第27話



「それでどうしたの?」



 二人分のハーブティーを淹れ、一口飲むと漸く落ち着いたハロルドは来訪した理由を尋ねる。



「そうでした。明日ハロルドお休みでしょう?」



「ああ。」



「二人でどこか出掛けましょう。」



「え?」



 ハロルドは目を見開き「明日ソフィアは出勤だっただろう?」と言うが、ソフィアは首を振った。



「私も明日お休みにしてもらいました。」


 更に目を大きく見開くハロルドに、ソフィアは同僚と休みを代わってもらったことを伝える。同僚は実家の家業の手伝いをしており、家業が忙しい時期はソフィアがよく休みを交代したり、休みを返上して代わりに出勤することも多かった。その為、彼女は快くソフィアのお願いを聞いてくれたのだ。



「な、何で……。」



「私たち、休みもなかなか合わないから出掛けることが殆ど無いじゃないですか。」



 ハロルドとソフィアは、執事と侍女という元々休みの少ない職に就いている。仕事終わりに夕食に行くくらいしか時間を合わせることはできなかった。ハロルドは、ソフィアが仕事を大切にしていることをよく知っているので無理に休みを合わせようとはしなかった。



「良かったの?」



「はい。」



 ハロルドは不安そうに確認するが、ソフィアは何も気にしないといった顔で頷いた。



「勿論お嬢様のご都合もありますが、可能な時は休みを合わせましょう。」



「あ、ああ。じゃあ、ソフィアはどこか行きたい場所はある?」



「いえ。明日はハロルドが行きたい場所に行きましょう。」



「え、ええっと……。」



 いつもは強気のハロルドも、今日のソフィアには翻弄されっぱなしである。折角デートに行くなら可愛い婚約者の行きたい場所へエスコートしたいが、ソフィアの強い意志を持った瞳に抗えることは出来ず、行きたい場所は無いかと頭を巡らせる。だが……。



「無い……。」



「え?」



「行きたい場所が思い付かない。」



「思い付かないって……ハロルド、貴方いつものお休みの時はどう過ごして……?」



「ミルフィーユの美味しい店を探したり、ソフィアと夕食に行けそうな店を探してる。そうだ、明日はミルフィーユの美味しい店を巡ろうか。」



「もう!それじゃ駄目なんです!!」



 ハロルドの行動パターンに呆れ返ったソフィアは思わず叫んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る