第4話 アダマとカエサル隊 1

「も、申し訳ありません」


 カエサル隊長の殺気をもろに浴びている少女がひたすら扉の前で謝っていた。

 彼女も俺と同じカエサル隊の隊員のようだ。


 頭を下げる彼女だが黒いドレスのような服を着て、縦横たてよこに大きな帽子ぼうしかぶっている。見たことのない魔法使いの帽子だが、どこかの国の流行はやりだろうか。


「これで何回目だ? 」

「え、えぇ~っと? 」

「少なくとも私は十回以上他の隊長に謝っているのだが……その点はどう思う? エリアエル隊員」

「ご、ごめんなさい……」


 今にも泣きそうな声を出している。

 隊長も殺気を解いて「はぁ」と大きく息を吐いた。


「言いたいことは山ほどあるが……、丁度ちょうどいい。新しい隊員が入った。自己紹介しろ」

「え?! こちらの方隊員だったのですか! 」


 驚き俺の方を見上げてくる。


 青い瞳の彼女は短いオレンジ色の髪を少し上下させ、「コホン」と軽く咳をして声たからかに自己紹介をした。


「わたしは『エリアエル・マーリン』と言います。これからよろしくお願いします! 」

「俺はアダマで、つい最近まで冒険者をしていた。よろしくな」


 笑顔を浮かべて手を差し出す。

 するとエリアエルは「ひぇっ! 」と後退りし、元の位置に戻って来た。

 毎回の事だが俺の笑顔はそんなに怖いのだろうか。

 

 そう思っていると俺の手に温かみがつつんだ。

 手を見ると小さな両手がにぎられていた。

 そこから目線を上げるとまだおびえているような顔をしているが……、悲しくなんかないぞ。


「わたしは見ての通り魔法使いになりますが、あまり魔法に期待しないでください」

「……補助魔法でも使うのか? 」

「いいえ。もっぱら攻撃魔法です! 」


 顔を上げ、「ふんす」と言った表情で見上げて来た。

 ん? どういうことだ?


「攻撃魔法。特に範囲攻撃魔法をとします! 」

「? 」

「多くいる魔物に範囲魔法を叩きこむ。これほどの快感かいかんはないでしょう!!! 」


 と力説りきせつしてくるエリアエル。

 あ、危ない人だ。

 この隊にはヤバい人しかいないのか?!

 だがそれは魔法が得意と言うことになるよな。


「どうしてエリアエルに魔法を期待したら行けないんだ? 」

「答えは簡単だ」


 俺がエリアエルに聞くとカエサル隊長が割って入った。


「さっきの衝撃、どう思う? 」

「エリアエルの誤爆ごばくですか? どう、と言われましても……、凄いなとくらいにしか」


 俺は魔法の専門ではない。

 魔法の事を聞かれてもわからないが、兵舎へいしゃさぶるくらいの範囲魔法を打ち込んだのだ。弱いことはないのだろう。


「確かにエリアエル隊員の範囲攻撃魔法は強大だ。それこそこの兵舎に張られた、――この国の高位魔法使い達が全力で作り上げた結界を打ち破りそうになるくらいには」


 思った以上にヤバかった。

 そんなものをこの兵舎に打ち込んだのかこの子?!

 しかし——。


「それはすごい事なのでは? 」

「……範囲がもっと狭かったらな」


 嘆息たんそく気味にカエサル隊長が言った。

 しかしそれにエリアルが反論する。


「範囲魔法は広い方が良いのに決まっています! 」

「確かにそうだが仲間事吹き飛ばしたら意味がないだろ? 」

「ぐ......確かにその意見にも一理いちりあると思います。が――」


 一理どころかその通りだと思うが。

 しかしガバっと顔を上げて一歩踏み出し声高らかに言った。


「しかし! 広い方が爽快そうかいでしょう!!! 」

「変態だぁ!!! 」

「カエサル隊長に認められた貴方には言われたくありません! 」

「いや意味が理不尽! 」

「その中にお前も入るのだがな。エリアエル」


 そう言うと二歩三歩後ろに下がる。


「……カエサル隊長はそっちもイケるたちでしたか」

「とんでもない誤解を受けているようだから一応念のために解いておくと私はヘテロだ」

「「本当に? 」」

「……今後君達とどうせっして行くのか考える必要がありそうだな」


 そう言いカエサル隊長は大きく溜息ためいきをついた。


「私は彼女を純粋な戦力として迎え入れたのだよ」

「聞く限りだと確かに高い攻撃力を誇っていますね。集団戦で活躍しそうだ」


 そう言うと前にいるエリアエルが得意げに胸を張った。

 後ろから見ている為わからないが「どやぁ」としている様子がよくわかる。

 カエサル隊長の表情で。


「しかし味方ごと……、あ、いや。そうか」

「どうした? 何か思いついたのか」

「いえ俺の『硬化』のスキルは『範囲防御』と合わせることで味方にも付与できます。これならば範囲魔法が味方に被弾ひだんしても大丈夫でしょう」

「だがそれだとアダマ君に痛みがフィードバックするんじゃないのかい? 」

「……良い事なのか分かりませんが、この組み合わせを続けたことで痛みを感じなくなりまして」

「後天的に『痛覚鈍化』や『苦痛耐性』のようなスキルを会得えとくしたのか」


 隊長が俺を少しあわれむような目線で見る。

 そ、そんなに困難なのか? この耐性スキルを得るのは。

 そう思っているとすぐに隊長は獰猛そうな顔で俺を見た。


「これでやりたい放題だな」


 ……。


 やはりカエサル隊長はカエサル隊長だった。

 少し真面目な話をしていたからもう大丈夫とたかをくくっていたのだが、違ったようだ。

 隊長が捕食者の顔で俺を見ているとエリアエルが目をキラキラさせて俺を見上げてくる。


「ということは、ということは! 」

「あぁ。アダマ君がいればエリアルもダンジョンに潜ることができるだろう」

「流石隊長です! 変態さんもありがとうございます! 」

「変態じゃない」


 何故にカエサル隊長に入隊を認められただけで変態扱いを受けないといけないんだ。

 どちらかと言うとこの二人の方が変態だ。


「? 誰か来たな」


 エリアエルのテンションが爆上がりする中カエサル隊長が何かに気が付く。


 俺にはわからないが、恐らく彼女は探知系か感知系のスキルで何か感じ取ったのだろう。

 カエサル隊長の一言でエリアエルが少し大人しくなる。

 それにつられて俺も背筋を正す。


「誰が来ているかわかるか? 」

「ええ。大体は」

「……それは普通の人か? 」

「少し……変わってますね」

「エリアエルに変わっていると言われるのなら、かなり変わっているんだろうな」

「そんなことありません。いえありますけど、違います! 」

「来るぞ」


 カエサル隊長が教えてくれると同時にタタ、タタ、タタ、タタという足音が俺にも聞こえて来た。

 同時にカエサル隊長は椅子を回転させて後ろを向いた。


 バン!!!


「隊長! エリアエルがやらかしました! 」

「……今それについて話していたところだよ。シグナ・ルーン」


 カエサル隊長は——椅子を回転させて——そう言った。

 毎回それをするのですか。

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