第21話 あぁ……なんか、分かったかもしれない

僕が、ヒューマンボウルの体になって、

早くも4年がたった。


4日間勤務が終わって、

家に着いた時に、

「もうすぐ、培養していた体が完成する」

とサムさんから、テレパがきた。

テレパ中は、平静を装っていたけど、

テレパを終了した瞬間、

飛び上がって、喜んだ。


やっと生体ヒューマンの体に戻れる!

みんなと同じ状態の食べ物を、

口から、咀嚼して食べられる!


嬉しくて、舞い踊ってしまった。

その姿が、部屋に置いてあった等身大の鏡に

映っているのが見えた。

その瞬間、

嬉しくて舞い上がっていた気持ちは、

どん底に、突き落とされた。


AIヒューマンとは違う、と自信を持って

思えるのは、下半身だけだった。

AIヒューマンは、宙に浮いているから、

足が無くて、ロングスカートを履いている

ような形の、下半身をしているけど、

僕には、

機械、人工物だけど、2本の足がある。

あ……僕には、映像だけど、髪の毛があったこれもAIヒューマンにはない。

でも、それ以外は、ほとんど同じだ……。


あぁ……なんか、分かったかもしれない。


昔、リリアさんの勤務先で、

ヒューマンボウルの人が37人も同時に、

あの権利を行使した、という出来事が

あった時、どうして? と当時は思ったけど

今なら、そうした理由が分かる気がする。

機械の、入れ物の体で、たった4年間、

暮らしただけのやつに、何が分かるのか?

と言われてしまいそうだけど、

たぶん、

「虚しさが、つのってくる」

これだと思う。

頭部に、調理エアボウルを投げ入れるだけで

口から食事が取れない、

体を作っている素材が、AIヒューマンと

まったく同じだし、硬い。

服は、着ているのではなくて、体自体に、

服の模様が描かれている。

顔は、アムズの高い技術力で、立体的で、

さわれて、髪の毛を染めることができる、

風になびく、髪型も変えることができる

けど、しょせん、

映像でできている顔だし……。

生体ヒューマンの体とは、比べものに

ならないほど、まったくの別物だ。


「存在意義」


機械の、入れ物に入っている自分は、

機械の、入れ物の体をしている自分は、

生身の体を持たない、

「ジッタ」だけの存在の自分は、

「人間」と言えるのか?

人間であるという自信を、

失ってしまうことで、

つのった虚しさが、あの権利の行使を、

後押しするのではないか? と僕は感じた。

だけど、ふとした時に、

「虚しさ」が訪れることがあっても、

僕は、あの権利を行使したいとは、

やはり思わない。

生体ヒューマンの体に、必ず戻れるという

確約が僕には、あるからだと思うけど。

それでも、虚しさは、

僕の心を容赦なく、むしばんでくる……。

確約のある僕でも、こんな気持ちになるの

だから、確約のない人の絶望感は、

相当なものだと思う……。


あ、だからか……シェルターで、

サミュエルさんが言っていたことが、

頭に浮かんできた。

「どうして、ヒューマンレベル4の人は、

機械の体なのか?」

と聞かれた時、

「アムズで過ごしていれば、分かる」

とサミュエルさんが、言っていた。

機械の体ではいたくない、そう思うと、

ヒューマンレベルを5にしたい、

5のままでいたい、と思って、

自分や他の人、今は、地球のことに想いを

寄せて、地球再生化計画のために尽力する、

というモチベーションになるからだ、

と僕は思った。

アムズに来た当初、

ヒューマンレベルを5にするために、

任された作業や、自分とその他の人、

周りのことを大切に想いながら、

日々を過ごして、

いつかは生体ヒューマンの体になれる、

子供を授かることができる、

と希望を抱いていた、

ヒューマンレベル4の人もいたと思う。


ヒューマンレベルが5になって、

生体ヒューマンの体になった、という

ヒューマンボウルの人が、いるのかどうか、

実際のところは知らないけど、

少なくとも僕の身近には、ひとりもいない。

この一万数千年で、生体ヒューマンの上限に

空きが出たことが数回あったけど、

僕の知る限りでは、生体ヒューマン同士の

子供を培養して、空きの枠は埋まって

しまっていたと思う。

そのせいか、

ヒューマンボウルの人の人数は、

この一万数千年の間に、半分以上と言っても

過言ではないくらい、減っていた。


あと数日……この機械の、入れ物の体で、

頑張るぞ!

