第27話 スミス隊

「どれも折れてしまったか」

「まぁわかっていましたけど」


 俺の体に当たり無残にも折れてしまった剣達がクラウディア隊長とエリアエルの足元に転がっていた。

 しかしシグナは満足していない様子で二人に言う。


「も、もう一本!!! 」

「「ダメだ (です) 」」

「な、何故だ?! 」

「これ以上は流石に経費で落とせん」

「そんなぁ」


 へなへなと座り込むシグナ。

 その前で隊長達は剣を手に取りまじまじと見ていた。


「改めて君は人離れしているな」

「……めているんですか? 」

「無論褒めている」


 そう言いながら剣を別の箱に入れるクラウディア隊長。それを見習いエリアエルも折れた剣を仕舞い始めた。

 手伝わないと、と思い俺も服をもう一回着直し始める。


「アダマ君は今日一日そのままだ」

「え? 」

「わたしは構いませんが隊長。それだとアダマの肉体を他の人に見られますよ? 良いのですか? 」

「む。それは嫌だな。ならば命令を変更だ。私といる時だけ上着を脱げ。いや下も脱げ! 」

「嫌です! 」


 その言葉に身の危険を感じてすぐに服を着る。

 剣の残骸ざんがいがあるほうからは不満の声が上がっているが気にしない。

 隊長の命令を聞くとシグナのような露出狂と思われるかもしれないし、何より隊長と一緒の時だけ脱ぐと躊躇ちゅうちょなく襲ってくるだろう。

 それだけは避けなければ。


 服を着替え終えて折れた剣を手に取る。

 しんからぽっきりいってるな、これは。

 本当に隊長じゃないが、本当に俺の体もかなり硬くなったものだ。


「そう言えば今日たずねる部隊は何という部隊なんですか? 」

「ん? 言ってなかったか」


 そう言いながらまた一つ仕舞い終わる隊長。

 折れた剣を持ちしゃがむ俺を見下ろしながら教えてくれた。


「今日行くのはスミス隊だ」


 ★


 片づけを終えた俺達は、少しすっきりしたような表情をするシグナを連れて、スミス隊が休憩しているという場所へ向かっている。


「スミス隊は研究職の集まりだ」

「研究職? 」

「あぁ。無論戦闘力は独立ダンジョン攻略部隊に相応ふさわしい戦闘力を持っている。しかし同時に攻略したダンジョンを自分達で研究したいという変人の集まりだよ」


 スミス隊の人達もクラウディア隊長にだけは言われたくないだろう。


「その中に邪神教団に詳しい人がいるというわけですか? 」

「邪神教団、というよりも邪神そのものだな」

「……そう言われるとその人が邪神教団の団員に思えてくるのですが」

「まぁそう思われても不思議ではないだろう。しかし彼女は邪神教団の団員ではないよ」

「ならば何故邪神について詳しいのですか? 」

「彼女の専門は考古学。過去に邪神と呼ばれる存在が歴史に出て来たことはある。過去を知り、考える彼女ならば邪神について何か知っていてもおかしくないだろ? 」


 確かに、と頷きながら兵舎へいしゃの中を進んでいく。

 というよりも過去に邪神が出て来たことがあるという事実に驚きだ。


 よくこの世界は滅亡していないな。

 そう思いながら進むと作戦会議室と似たような部屋に着いた。

 そして隊長がノックもせずに「バン! 」と扉を開けて中に入った。


「た、隊長?! 」

「スミス! 来たぞ! 」


 大声で叫びながら隊長が中に入っていく。

 その様子を見て、俺達は顔を見合わせた。


「ど、どうする? 」

「流石にこのままついて行くのは失礼かと」

「でも隊長はずかずか入っていくぜ? 」


 シグナが中に消えていく隊長を見る。

 つられるように俺とエリアエルも隊長の方を見たがすでに中に入りこんでいた。


「起きろ! スミス! 」


 何やらスミス隊長は寝ているようだ。

 しかし寝ているからといって勝手に入っていいわけではない。

 というよりも寝ているのならば尚更なおさら入ったらダメだろう。


「アダマ君達も入ってきたまえ。そしてこいつを起こすのを手伝え」


 隊長の指示が飛んできた。

 俺達は再度顔を見合わせ、「行くしかない」と心の中で溜息をつきながらも中に入った。


 扉を潜り中に入る。

 窓が開いているのか風を感じるが——


「ケホッ、ケホッ! 」


 ほこりが舞い上がりせき込んだ。

 すぐに周りを見るとそこには資料や実験器具のようなものが散乱さんらんしていた。

 俺の部屋よりもひどい。

 何だここ?


「起きろ、スミス。起きないとむち打つぞ」

「まぁ待ち給え。ダンジョンにおける魔物の発生に関しての論文は……」


 隊長の声がする方を見る。

 その小さな人がいたのは執務しつむ台ではなくそなえられたソファーの方だった。

 器用きよう寝言ねごとを言うな、と思いながらも彼女の周りに散乱している資料をみて片付けたくなる。


「スミス!!! 」

「うおっ! 」


 クラウディア隊長がソファーで寝転がるスミス隊長の耳元で叫ぶとスミス隊長が起き上がった。

 ぼさぼさの髪を少しきながら周りを見る。


「……クラウディアか」

「やっと起きたか」

「やっと起きたかではない。人の作戦会議室に勝手に入るなと何度言ったらわかるんだい」

「お前がノックの音で起き上がるのならばそうするが? 」

「諦め給え。そして私も諦めよう」


 そう言いながら白衣を着たスミス隊長は起き上がる。

 まだ眠たいようでウトウトしながら執務台へ向かっている。

 そして座るとクラウディア隊長の方を見た。


「で何の用だい? 君が来るのには相応そうおうの理由があると見たのだが」

「ヒステリカ女史じょしはどこだ? 」

「ヒステリカ? あ~」


 少しうめくような、考えるような声を出しながら何やら帳簿ちょうぼを見るスミス隊長。

 半開きの目でパラパラめくり、ある所で止めた。


「ヒステリカは今日も軍の図書館だな」

「そうか。では世話になった」

「ちょっと待ち給えクラウディア」

「何だ? 」

「君がヒステリカに用事があるという——天変地異の前触れかと思うくらいに珍しい現象が今ここで起きたわけだが、一体彼女に何の用だい? 」


 すぐさま帰ろうとした隊長を引きめて聞いた。

 す、鋭い。

 確かに討伐専門の俺達が考古学専門ヒステリカと言う人に用事があるのは不自然だ。

 だが寝起きでよくそこまで頭が回る。


「隠すことでもないから言うが、少し邪神について調べたくてな」

「邪神? あぁ~おえらいさん達がやたら騒いでいたやつか」

「そうだ。無論我々が何もしないで済むのが一番いいのだが備えておく必要はある。それに過去の事例を知るにはヒステリカ女史に聞くのが一番だろ? 」

「確かにあの歴史中毒に聞くのが一番だね。引き留めて悪かった。行っても構わないよ」

「寝ていた所悪かったな。徹夜てつやをするなとは言わんが、少しは体調に気を付けろよ? 」

善処ぜんしょするよ」


 そう言い隊長は部屋を出て行く。

 俺達はペコリと頭を下げて扉を閉めた。


 隊長が他の隊のことを気にかけただと?!

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