならば、yはg^-1によってxに移される

[証明]

y=ψ(g,x)より、ψ(g^-1, ・)を両辺に合成すると、ψ(g^-1,y)=x。


さて、作用には関連して豊富な概念が定まる。


xの軌道(x-Orbit)

x∈Xの軌道をGx={gx|g∈G}と定める。


Gxは、作用によって移れるXの元の集合を意味している。

また、作用によって移れるXの元は同値関係をなしている。つまり、軌道でXを分解することができる。


軌道分解の原理

x~yをy∈Gxとすると、~は同値関係をなす。同値類はGx。

[証明]

~が同値関係になることを示そう。x~xはex=xを満たすため、自明。

x~y⇄y=xを示そう。対称性より、→を示す。y∈Gxより、あるg∈Gが存在して、gx=yが成り立つ。ここで、x=g^-1 yと取れるので、g^-1 y∈Gyより、x∈Gy

最後に、x~y,y~z→x~zを示す。y=Gx、z=Gyが成り立っている。すなわち、あるg,h∈Gが存在して、y=gx,z=hyが成り立つ。つまり、z=hgx∈Gxが成り立つので、x~zが示せた。

xの同値類がGxであることは、[x]={y∈X|x~y}より、y=gxとなるgが存在すれば、y∈[x]であるので、[x]⊂Gx。y∈Gxであれば、y=gxとなるgが存在するので、x~yより、y∈[x]。つまり、[x]=Gx。


同値類の定理群と先の定理により、Xには次のような分解が存在することがわかる。

軌道分解

X=⊔Gx

が成り立つ。


x-orbitの元の個数をxの軌道の長さ(length)と呼ぶことにしよう。軌道の長さを|Gx|とした時、これは|G|と等しくなりそうな気がする。しかし、gx=hxとなる異なるg,hの存在は否定できない。では、|Gx|=|G|となるようなときはどのような時だろうか。ズバリ、それは、GとXと作用が性質[gx=xを満たす⇄g=e]を満たす時である。ここで、次のような概念を導入する。


xの安定化群(x-stabilizer)

S(x)={g∈G|gx=x}


S(x)={e}の時、|Gx|=|G|が満たされる。


ここで、S(x)が一元集合ではないときはどのようになるのだろうか。


軌道と安定化の定理

|G|<∞とする。|G|=|Gx| |S(x)|が成り立つ。

[証明]

Gを高々有限な群とする。これより、G={g_1,g_2,......,g_n}とできるので、g_1を単位元とした時、h_1=g_1としてS(x)={h_1,h_2,.....,h_k}とかける。Gxの元はgxとかけている。この中のダブりを数えていく。gx=gh_ixであり、gh_i=gh_jであれば、h_i=h_jである。すなわち、gに対して、gh_1、g_h2、gh_3......は全て異なり、しかも、Gxの中でダブっている。全てのg∈Gに対してこの操作を行うと、

|Gx|=|G|/|S(x)|が示せる


つまり、x-軌道の長さはGが有限な時、|G|の約数であることが言えた。


次に、等質空間についてのべよう


等質空間

あるxに対して、Gx=Xの時、Xを等質空間といいGはXに推移的に作用するという。


定義がわかりにくいので、書き直してみよう。


xとXの任意の元yに対して、あるgが存在し、gx=y


あるxに対して、Gx=Xが成り立った時、Gxは同値類であるのでy∈Xの軌道Gyとの重なりが発生してしまい、次のことが成り立つ。


Xが等質であれば、どのようなXの元uに対しても、Gu=Xが成り立つ。


Gx=Xが成り立っていて、Gが有限ならば、軌道安定化定理を用いて|S(x)|=|G|/|X|が成り立つ。S(x)は必ずeを含むので、|X|≦|G|が成り立ち、Xの有限性が言える。


Xが等質で、Gが有限ならば、Xも有限である


Xの等質性をそのままにすれば次のことが成り立つ。

Xが非有限で等質→Gは有限ではない











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