と決意して、僕は眠りについた。




それから、5日後、

地球環境モニター室で、勤務をしている時に

サムさんから、

「培養が、完了したよ」

とテレパが入って、

すぐにでも、体を交換しに行きたかったけど

写真を撮っている途中だったのと、

あと1日で勤務が終わる予定だから、

それから行くことにした。

でも、早く、生体ヒューマンの体に戻りたいな! とソワソワして集中力が、欠如して、

ついに生体ヒューマンの体だ!

とウキウキして、上の空だった。

そんな僕の様子に気づいたリアムが、

「ソワソワ、ウキウキが、にじみ出ているよ。もしかして、培養が終わったの?」

さすが、親友、

僕の嬉しさの原因を言い当てた。

「実はさっき、サムさんからテレパがあって……」

僕が言うと、

「ここは、いいから、さっさと交換してきて。待ちに待った、体でしょう?」

リアムが言ってくれたので、

僕は、お言葉に甘えて、

そうさせてもらうことにした。

ルーカス室長に、許可を貰って、

「いってらっしゃい」

みんなに見送られて僕は、

地球環境モニター室を出た。



中枢機関塔を出たところで、

エルザに会った。

僕が、体の交換をしに行くと、サムさんから

聞いたエルザが、

「硬い体は、『今』で、最後だね」

と言った。

「つきそってくれるの?」

冗談のつもりで、言ってみたら、

「うん! そのつもりで来たよ」

と言った。

「そ、そうなの!? ありがとう」

僕は、嬉しさと気恥ずかしい気持ちと同時に

生体ヒューマンの体に戻った瞬間、

血を吸う気なのでは……と少し、

ビクビクもした。

「行くよ!」

エルザに手を引っ張られながら、

僕は、医療塔へ向かった。


医療塔の受付で、

ヒューマンボウルの体に交換した時、同様、

管理マークは、エルザの手首にだけ貼られて

僕には貼られなかった。

受付の係の人に、

「14階の『培養医務室W5』へどうぞ」

と言われたので、

エンヴィルで、14階まで上昇した。


14階に到着して、エンヴィルを出ると、

サムさんがいた。

「あら、やっぱり、エルザも来たのね。作業は?」

「抜けさせてもらったの。だって、スカイが気になって」

無邪気に言った。

「そうなの? スカイが、お気に入りってわけね」

サムさんが言うと、

「うん!」

また、無邪気に言った。

「だって、スカイ。どうするの?」

突然、告白のような言葉を受けての、

コメントを求められてしまった。

「えっと、どうすると言われても……」

正直、嬉しかったけど、

何と言葉を返せばいいのか、

戸惑って、ドギマギしていた、

そんな僕を見て、

「なんか、エルザがスカイを気に入っている理由が、分かった気がする。それに、スカイの血は、おいしいらしいわね。さ、体を入れ換えましょう! 入って」

サムさんが笑いながら、

医務室W5へ、案内してくれた。

「え!? 血が……おいしい?」

厳密には、今の体に血は、一滴も無いけど、

サーッと血の気が、引いた気分になった。

「なにしているの? スカイ、行くよ」

エルザが、エンヴィルの近くで立ち尽くしていた僕の背中を、押してきた。


案内された部屋に入ると、

ヒューマンボウルの体に、

ジッタを移した時と同じような感じの椅子と機器が、線やチューブとつながっていた。

でも、ひとつ、違う点があった。

培養容器で、20歳の肉体に培養された

「僕」が、椅子の横にあるベッドに、

横たわっていた。

今は、空っぽの、僕の体……。

僕は、

「久しぶり」

心の中で、声をかけた。

「ここに座って、これをかぶって」

「は、はい」

僕は緊張して、動きが、カクカクした。

背中にあるさしこみ口に、サムさんがBNと

つながっている線をさしてくれた。

僕は、椅子に座って、目を閉じた。

「じゃあ、ジッタの転送を開始するわね」

サムさんが、BNの操作を始めた。

だんだん、気が遠くなってきた……。



「スカイ、スカイ!」

