第28話(絵あり) ヒューマンレベルの判定日

# 近日ノートに挿し絵があります。

本文と合わせてご覧ください。

近日ノートの☆16☆、○11○です。





戻るのか戻らないのか、決まったのは、

サミュエルさんから言われていた、

回答期限ギリギリの、4日目が終わる、

数分前だった。

「戻らないことに決めました」

サミュエルさんにテレパをして伝えると、

引き継ぎをしたいから、部屋に来て欲しい

と言われたので、

中枢機関塔の一番上の階へ向かった。


エンヴィルを出て、部屋の扉をたたくと、

「どうぞ」

サミュエルさんの声がした。

「失礼します」

部屋に入ると、

前回、来た時と、部屋の中の様子が変わっていたというか、

何もなくて、ガランとしていた。

「サミュエルさん、この部屋……どうしたのですか?」

「もうすぐこの部屋はスカイの部屋になるし、僕は、地球に引っ越しをするから、荷物の整理をね。この機器をスカイに譲るよ」

サミュエルさんは、

首にかけていたネックレスを服の中から

取り出して、僕の首にかけた。

「これは、あらゆる生き物のジッタの有無を調べることができる、『イスタ』だよ。これには噂があって、どこかの誰かと通信ができるらしい」

サミュエルさんが、ニヤリとした。


「イスタ」は、

僕の手のひらぐらいの大きさで、

丸みのある角が6個ある星のような形で、

その頂点に位置する角の上に、

花のようなものが、五個ついていた。

星のような形の片方には、人間の目に似た、

大きな目がついていて、

その瞳には、六角形の青色のラピスラズリが

埋め込まれていた。


僕は、首にかけてもらったイスタを手に

取って、表や裏を観察してみたけど、

通信機器のようには見えなかった。

「どこかって……誰ですか? この模様は、なんですか?」

僕が、不思議そうに聞くと、

「誰と通信できるのか、ロアンダンと試してみようと思ったけど、見ての通り、携帯電話のように、ボタンがあるわけでもないから、どうやればいいか分からなくて……まぁ、噂だから。万が一、電話がかかってきたら、誰? 模様の意味は? と聞いてみたらいいと思うよ」

サミュエルさんは、ニコッとした。

「かかってきたら、相手が誰なのか分からないので、ちょっと怖いですけど、どこの誰なのか興味があるので、出てみます」

僕は、困惑しながらも、笑顔で言った。


サミュエルさんは、胸ポケットから、

何かを取り出して、

「手のひらを出して」

と言ったので、

片手を出すと、

僕の手のひらに、何かを置いた。

「これは、アムズの技術の結晶だよ。名前は、アハウレト……あぁ、度忘れしちゃった。とにかく、通称『アハウ』と言ってネオオと同じように大きさがかえられるから、小さくして常にポケットに入れて、肌身離さず持っていてね。このイスタとアハウは、アムズの最高司令官だけが持てる、大切な物だよ」

と言ったので、

「分かりました!」

僕は、元気よく返事をして、

イスタは、首にかけたまま服の中へ入れて、

アハウは、服の胸ポケットに入れた。

「時間がある時に、フラフォットで、家具を出現させて、壁紙や床板も自分好みにしてね。スカイに朗報だよ。これで、牛乳で割った抹茶が飲み放題だ」

サミュエルさんが、ニヤリとして言った。

「抹茶、好きなので、嬉しいです。ところで、一体、どんな仕組みで飲み物が出現しているのですか?」

僕が聞くと、

「それは……ズバリ、謎!」

と言い切ったあと、サミュエルさんが、

「僕も不思議だったから、ロアンダンに聞いたけど、知らないって。アムズの歴史がどれくらいあって、過去にどれくらいの人が最高司令官を務めていたのかも知らないけど、アハウの仕組みやアムズの成り立ちを伝えていた人もいたかもしれない。でも、伝えてもらった側が単に面倒になったのか、気にならなかったのか、伝え忘れたのかもしれないね。僕みたいに、正式名称を度忘れしたり……」

サミュエルさんは、苦笑いをした。

最高司令官という立場でも、

僕のように、知らないことが多いのかな?

