追放者サイド 7 再会

「はは。中央区の衛兵とはいえ、よぇな! 」

「ご満悦まんえつだね」


 ロキは微笑みながらカイトにいた。

 ここは中央区の二人の隠れ家。部屋は真っ暗いがカイトが満悦な表情をしているのはロキにはわかる。


「しかし助かったぜ、ロキ。最初はどうなるかと思ったけどな」

「それはボクの方だよ。様子を見に外に出てカイトを発見すると人を殺してたんだから」

「仕方ねぇだろ? あの女が目障めざわりだったのが悪い」


 明らかにくるっていることを言うカイトだが、それを気にせず「そうだね」とだけ言うロキ。

 カイトもカイトだが、ロキもロキでどこかおかしい。

 ロキの異常さに他の人なら気付くのだろうが、今のカイトは気付くことができないでいた。


「でここはどこなんだ? 」

「秘密基地さ」

「出るたびに、出る場所が違うんだが」

「細かいことは気にしないの。中央区のどこか、とだけ教えておくよ」


 ロキの言葉に「そっか」とだけ答えて酒を飲むカイト。

 この酒はとある酒屋で奪ったものだ。


 カイトは中央区で殺人を犯した後ロキに拾われどことも知れない空間に入った。

 そこ——つまり今いる場所にはベットに椅子に机にクローゼットなど様々物がそろっている。

 最初は戸惑ってもののどんどんと慣れて行きこうして馴染なじんでいる。


「カイトはもう冒険者と言うよりも盗賊だね」

「はは。確かにな。しかしまぁ……冒険者になりそこねたやつが盗賊になる気持ちがよくわかる」


 酒をグビっとラッパ飲みし口をいてロキに向く。


「だがまぁ俺は奴らとは違う。何故なら俺は冒険者だからな」


 その様子にロキが「馬鹿じゃないの」と思うも、それを言わずただニコニコと「そうだね」と言う。


 ロキのスキルによってカイトが犯人とばれないように情報操作した。

 やったことはそんなに複雑ではない。

 単純にカイトが行動を起こしかけるのタイミングでカイト周辺に「認識阻害」をかけただけ。

 普通の魔法使いが行ってもこれだけの結果は出せない。

 只々ただただロキの力が強すぎるだけなのだがカイトにとっては好都合であった。


 (場所と言い阻害のスキルと言い本当に頼もしい奴だぜ)


 パンを食い千切りながらカイトは思う。

 ここに来て散々さんざんだった。町の中で日々聞かされる汚いおっさんアダマの話。

 それを聞くたびにストレスがまっていった。

 元々我慢強いタイプではないカイトはそれをらすかのように毎晩何人もの人を殺し物を奪った。

 最早強盗殺人以外のなにものでもない。

 しかしカイトはそれを行うたびに——罪悪感を覚えるどころか——快楽かいらくを感じていた。

 自称じしょう冒険者カイトの行動は強盗殺人から快楽殺人へと変貌へんぼうしているのであった。


 パンを食べ終わりまた酒を流す。

 その様子を見たロキは愉快ゆかいそうに彼を見ていた。


 (カイトは今度、どんな面白ことをしでかしてくれるのかな)


 楽しい事が最優先のロキは今の状況を楽しんでいる。


 カイトが取る行動に騒ぐ周囲。

 幾らロキがスキルを使用しようがカイトが捕まるのは時間の問題。

 高度な認識阻害を使おうが、例えどこに隠れようがいずれカイトは捕まる。

 その周辺で認識阻害が使われたとしても、カイトの移動履歴と犯罪を犯したタイミングをチェックすればすぐにわかる。

 後はしらみつぶしに探すだけ。


 ロキにとって少し意外だったのはカイトが予想以上に剣術が上手かったことだろう。

 これがロキの好奇心をさぶり更にカイトを犯罪者に仕立て上げていた。


「ねぇ次はどうするの? 」


 ロキがそう言うとカイトは彼を「ああ? 」と見上げて考える。

 男なのに少女を思わせる整った顔。白に近い短く青い髪とんだ青い瞳がカイトを見つめている。


 (……っち。俺はちげぇ! なら……)


「女を襲う」

「女を? 」

「あぁ。そろそろ限界だ」

「あっそ」


 ロキはもちろんカイトの目線に気が付いている。

 正直不愉快以外なんでもないが全ては楽しむためと割り切りスルーしていた。

 解消する手段を自分で見つけてくれて内心ほっとするも、あることに気が付いて提案した。


「なら部屋を用意しておくよ」

「お前は本当にさっしの良い仲間だな」

「そうでもないよ」


 少女のようなあどけない笑顔を見せながらロキはスキルを発動する。

 そしてカイトは外の出た。


 ★


 静かな夜、カイトは道を歩いていた。

 不自然なくらいに静かな道だ。

 足音はカイトとロキの二人分。確かにカイトは人気のない場所を歩いているがこの静けさは不自然極まりない。

 ロキはそれに気が付くもカイトは気付かない。

 そしてそのまま進むと一人の茶色いローブを被った人がいた。


 (女だ)


 カイトの中で欲情よくじょうがこみ上げてくる。

 どんどんと早まろうとするが自身を押さえつけようとする。


 (いくらロキのスキルがあるとはいえ完璧じゃねぇ。抑えろ。一瞬で終わらせて、連れ込む)


 体中に力をめる。

 静かに、静かに進み、そしてローブの女性に手をかけようとすると——


「雷剣」


 腕が一本吹き飛んだ。


「ギャァァァァァァァ!!! 」

「引っ掛かりましたね! 隊長! 」

「分かっている! 召喚サモン: 女王親衛隊ドール・ナイツ


 上から声がする。

 声に応じるかのようにカイトの周りから途轍とてつもない気配が突如とつじょとして出現する。

 囲まれたことを確認しながらロキを見る。

 両手を振ってニヤニヤしているのがわかるがカイトを助けようとしない。


 (くそっ! あいつは何をしているんだ! 役立たずめ! )


 ロキに向かいいわれもない誹謗中傷ひぼうちゅうしょうびせながらも痛む腕を抑えるカイト。

 歯をみしめかすみがかかる頭で逃げれないか考える。

 右を見る。そこには一人の女剣士が剣をつきつけていた。

 左を見る。そこには魔杖ステッキを向ける女魔法使いがいた。


 (ちくしょう! 逃げ場がねぇ!!! )


 血を失い過ぎたのかどんどんと頭がぼーっとしていく。

 そんな中体をひるがえし上を見た。

 建物の上にいたのは知っている人物で有名人。


 (一人師団……)


 苦々しい顔を浮かべながらその名を告げる。


人喰らいマンイーター、クラウディア・カエサル」

「今の私は黒の指揮姫プリンセス・コマンダーと呼ばれているんだ。その呼び方はやめろ、ログ子爵家の馬鹿息子もやし


 はぁはぁと息を吐きながらもう片方の腕で立ち上がろうとする。

 近くの硬いものに背を預けて息を整える。

 逃げようと考えるも、背を預けたものが温かい事に気が付いた。


 恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはもう一つ見知った顔が彼を見下ろしていた。


「……アダマ」

「こんな形で再開するとは、本当に残念だ。カイト」

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