僕を呼ぶ声が聞こえて、目が覚めた。

その瞬間、

「痛い」という感覚に襲われて、

僕は、完全に覚醒した。

「あら、大変」

サムさんが、エルザを、僕の腕から

引き離してくれた。

「医療用治癒ペンを塗れば、すぐに治るわ。気分はどう? 腕、以外」

サムさんが、クスッと笑った。

「腕、以外は……よさそうです」

僕が苦笑いすると、

「やっと、硬くないスカイが、戻ってきたね」

僕の腕を噛んでついた血を、口の周りに

つけたエルザが、ニコッとした。

「う、うん。正直、今、生体ヒューマンの体に戻ってよかったのか、分からなくなったよ」

と言うと、

「なんで?」

曇りのない純粋な瞳をして言うエルザを見て

噛むことが、悪いことだとは思っていない、

ということが分かって、いつか、

すべての血を吸い尽くされてしまうのでは

ないか、という不安に襲われた。

サムさんがエルザに、

「薬、飲んだわよね?」

と聞くと、

「うん!」

また無邪気に言った。

「なら、いいのよ。それはそうとエルザ、スカイの血を吸うのは、もうやめなさい。嫌われてもいいの?」

「え!? 血を吸うと、嫌いになるの?」

「普通は、なるわよ。私だったら、絶対に嫌」

サムさんが断言すると、

「そーなの? スカイ」

え!? 嘘でしょう? そんなことで、

嫌われるなんて思ってもいなかった、

という勢いで、エルザが言うので、

「嫌いになるというか、血が無くなったら、死ぬかもしれないから」

僕が言うと、

「分かった、血は吸わない。スカイが死ぬのも、また硬い腕になるのも嫌だから」

と言ってくれたので、

これでもう、血を失う危険はなくなったかな

と僕は、ホッとした。

「よかったわね。でも、念のために、これを携帯しておいて。薬を飲んでも、スカイの血には、反応してしまうみたいだから」

サムさんが笑って、さっき噛まれた時に

塗ってくれた医療用治癒ペンを僕にくれた

ので、

「それって、また噛まれる、という意味ですか?」

僕が不安気に聞くと、

「念のためだから、深く考えちゃ、駄目よ。さ、これに着替えて」

サムさんに、はぐらかされた。

用意してくれていた服を受け取って見た時、

感慨深いきもちになった。

「どうしたの? ぼうっとして」

受け取った服を、じっと見つめていた僕に、

サムさんが言った。

「いや、なんと言うか……服を着るって、久しぶりだな、と思って」

「そうね。ヒューマンボウルは、体自体が、服の模様だから、着替える必要がないものね」

サムさんが言った。


僕は、4年間、お世話になった、

ヒューマンボウルの体に、

「ありがとう、さようなら」

と言った。

僕は、自分の体を、自分でさわって、

確かめた。

温かくて、やわらかい……。

ヒューマンボウルの体も、

表面温度が常に、37度に保たれていたから

温かかったけど……生身の体の温かさと、

機械の、人工的に作られた温かさは、

まったく違うし、ヒューマンボウルの体も、

若干、柔軟性はあったけど、生身の体とは、

比較にならないほどの硬さだった。

「お帰り、僕」

BNの画面に映った、生体ヒューマンの体に戻った自分に、心の中で声をかけた。


ふと、リリアさんが昔、アムズに来て、

初めて培養した体に、ジッタを移したあと、

言っていた言葉を思い出した。

いつものようにリアムがふざけて、

リリアさんが、

「この右手で、背中を押そうか!?」

と言ったら、

「もう、その脅しは通用しないよ。母さんの腕は、機械、サイボーグじゃなくて、人間の腕だよ」

リアムが笑って言うと、

「そうだった。人間の私の『腕と手』だったわ……もう、重い物が持てないわね」

リリアさんは、自分の右腕と右手を見て、

少し、悲しそうに言っていた。

もちろん、機械、サイボーグではない、

生身の人間の自分の腕の方がいいけど、

腕を失って、絶望していた自分に、

希望をくれた機械、サイボーグの腕に、

愛着と感謝の気持ちがあった、

とリリアさんが言っていた。