と思った。

サミュエルさんは、知っているのことは、

すべて教えるよ、と言って、

色々と話をしてくれて、

今まで不思議に思っていた謎が、

一部解けた。


そもそも、地下シェルターは、

コンクリートでできた円柱状の建物では

なくて、

実は、2体の変形型浮遊AIロボットの

「ぽぽぽ」で、構成されていた。

まったく気がつかなかったけれど、僕達は、ぽぽぽの体内で生活をしていたようだ。

地下シェルターの運動広場の部分が、

ぽぽぽの変形型・飛行タイプで、

これが宇宙船になっていて、僕達は、

これに乗って、アムズにやって来ていた。

どうやって、アムズに来たのかな? という謎が解けて、嬉しかったけど、

まさか、AIロボットの体内で生活していたなんて、思いもしなかったので、

驚きの方が大きかった。


宇宙船の国、アムズの本船は、

あのいびつな形をした中枢機関塔で

全員をアムズに運んで、

誰もいなくなった地下シェルターの施設や

設備は、縮小させて、すべて中枢機関塔の

倉庫に収納していた。

ここには他にも、

アニマルタイプの浮遊AIロボットと

変形型浮遊AIロボット、

AIヒューマンがそれぞれ数万体、

AIキュープが数千万機、

浮遊コロニーや居住塔、医療塔や図書塔、

その他の施設や、カプカなどの移動関係の

設備、装置に備品など、

ありとあらゆるものが入っている。

これらはすべて、拡大と縮小ができるので、

必要な時に、必要な大きさにして使うことができる。


ぽぽぽの飛行タイプの船内の空気には、

3つの薬の成分が含まれていたそうだ。

ひとつ目は、

地下シェルターで、イイイイスターの絵柄のついた薬を服用したことで、

避難所の外にいる人のことは、

ほとんどの人が忘れてしまっていたけど、

まだ覚えている人もいるので、

それを完全に忘れさせるための、

記憶消去の薬。

2つ目は、

酸素を吸って二酸化炭素を吐く、

肺呼吸という仕組みが、アムズでは不要に

なるので、

肺を無呼吸、宇宙空間用の肺に、

急速に変化させる薬。

3つ目は、

肺呼吸と無呼吸のきりかえのために、

安静にする必要があったので、眠り薬。

この3つを僕達は、知らず知らずのうちに

吸い込んでいたようだ。

だから、運動広場に入った僕を含め、全員が眠たくなってしまったのだった。



「縮小って……この頑丈な建物を!? 浮遊コロニーも!? 一体、どんな仕組みですか?」

僕が、驚いて言うと、

「これは、深く考えずに、小さくして運べるし、収納ができて、大きくして使える、便利なアイテムだ! と素直に受け止めて」

サミュエルさんが、満面の笑みで言った。


その表情と発言を聞いて、僕は、思った。

サミュエルさんは、知らないのだと。


アムズって、宇宙に似ている気がする。

ひとつ、疑問や謎が解けると、

これは、どういうことかな?

新しい疑問や謎が出てくる。

考えても、考えても、答えが導き出せなくて

もういいや! と諦める。

地球からどうやって来たのかは、

分かったけど、

縮小と拡大がどうしてできるのかは、

不明だし、地球の再生化計画が3回目で、

オーパーツと言われていたものは、

旧人類達が作ったものだったと分かって、

謎は解けたけど、

本当のファースト人類の始まり、

最初の人類についての謎が浮上してきたし……いつか、すべての謎が解ける日が、

来るかな?


「あ!」

僕は、聞きたいことを思いだした。

突然の大きめな声に、

驚いた様子のサミュエルさんが、

「ど、どうしたの?」

と言った。

「すいません、驚かせてしまって。聞きたいことを思いだして」

「どんなこと?」

「地下シェルターにいた時のことで……ふと気づいたのですが、『あの日』の少し前の世界には、人間以外の生き物が、いつの間にかいなくなっていて、ペットの犬がロボットに牛や鶏、豚などの食肉類が、大豆ミートと培養した肉に、魚介類はすべて、培養したものになっていました。気づいたら、学校の先生や警察や警備関係にAIヒューマンやAIキュープがいて、日常生活に馴染んでいたな、と思って」

僕が言うと、

「その頃から再生化計画は始まっていて、避難させるのは、人間だけだったから、地球上にいる他の生き物は消していたからね。それに伴って、食生活の変化が必要だったのと、アムズ仕様の食生活の予行練習でもあった。100億人近い世界人口分のヒューマンレベルの確認や監視は、僕達、幹部だけではできないから、AI達に手伝ってもらっていた。どう? 納得した?」

