第25話 連続殺人鬼を討伐せよ! 3 魔人『カイト』

「アダマ。あれはヤバい! 」


 クラウディア隊長の言葉が聞こえる。

 浮いているカイトを見るが俺には脅威に映らない。


「大丈夫ですよ。隊長」


 そう言いながら俺は前に出る。

 するとロキの隣まで行った。


「おおお。勇敢ゆうかんだね。寿命を使うとは言え、あれは国に出現すると大混乱になる代物だよ? 」

「そうか。ならばあれを倒した後君も捕まえないとな」

「なんで~。ボクは悪いことしていないのに」

「立派な国家転覆てんぷく罪だ」

「ぶーぶー。遊んでいただけで国家転覆罪なんてひどい」


 人を魔物に換える奴にだけは言われたくない。

 しかし今はカイトが先だ。

 更に近寄りカイトを見上げる。


「アダマ。貴様だけはぁ! 」


 カイトが怒りのままに声を上げた。

 しかし一体俺が何をしたというのだろうか。


「何で……。なんで俺じゃない! 」

「? 」

「俺は貴様を捨てて栄光えいこうを行くはずだった! なのに何でお前がそこにいる! 何でお前が賞賛しょうさんされている! 」


 本当に何の話をしている?


「賞賛されるのは俺のはずだぁぁぁぁぁぁ!!! 」

「そんなくだらない理由で」


 指を指しながら怒鳴る魔人カイトに呆れて見上げる。


「まさかとは思うがそんな理由で人殺しをしたのか? 」

「そうだ。あいつらがお前の話をするのがたまらなかったんだ! 」

「そんな利己りこ的な考えで」


 拳を握り決意を固める。


 殺す。


 確実に——殺す。


 カイトは放置してはいけない人物のようだ。

 もし魔物化が解けても殺される運命にあるだろう。

 ならばせめて元メンバーの俺が。


「カイト! 」

「アダマァァァ!!! 」

「死にさらせ。千手連打ヘカトンケイル


 ★


「おおお。すごいね」


 ロキはアダマの連打を見て興味津々に見ていた。

 その首筋には一本の細剣レイピアえられているが気にしていない。

 

「貴様。今の状況がわかっているのか? 」


 クラウディアが言うも気にせず彼女の方を見る。

 ロキの無邪気な顔が彼女を更に警戒させる。

 だがロキは意外な言葉を放った。


「分かっているよ。今回は仕方がない。ここは大人しく捕まるとしよう」

「……随分といさぎよいな。何をたくらんでいる? 」

「企むも何も……、流石に神殺しの肉体を持つ相手と正面から立ち向かう勇気はないよ」


 クラウディアの言葉に両手を上げて降参のポーズをとるロキ。

 警戒するクラウディアは疑問に思いながらも注意を解かない。


「終わったぞ」


 そう言うアダマの後ろには布切れ一つ残っていなかった。


 ★


「住民の避難。大変だったんですからね」

「分かってるって。でもこの命令は元を正せば君達衛兵から来たようなものなんだから、少しくらい苦労してもらってもいいと思うが? 」

「うぐっ! 」


 ダメージを負ったように崩れる茶髪の衛兵。

 彼女はイリーナ。俺達が戦闘した区画を担当する衛兵長だ。


 ロキを国に渡した後、俺はいつものごとく書類の山にもれて今解放された所だ。

 そして現場が気になり向かったのだが、俺が行ったら多くの作業員がそこにいた。

 これはどういうことかと思い衛兵長である彼女の元を訪れたのだが、開口一番愚痴ぐちられた。


「で住民はなんていっているんだ? 周辺の建物を粉々にしてしまったんだが……」


 何が起こるかわからないから作戦を行う場所周辺の住民には一時退去たいきょしてもらった。

 そのおかげか魔人カイトとの戦闘により人的被害は出なかったが……。


「建物を粉々にするとは流石アダマさんですね」

「うぐっ......。流石に怒っているよな? 」

「住民の人達は新築にすると言ったら大喜びでしたよ? 」


 そ、そうか。それは良かった。

 正直やり過ぎた感はあったから何を言われるか冷や冷やものだったんだ。

 しかしこれでエリアエルの事を言えなくなってしまった。

 自分がやらないといけないという使命感からカイトの相手をしたが、結果を見ればシグナに任せるのが一番被害が少なかったと反省している。


 そう思っているとイリーナが言う。


ちなみに太っ腹な王家からの支援です。何でしたら私の家も吹き飛ばしてくれたらよかったのに」

「馬鹿を言うな。住んでる所全く違うだろ? 」

「な、なんでそれを知っているのですか?! まさかストーカー?! きゃぁー! 」

「変な言いがかりは止せ。作戦を立てる時に誰がどこにいるのか調べたんだ」

「でもそれってやっぱりストーカーですね。きゃぁぁぁ。モテる私はつらい!!! 」


 ほほに手を当て騒ぐイリーナ。

 常にハイテンションな彼女だが残念さがにじみ出ている。


 今回の作戦は隊長のスキルありきの作戦だった。


 クラウディア隊長が持っているスキルの一つ『傀儡師ドールマスター』。これにより召喚された親衛隊をあやつり敵を捕縛ほばくする、というのが今回の作戦だった。

 大量の騎士型の人形を召喚し戦闘を行う性質上、もし敵が抵抗した場合広範囲に戦闘が及ぶ可能性がある。

 よって周辺住民には避難してもらったのだ。


 作戦を組み立てている時知らされたが、クラウディア隊長のスキルはあくまで補助。その力は細剣レイピアによる近接戦闘や魔法鞭マジック・ウィップによる部下の強化や敵の錯乱さくらんとの事。

 あの軍隊を召喚して、あれがおまけだなんて内心驚きを越して呆れている。

 同時に隊長がどれだけ強いのかがわかる。


 魔法鞭マジック・ウィップを持って笑みを浮かべながら敵を打つ姿。

 むむむ……。似合い過ぎてこれから隊長を見る目が変わりそうだ。


 一人考えているとイリーナが一人盛り上がっている。

 その様子に溜息をつきながらも彼女に注意した。


「そんなに無防備だと、その内本気で犯罪に巻き込まれるぞ? 」

「その時は守ってください」

「断る! 」

「えぇえぇ! 」

「俺は大人の子守ではない」

「えええ~。エリアエルやシグナは守るのにですか? 」

「そりゃぁ仲間だし、そもそも守るのは戦闘の時だし」

「じゃぁ私はこれから衛兵辞めてカエサル隊に入ります! 」

「おおーい。イリーナちゃん。終わったぞ」

「はーい。今行きます」


 衛兵辞めると言った瞬間に衛兵の仕事に戻るイリーナ。

 仕事熱心なことは良い事だ。

 なんだかんだ言って彼女は中央区の人にしたわれている。

 そんな彼女だからこそ住民の避難がスムーズに行ったのだろう。


「アダマ。ここにいましたか! 」

「見つけたぞ、アダマ。さぁダンジョンへ攻略散歩に行こう! 」

「仕事をさぼり女性と密会とは良い度胸どきょうだなアダマ君。これはみっちりその体に教え込まないといけないな」

「……何をですか」


 隊長の言葉に溜息をつき前を向く。


 今日も今日とてカエサル隊は元気いっぱい。

 俺は仲間変態達とダンジョン攻略を行う。


———

 後書き


 こここまで読んでいただきありがとうございます!!!


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