ボロボロの生体ヒューマンの体で、

ジッタだけの存在になった僕に、自由に

動ける体をくれたから、愛着はわかなかった

けど、感謝はしている。

でもやっぱり、自分の生身な人間の体が、

一番いい。

これは、間違いない。




僕とエルザは、医療塔を出て、

中枢機関塔に戻って来た。

一緒に、エンヴィルに入って、

エルザの所属先がある5階に着いた。

エルザが、エンヴィルから出た。

「今日は、つきそってくれて、ありがとう」

「うん!」

笑って、手を振ってくれたので、

僕も手を振り返した。

僕の体は上昇を続けて、

地球環境モニター室のある7階で止まった。


エンヴィルから出て、

地球環境モニター室へ入ると、

みんなが、いっせいに僕の方を見て、

「お帰り!」

拍手で出迎えてくれたので、

なんだか照れくさかった。

「体は、どうだ?」

ルーカス室長に聞かれたので、

「最高です!」

僕は、元気よく答えた。

「久しぶりの、生体ヒューマンの体のスカイだ」

リアムが、僕の腕をつかんで、喜んでいた。

「やっとね」

僕は言った。

「目標までカウントダウン10、9、8、7

電子音声が流れた。

「リアム、大変!」

急いで、持ち場に着いて、

カメラのピントを確認して、

スピーカーから流れてくる電子音声と一緒に

カウントダウンをした。

「5、4、3、2、1」

カシャッ。

「なんとか、間に合ったね」

僕とリアムは、顔を見合わせて笑った。



1日後、勤務が終わったあと、

リアムの家に行った。

「お帰り。久しぶりの生身のスカイね」

リリアさんが嬉しそうに、

僕の背中をなでてくれた。

「スカイの胃が、どれくらい空いているのか分からないけど、久しぶりの固形の食事だから、好きなものを食べて欲しくて、少量ずつ、色々と用意したの」

リリアさんが、僕のために、料理を作って

くれていた。

「ありがとうございます! すごく嬉しいです」

僕は、リリアさんにお礼を言った。

ソファーに座って、

用意してくれていた料理を見渡した。

「本当に、久しぶりの固形の食事だ……」

僕の目から、涙がこぼれ落ちた。

「ほら、冷める前に、早く食べないと」

リアムが、僕の頭を優しくなでた。

「そうだよね……うん」

僕は、胸の前で手合わせ、

「いただきます」

と言った。

僕はまず、フォークを大豆ミートと

瞬培加工肉のハンバーグに刺して、

その光景じっと見つめた。

その瞬間、また目に涙が込み上げてきた。

固形の食事が、できる日が、また来る

なんて……と感慨深い気持ちになった。

ゆっくりと手を動かして、ハンバーグを、

口の中へ運んだ。

すごくいい匂いと温かい湯気が、

鼻に入ってきた。

口の中に入れて、噛みしめた。

僕の心も、口の中も、胃も、

幸せな気持ちで、いっぱいになった。

ゆっくりと、ハンバーグを飲み込んだ。

その様子を見守っていたリリアさんが、

「どう? 味は……」

と言った。

「すごく、おいしいです!」

満面の笑みで僕が言うと、

「よかった」

リリアさんが、嬉しそうに笑った。

ついに、口から食事ができるようになった

僕は、嬉しくて、幸せすぎて、

涙を流しながら、

リリアさんの作ってくれた、料理を食べた。



次の日、

レオ、エド、ステファンも休みだったので、

木星の流れるプールへ行った。

スライダーを滑ったり、遊覧して、泳いだり

して体を動かして、お腹を空かせてから

僕達は、カフェに向かった。

その途中で、

「あら? スカイ?」

タピアに声をかけられた。

「はい」

僕は、少し遠慮がちに答えた。

「レベルが上がって、生体ヒューマンになったの?」

と聞かれたので、ことの経緯を話した。

「そういうことだったのね。私の友だちも数人、倒れた人がいて、ヒューマンボウルにジッタを移していたけど、ひとりだけ……救助が間に合わなくて……ジッタが消え……あ、ごめんなさい。あの、楽しんでください」