サミュエルさんが、先ほどとは、

打って変わって、自信満々で教えてくれた。


「あの日」からだと思っていたけど、

そのずっと前から、始まっていたのか……。

またひとつ、謎が解けてスッキリしたけど、

消去する、消したとか、言葉に恐怖を感じる

もう少し、違う、柔らかい表現で言って

欲しいな。

僕が誰かに何かを伝える時は、

ものの言い方に注意しよう、と思った。



「今、思いだしたけど、ロアンダンが、量子論? がなんとか、言っていたな。これが分かれば、アムズの謎が解けるとか?」

サミュエルさんが言った。

「量子論!? それ、知っています! 地球にいた時に本を読んだことがあります。でも、難しすぎて、数ページで本を閉じました」

僕が言うと、

「あはは。そうなの? 本が地球にね。これから、果てしなく不老不死なわけだし、再チャレンジしたら? 時間はある意味、無限にあるから」

笑いながら、サミュエルさんが言った。

難しい、という記憶しかないので、

その気はまったくなかったけど、

「そうですね」

と僕は答えた。

「どんな謎についてか分からないけど、アムズの謎が解けたら、後継者に伝えてあげるといいよ。そうだ、書き残しておくのはどう?

今まで誰も思いつかなかったのかな? そもそも船なのに、航海日誌的な物がないよね、なぜかな?」

サミュエルさんの言葉に、

僕は、はっ! とした。

エマが地球の紙の本だと言っていた、

誰も知らない文字の本!

あの本がアムズの歴史か何か、もしくは

航海日誌なのでは……そんな予感がした。

サミュエルさんの言う通り、

時間がたっぷりあるから、量子論の本では

なくて、特殊な映像でできた誰も知らない

文字の本を借りてきて、

本の解読にチャレンジしようかな、と僕は

思った。

でも、その前にまず、もしかしたらアムズの航海日誌かもしれない貴重な紙の本の処分が終わっているか確認を……終わっているよねエマに見せてもらったのは、

ずいぶんと前だし。

でも、アムズには、紙がないから、

紙の本が、航海日誌のはずはないか……。


「スカイ? 何をぶつぶつ言っているの?」

サミュエルさんが、僕の顔をのぞきこんだ。

「え、あ、すいません。ちょっと考えごとを」

僕は、苦笑いをした。

「他に質問がなければ、僕の知っていることは、以上だから、引き継いでもいいかな?

権利を移行するだけの簡単な作業だよ。これを受けると、誰かに引き継がない限り、辞めることができなくなるけど、大丈夫? 」

サミュエルさんが、

僕の意思の最終確認をしてくれた。


戻らない、引き受ける、と決めたけど、

本当にこの選択でよかったのかな?

僕に最高司令官なんて、務まるかのな……

しりごみをしてしまったので、

背中を押して欲しいと思った。


「偶然か必然的だとしても、ルーカス室長の方がアムズでの滞在歴も長いですし……本当に、僕でいいのでしょうか……」

様子を伺うように僕が言うと、

「ルーカスの方がアムズ歴は長いけど、長ければいい、というものでもないし、スカイには、感じるし、組織を統率する力があると思うよ。それに、実は、ルーカスも一緒に地球に定住する気らしい。あいつは、僕の金魚のフンだから」

サミュエルさんは、

嬉しそうに笑って言った。

まさか、室長も!?

僕は、驚いた。

「あいつは、キュピトハート銀河のクロードロップには戻らずに、僕と地球に住むって。僕がいないと、何もできないからな」

サミュエルさんが、また嬉しそうに言った。

悪態はつくけど、サミュエルさんは、

ルーカス室長のことが好きだ、と感じた。

「だから、色々なことを含めて、スカイ以外に適任者はいない。納得した?」

サミュエルさんが言った。


僕は、頼られるほど、立派な人間じゃないし

納得はしかねたけど、

アムズに残るって決めたから、

もう決めたから、覚悟を決めたから……。


「受けます!」

僕は、力強く言った。

サミュエルさんは、深くうなずいて、

「では、きちんと引き継ぎをする前に、ひとつ確かめてみたいことがあるのだけど、いい?」

と言ったので、

「どんなことですか?」

僕が聞くと、

サミュエルさんが薬指を、

僕の額の中央あたりにつけた。

「やはり何も起きないか……」

薬指を、僕の額から離した。

「何が起きるはずだったのですか?」

「ん……ん。何も言わなかったら、どうなるのかなと、ふと思っただけだよ。では、今から引き継ぐよ。僕が、『エラーリ 、エスタス 、テラーノ、 ゾルギ 』と言ったら、スカイは、『パルドーノン、タフオクロン』と言って欲しい」

