追放者サイド 1 カイトは一人高笑いする

「ハハハハハハ、やっとあの目障めざわりな奴が消えたぜ」


 冒険者ギルドの一角でカイトが一人たか笑いしていた。

 キルケーも「本当にそう」とうなずきながら彼を肯定こうていする。

 メアリは関心無さそうにそれを見つつ水を飲んでいる。

 しかし機嫌が良いのかメアリの様子に気付かずにカイトは声を上げて更に言った。


「Aランクに上がるのにあんなおっさんがいたら点にしかならねぇ」

「全くよ。思えば何でアラサーのおっさんが私達のパーティーにいたのかしら? 」

「確かメアリが引き連れて来たじゃなかったか? 」

「そうだよ」


 思い出したかのようにカイトはメアリに振る。

 それを肯定したメアリは説明を始めた。


「前は盾役がいなかったからね。『硬化』のスキル持ちだったし丁度ちょうどいいかなって」

「へぇ」

「盾を必要ない『硬化』もち。あの時はパーティーの財源ざいげんも限られていたしね」

「ふ~ん。ならメアリは何でおっさんの追放に何も言わなかったんだ? 」

「それはお金がたくさん入ったからさ」


 それを聞き少し首を傾げるカイトとキルケー。

 その二人に説明するように彼女は言う。


「もうすぐAランクだし優秀な盾役を雇えるでしょう? 確かにアダマは優秀だけどこの先通じるかはわからない。なら盾役を換えた方が良いって思うんだけど……というよりもカイトもそう思って追放したんじゃないの? 」

「そ、その通りだ」


 少しあせるように言うカイト。

 さっして話題を変えるキルケー。


「そう言えばカイトがじ込んだっていう独立部隊? ってどんなところ? 」

「あぁ。あそこか。何でもヤバい奴が隊長をしているらしいぞ? 」

「「ヤバい奴? 」」


 その言葉にキルケ-のみならずメリアも聞く。

 それに大きく頷いて続けた。


人食らいマンイーター、と呼ばれているやつだ」

「それは物騒ぶっそうね」

「そこにアダマがいった、と」

「そういうことだ。入った途端とたんにパクりとやられそうだ」

「ハハハ。それは傑作けっさくね! 私をいやらしい目線で見ていた罰よ。良い気味だわ。私を、見て良いのはカイトだけよ」

「あぁ。本当に気持ち悪いおっさんだった。俺は、もしかしたらお前達が狙われているんじゃないかと思ったぜ? 」

「止めてよ。気持ち悪い」


 少し思い出したのか両腕を体に回して震えるキルケー。


「でも私の事を思って追放してくれたのね」

「ああ、もちろんお前達の為だ」


 その言葉にキルケーは少し表情を引くつかせるもすぐに戻しカイトに近寄る。

 メアリは「また始まった」と思いつつもグサリとフォークを食事に突き立てた。


「ま、これからは俺達の時代だ。サクッとAランクに上がっちまおうぜ」


 そう言いこの場は解散した。


 ★


 翌日冒険者ギルドにて。

 カイトは早速盾役募集の張り紙を出していた。内容は臨時の盾役募集。一先ず臨時で様子見て本採用するか考えるという算段さんだんだ。

 自分達は新進気鋭しんしんきえいのBランク冒険者パーティー『聖杯を受け継ぐ者』。募集が失敗することなんて考えていない。


 (順調順調。メアリの提案は予想外だったが、いわれてみればそうだ)


 その昔コスト面から盾使いを入れるか迷っていたカイト達。当時のパーティー運営資金は少なかった。そこでメアリが提案して入れたのがアダマだったのを思い出す。


 (今回せる金は多い。少し金を払ってでも盾役をいれたらさらに下に潜れるようになるだろう。なら全体的にプラスになる)


 新たな盾役とみ合えば更に強力なパーティーになると信じて疑わないカイト。

 機嫌良くチラシを貼るカイトの背中に温かみが伝わった。


「おはようカイト」

「キルケ-か。おはよう」


 胸の大きさだけで誰かわかる。押される胸に回される腕。カイトの体全体に温かみが伝わり、――香水だろうか、良い香りもただよってきた。

 朝の挨拶をして二人は机に座った。


「うるさいおっさんがいなくなって香水をつけれるようになったわ」

「つけるごとにうるさかったからな」


 嫌なものを思い出したかのように顔をしかめる二人。


 普通ダンジョンに入るのに香水はつけない。

 しかしながら彼女キルケ-はことあるごとにつけようとしていた。

 これは彼女がカイトの気を引くためで、その香水の匂いがなにをもたらすのかは頭にない。


 キルケ-はカイト目当てで『聖杯を受け継ぐ者』に入った。


 貴族子息も多く冒険者になるがそのほとんどは下位貴族の三男や四男。しかしカイトは珍しく上位貴族に含まれる子爵家の次男でキルケ-がすぐにカイトに目を付けた。

 長男がいる限りカイトは子爵家当主にはなれないが、何かしらの功績を挙げると騎士爵かもっとすれば男爵になることすら夢ではない。少なくとも平民から上がるよりかは非常に上がりやすいのは確かである。

 その時カイトの隣にいればキルケ-は貴族夫人となることができる。


 ダンジョンに潜る理由がアダマやカイトとはまったく違うのだから、気を付けろと言って気を付けるはずがない。


 そんな気も知らずにカイトはキルケ-にはにかむ。

 彼女を見ながら今後の事を思い浮かべた。


 (Aランクまで行けば実績としては十分だろう。後は兄貴のところにでも戻って騎士でもすれば……)


 ここダンジョン都市国家は都市一つ分の領地しかない。それもその多くはダンジョンでくされており領地を治める領主は少ない。

 カイトの実家――つまりログ子爵家はその少ない領地持ちの一つである。と言っても他の国でいうところの町長程度であるが。


 カイトがダンジョンに潜る理由は単なるはく付けである。冒険者として最高位であるSランクでなくてもAランクまで上がれれば、彼に向かえるものは少くなるだろう。


 ダンジョン都市国家ということもあってこの国は実力主義な傾向にある。冒険者ギルドでAランクまで上がったとなればギルドに、そして間接的にだが――国に多大な貢献こうけんをしたことになる。


 カイトがAランクまで上がると、彼のおかげでログ子爵家は更に国内に影響力を伸ばすことができる。

 同時にログ子爵家の面々はカイトに実家の頭が上がらなくなってしまう。


 自分がAランクにまであがり周りから称賛しょうさんされ他の高位貴族が頭を下げる未来しか見えないカイトに貴族夫人として優雅ゆうがに過ごす未来しか見えていないキルケ-。

 ある意味二人はおそろいのカップルだろう。


 甘い雰囲気が漂う中二人に近寄る人物が表れる。そして開口一番「くさっ! 」と言った。


「何よ! ってメアリ」


 声がする方を見るとそこには身軽なセパレートの服を着たメアリがいた。

 しかし彼女は鼻をまんでいる。


「……どういうこと? 」

「何が」

「何がって……香水だよ」

「良いじゃないこのくらい! 」

「……あのさ。魔物を引き連れるつもり? 」


 あきれ口調でいうメアリに馬鹿にされたと感じて更に怒る。


「このくらいなんともないわよ! それとも何? あんたも香水はダメっていうわけ! 」

「ダメだね。もしこのまま行くなら僕は今日は潜らない」

「おい待てメアリ! 」

だ死ぬわけにはいかないからね。香水を止めたら呼び出して」


 カイトが止める中、手を振りそこから帰っていくメアリ。

 止めようとするが止まらない。

 結局のところその日は張り紙をするだけで終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る