タピアは、足早に去って行った。

タピアのあの感じからすると、倒れて、

ジッタが消失してしまい、あの権利を行使

した状態になってしまった人が、

友達にひとりいたのだろう。

僕は、倒れた時に運良く、リアムに見つけてもらって、事なきを得たけど、

僕が知らないだけで、そうではない人がいた

のか……なぜか、申し訳ない気持ちなった。

「あの、ほら、行こう」

レオが、聞いてはいけない話を聞いて

しまった気がする……と気まずい雰囲気が

漂っていた僕達の背中を押した。


カフェのアーチ状の出入り口をくぐって、

中へ入ると、係の人に、

「ようこそ、木星カフェへ。空いている席へどうぞ」

と言われたので、

僕達は、5人で座れる席を探して、座った。

出入り口にいた人とは、違う係の人がやって来て、メニューが載っている特殊な映像で

できている板をくれた。

「みんなで、分けよう!」

エドが、僕を見て言ったので、

「もちろん、そうしよう!」

僕は、笑顔で答えた。

係の人に、

木星のスポンジケーキひとつと、

木星の衛星の柄をしたクッキーを5枚、

大赤斑を模したフレーバーつきの水を2杯、頼んだ。

5分ほどして、

係の人が、調理ボウルを縦に4個積み上げて

持って来て、僕達の机の上に置いてくれた。

調理ボウルの上から、リアムが、ナイフで、

木星のスポンジケーキひとつを、

五等分に切って、一切れずつ配ってくれた。

中身まで忠実に、木星を再現している……

僕は嬉しくて、涙があふれてきた。

「いただきます」

僕達は、木星のスポンジケーキを食べた。

木星の衛星の柄をしたクッキーを、

ひとり1枚、

大赤斑を模したフレーバーつきの水が入った調理ボウルを、エドが手で割って、

5個にして、配ってくれた。


「スカイ……」


「え?」

僕は、兄さんの声が聞こえた気がして、

周りを見渡した。

兄さんがここにいるはずないよね……。

「スカイ、どうしたの?」

「えっと、なんでもないよ」

僕がニコッとすると、

「おいしいね」

リアムが僕を見て、笑顔で言った。

「うん、本当においしいね」

僕は、みんなの顔を見ながら言った。

「スカイの初食事、僕も一緒にしたかったな」

レオが、口を尖らせて言ったので、

「木星のカフェでの食事は、これが初めてだよ」

僕が言うと、

「そうなの!? 記念すべき瞬間に立ち会えた」

レオが、嬉しそうに言った。

初めて食べた、

固形の状態の木星のスポンジケーキは、

見た目は全然、違うけど、味は、ドロドロに

した木星のスポンジケーキとまったく同じ

だった。


でも、みんなと同じものが、

同じ状態のものが食べられる、

そんな些細なできごとが、

こんなにも幸せなことだったなんて……

僕は、初めて知った。


僕達は、楽しく話をしながら食べていた。

変な色をしたドロドロの料理が入った、

調理ボウルを運んでいる係の人が、ふと

視界に入って、無意識に目で追っていた。

その係の人が、持っていた調理ボウルを、

注文した人の机の上に置いた。

そこに座っていたヒューマンボウルの2人が

ひとつずつ、両手で持って、口にあててから

体の中にある、エネルギータンクへ

投げ込んだ。

その光景を、呆然と僕は見ていた。


生体ヒューマンの体でいたいのか、

ヒューマンボウルの体でいたいのか、

いたくないのかは、サミュエルさんが以前、

言っていた通り、個人の自由だと思う。

僕は、絶対に生体ヒューマンでいたいし、

なりたい。

この気持ちは、絶対に変わらない。

あの2人の本当の気持ちは分からないし、

知らないけど、

口にあてる必要はないのに……

大きなお世話だけど、

僕は、気の毒に、不憫に感じてしまった。


○次回の予告○

『6がある』





























































  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る