「いいですけど、どういう意味ですか?」

「意味は知らないけど、たぶん、おまじないの一種だと思う。『引き継ぐよ? いいですよ』みたいな感じだと思う」

「なるほど。そういう意味ですが、分かりました」

「では、引き継ぐよ。エラーリ 、エスタス、テラーノ 、ゾルギ」

サミュエルさんが言ったので、

「パルドーノン 、タフオクロン」

僕が、言って欲しいと言われた言葉を言うと

サミュエルさんがニコッとして、薬指を、

僕の額の中央あたりに、またつけた。

すると、

先ほどは何も起こらなかったのに、今回は、

よく分からない、不思議な感覚になった。

何かが、体の中というか、

頭の中に入ってきた、ような流れを感じた。

「終わったよ」

サミュエルさんが、指を離して、

「これで、今からアムズの最高司令官は、スカイ・ウィンスティー、君だよ」

と言ったので、

「はい!」

元気よく僕は、返事をした。




2日後、

ヒューマンレベルの判定日がやって来た。

ステファンの仮説通りだったのかは、

分からないけど、

僕、リアム、レオ、エド、ステファンの

ヒューマンレベルは、「6」だった。

僕達は、

「地球に適した体を培養して、ジッタを移すことができる権利」と、

「地球へ向かう宇宙船に乗れる片道切符が貰える権利」を手に入れた。


噂で、ヒューマンレベル4の

ヒューマンボウルの人が数百人ほど、

レベル6になったと聞いたけど、

僕の周りにはいないな、と思っていたら、

なんと、木星の流れるプールで出会った、

エマの友達のタピアが、

ヒューマンレベル4から、6になって、

エマは、一緒に地球に戻れる!

とすごく喜んでいる、とエドが言っていた。



ヒューマンレベルの判定日の翌日から、

ヒューマンレベルか6になった人と、

サミュエルさん、ルーカス室長の、

地球環境に適した体の培養が始まった。

サミュエルさんは、アムズに残って欲しい

人がいたら、スカウトしてもいいし、

「さようなら」が言いにくいのなら、

結局、地球へ着く頃には、

アムズでの生活や今までの知識、出来事、

親子関係以外、例えば、交友関係などは

消去されて、生きる上で最低限、必要な知識

俗にいう「本能」というやつ以外は、

すべて忘れているから、言っても言わなく

ても大丈夫だよ、と教えてくれた。

「一緒に、残らない?」

聞いてみようと思ったことは、

何度もあったけど、

地球に戻ることを楽しみにしているのを

知っているから、

別れるのが寂しいから残って欲しい、

だなんて身勝手なお願いを、口に出す勇気はなかった。

それに、別れを告げたら、

残るなんて言わずに、一緒に戻ろう、

と言ってくれるだろうし……。

何も言わずに、忘れてもらおう!

でも、なんだか、それはそれで、悲しい、

というワガママな僕。


だから僕は、地球に戻らないこと、

アムズの最高司令官になったことは、

内緒にして、表では、サミュエルさんに

最高司令官を演じてもらって、

アムズでみんなと過ごせる残りの日々を、

いつも通り、地球環境モニター室のメンバーのひとりとして、リアムの親友として、

地球へ戻るぞ! の雰囲気を出して、

過ごした。


みんなの休日が重なった時には、

1位を目指して、海王星で、

何回もダイヤモンド狩りをしていたけど、

他のチームの成績が、日ごとにすごいことになっていき、入賞できたのは、初めて

ダイヤモンド狩りをした日だけだった。

「もう、諦めようか……」

僕達は、ダイヤモンド狩りで、

1位になる夢を断念した。


そして、僕達は、土星の環リンクへ行くことにした。

リアム、レオ、エドの3人は、必ず、

「30万kmのリンクを、自力で走破してやる!」

と意気込んで、

無謀なチャレンジをしていた。

数km進んだだけで、

「もう、これ以上は滑れない……」

と挫折して、のんびり滑りながら、

土星を眺めていたステファンを捕まえて、

一緒に少しの距離を行ったり来たり滑って、

オーヴウォークに入って、遊覧する、

これを繰り返していた。

僕とエルザは、

浮遊コロニーST10と土星の環リンクを

つなげている通路の手すりにもたれながら、4人を眺めながら、話をしていた。

リアム達が、

リンクを走破する日は、来るかな?

正直、距離的に自力では無理だと思うけど、頑張れ! と僕は、ひそかに応援していた。



○次回の予告○

『最初で最後の水泳大会』

























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