カエサル隊の日常 2 ある日の朝礼

 俺達の朝は早い。


 俺は鳥もさえずらない暗い朝起きるとすぐに支度したくをする。

 ベットから起き、特注とくちゅうの椅子を横切り白いクローゼットへ向かう。

 寝間着を脱ぎ、大きなシャツにすそを通し、黒いズボンとジャケットに身を包んで鏡に立つ。

 鏡で寝癖ねぐせが無いかチェックをし衣服をただした。


朝礼ちょうれいまであとは……」


 呟きながらも鍵を手に取る。

 やり残したことがないのを確認して扉を開けた。


 ★


「アダマ君。君が書類を書くのが苦手なのは知っている」


 ため息交じりにクラウディア隊長が言う。

 俺は冷や汗をかきながら隊長のお叱りを受けていた。

 両隣ではエリアエルとシグナが笑いをこらえているのがわかる。

 そんなに笑わなくてもと思うも今回は俺の過失かしつなので仕方ない。


「まさか書類を持ってくるのを忘れるとは思わなかったよ」

「申し訳ありません! カエサル隊長! 」

おろか者! 」


 怒鳴られ背筋が伸びた。

 怒ると怖いんだ、隊長殿は。


「私の事はクラウディアと呼べと言っているだろうが! 」

「そっちですか」


 急に脱力し言葉がれた。

 しかし隊長殿はそれが気に入らなかったようだ。


「そっち、ではない。これしかないだろう? 」

「いえ書類の事とかあると思うのですが」

「そんな取りに行ったら済む話は別にいい」

「いえ、絶対によくないと思います」

「話しがれていませんか? 」


 少し冷たいエリアエルの言葉に隊長は「はっ」とする。

 コホンと軽く咳払いをした後、今日の本題に入った。


「今日の死者のダンジョンでの素材採取は休みだ。最近になって他の部隊が独自で二十一階層に行けるようになったからな」


 死者のダンジョン。

 俺達が最初に踏破とうはしたダンジョンで一回死んだダンジョンだ。


 俺はこのダンジョンのコアを操作することで、各階に緊急時外に出ることができる帰還用の転移魔法陣を設置した。

 流石に発生する魔物を変更することは出来なかったが強さは弱くすることができた。

 これにより死者のダンジョンへ国所属の研究者が入るれるようになり、今さかんに研究を行っている。


 俺達は踏破者として時々それについて行き、護衛をしたり魔石を手に入れるために魔物を殲滅したりしていたのだが、今日は大丈夫なようだ。


「よって我々の任務は未踏破ダンジョンの攻略となる。国内には今も危険にさらされる町や村は多くある。それを救うのが我らの仕事だ。と言うことで今日もダンジョン攻略だ。頼むぞ諸君」


 隊長の命令に大きく返事をする。

 作戦会議室を出ようとすると窓の外から火のような物が見えた。

 軍の朝練、か。

 外はまだ暗い。

 恐らく火属性魔法の灯りだろうと思うが、それを見てふと気が付き振り向いた。


「隊長、少し良いでしょうか? 」

「ん? なんだ。珍しい」

「俺達訓練とかは良いのですか? 」


 それを聞きクラウディア隊長は何か気が付いたように「あぁ~」と間延まのびした声を上げた。

 俺の疑問にエリアエルとシグナも気付いたのか隊長に向いた。


「確かに本格的な訓練をしていませんね」

「訓練したいときにしていたからな。そう言えば連中のような訓練はしてないな」


 いくら独立ダンジョン攻略部隊と言えど、それはどうなのだろうか。

 そう思いながらも俺達は隊長の方を向く。

 すると隊長がこちらを向いて説明を始めた。


「君達。いや私もだが、訓練は自由だ」

「……良いんですか? 」


 周りが必死に訓練しているのにやらないとなると少し罪悪感を感じる。

 やらなくても良い理由でもあるのだろうか。


「構わない。そもそもな話私達はダンジョンを攻略するための実働部隊だ。いうなれば早朝こうして集まり、朝ダンジョンに行き、夜に帰って来る。これが訓練のようなもの。そもそもな話、君達にあんな訓練必要か? 」


 とくいっと親指を窓の方を指して言う。

 そう言われると微妙だ。

 それぞれ使える技もことなれば一人一人が一騎当千いっきとうせん

 訓練場ダッシュや腕立てせとかはできても疲れずできる自信がある。

 必要があるのかというと、ないだろう。


「それにあのようなに入れるか? 」

「「ぐっ……」」


 隊長の言葉に二人が詰まった。


 日々自由気ままに動いているエリアエルとシグナ。

 エリアエルが魔法を放てば建物は壊れ、シグナが動けば男が困る。

 この個性の集まりは周りに合わせて行動するのには向いていない。

 指摘してきもっともだが隊長も人の事を言えないだろうと心の中で追加しておこう。


「何か言いたそうな顔をしているな、アダマ君」

「そのようなこと御座いません、クラウディア隊長」

「君の事はよく知っているつもりだよ、アダマ君」

「……俺ここに来て一か月も経っていない気がするんですが」

「時間なんて関係ない。君とのなかだ。差し詰め私の事を「人の事を言えないのでは」とでも思っているんのだろ? 」


 な、なんて鋭い。


「その顔は図星ずぼしだね。全く私は不敬ふけいな部下を持って悲しいよ」

「……申し訳ありませ——「これはお仕置きが必要だな。むちで叩かれるのと、ベットの上でどっちが上かわからされるの、どちらが良いか選択肢をやろう」——是非ぜひとも第三の選択をください! 」


 すぐさま俺は頭を下げる。

 どっちも嫌だ!

 幾ら痛みを感じないとはいえ鞭で叩かれるなんて好んでするものじゃない!


「ちょ、ちょっと隊長! 流石にそれはやり過ぎではないでしょうか! 」


 エリアエルの声が聞こえてくる。

 顔を上げ彼女を見ると隊長に向かって詰め寄る姿が見える。

 興奮しているのか少し顔が赤いが、それほどにあわれんでくれているということだろう。

 本当に良い同僚どうりょうを持ったな。


「やり過ぎではないと思うが……。エリアエルも混ざるか? 」

「よろしくお願いします」


 何ですぐにクラウディア隊長についているんだ?!


「それは楽しそうだな。私も混ぜてくれよ」

「良いだろう。では今晩はアダマで遊ぶとするか」

「頼みますからやめてください! 」

「君の意見は通らんよ。部屋を綺麗にして待っておくんだぞ? 君は目を離すとすぐに部屋を物で散乱させるのだから」

「!!! なんで隊長がアダマの部屋の事を知っているのですか?! 」


 本当に何で知っているんですか!

 それに訂正ていせいしていただきたい。

 あれが普通の男性の部屋です!


 少し抗議の目線を送っている、とクラウディア隊長はエリアエルを見下ろしコテリと首を傾げた。


「部下の事をチェックするのは隊長の役目やくめだろ? 何もおかしなことはない」

「おかしなことばかりです! 」

「そうでもないとおもうが……、そう言えばエリアエルの部屋にアダマの——「おかしなことはないと思います」——素直でよろしい」


 え、ちょっと待ってください。

 彼女の部屋に俺の何があるのですか?!


「では今日も出撃! 」


 待ってください。

 せめて何があるか教えてください!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る