番外編1-1



「はぁ~~……。」



 ハロルドの大きな溜息に、ハワード公爵はピクリと硬直した。ハロルドが分かりやすく溜息をつく時、それは公爵がヘマをした時だ。最近の業務で気になることは無かったか頭を回転させるが、思い当たることは無い。



「はぁ~~……。」



 二回目の溜息が執務室に響く。公爵だけではなく、他の文官達にも緊張が走る。



「はぁ~~……。」




「……ハロルド。どうしたんだ?」




 三回目の溜息が響き、ハワード公爵は意を決してハロルドに尋ねた。ハロルドは怪訝そうな表情を浮かべ、数回瞬きをした。




「何でしょうか?」



「さっきからずっと溜息をついているじゃないか。何かあったのか?」



 ハロルドが目を見開いている様子を見て、彼が無意識だったのだとハワード公爵は察した。



「何か困りごとがあるなら言ってくれ。」




「……そうですね。」



 ハロルドはふとハワード公爵夫人を思い浮かべた。普段ハロルドが足蹴にしているハワード公爵だが、実際は公爵としての執務の他に国務大臣の役割も担っており多忙な人間だ。家庭を蔑ろにするタイプでは無いが、公爵夫人が寂しがっていたのは一度や二度では無い。



「旦那様には難しい問題かと。」



「なっ……!」



 あんぐりと口を開けた公爵を尻目に、ハロルドは執務を再開した。妻に悲しい思いをさせるハワード公爵には夫婦の悩み相談は荷が重い。





◇◇◇◇




「あんなに甘かったのになぁ~……。」



 キッチンで紅茶を淹れているソフィアをぼんやり眺めながらハロルドは小さく呟いた。一ヶ月前、ソフィアは自分と同じ想いだと言い、結婚を了承してくれた。スキンシップだって受け入れてくれて、甘々なソフィアだった。だけど……。




 最近のソフィアは妙に冷たくて、婚約する前に戻ったようだ。ハロルドが甘い空気を流すとプイッと視線を外されてしまう。



 自分が何かしてしまっただろうか?そう思い返してみるが心当たりは無い。ハロルドはソフィアがツンツンしていようが、デレデレしていようが、大好きには変わりないのだが急な変化に不安にならずにはいられなかった。



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