第4話




「・・・ハロルド。どういうことですか。」



 長い廊下を歩きながら、ソフィアは尋ねた。ハワード公爵がソフィアに用事があることなんて滅多にない。大体、用があるなら、職務に忙しい執事のハロルドではなく、下働きの者に言伝てを頼めば良いだけだ。わざわざ、ハロルドが呼びに来たことで、ソフィアは不信感を募らせていた





「そんなに警戒しないでよ。変な話ではないよ。」



 ハロルドは朗らかな笑顔へ、ソフィアはじっとりとした視線を返した。







◇◇◇◇





「ソフィア。仕事中にすまないね。」



 ハワード公爵は、優しく笑った。




「いえ。何かありましたか。」




「ああ。来月、シャーロットの誕生日だろう。」



「はい。」



 通常、貴族の令息令嬢の誕生日は、多くのゲストを招いてパーティーを開くことが多い。だが、シャーロットの場合は、王子妃候補ということでどうにか縁を繋ぎたい貴族が集まってしまうため、パーティーは開かずに家族だけのお祝いにしている。




「シャーロットは、欲が無いから欲しいものも言わないからね。それにソフィアの方が、シャーロットの好みもよく分かるだろう?ソフィアには、私の代わりにプレゼントを選んで買ってきてほしいんだ。」




「それでしたら・・・畏まりました。」





「助かるよ。買い物は勤務時間内で行くように。・・・それと。」




 ハワード公爵は口ごもり、小声で付け加えた。




「・・・買い物は、ハロルドも同行させるように。」




 ハワード公爵の執務室は、暫く静寂に包まれた。





◇◇◇◇





「・・・旦那様。ハロルドにどんな弱味を握られたのですか。」




 ソフィアは静寂を破り、爆弾を落とした。





「・・・っな!弱味など握られていない!」




 ハワード公爵は、明らかに動揺した表情で、首を振った。





「何か脅されでもしていなければ、こんな可笑しなことは仰らないかと。」




 ソフィアは、はっきりとした口調でそう伝えた。




「人聞きが悪いなぁ。」



 ハロルドは愉快そうに笑った。




「元はと言えば、貴方のせいでしょう。」







「・・・ソフィア。私を助けると思って・・・。」



 この当主は、いつもは有能な公爵であり、国王にも頼られる国務大臣だ。一体、何をやらかしたのか。ソフィアは小さく溜め息をつくと、小さく頷き、了承するしかなかった。隣のハロルドがにんまり笑っていることが憎らしかった。

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