第11話(絵あり)「土星の環リンク」へ、遊びに行こう!

近日ノートの☆15☆、☆30☆、☆31☆☆36☆に挿し絵があります。


3日間の写真の分析の作業が終った次の日、またまた5人とも休みだったので、

エドの提案で、

最近、オープンした、新スポット、

「土星の環リンク」という場所へ、

行くことになった。


「すごく、楽しみだね! まさか、土星に行けるなんて」

リアムから、ワクワク感があふれていた。

「うん! 宇宙好きとしては、これまた夢のような話だよ。だって、土星って地球から十四億数千キロメートルも離れていて、僕達が、地球にいた頃にたどり着いたのは、無人探査機だけだよ。それが、ほんの数分で行き来ができて、さらに環でスケートができるなんて、これは、すごすぎる」

僕からも、リアムに負けないくらいの、

ワクワク感が、あふれていた。

リアムとそんな話をしていたら、

「おはよー」

声がして振り向くと、

レオとエルザ、エドとステファンだった。

「おはよ。また妹も一緒だけど、よろしく!」

レオが言った。

「みんなで行った方が、楽しいよ。そうだ、エド、エマは?」

僕が聞くと、

「エマは、友達と3回も行っていて、すごく楽しかったって」

エドが言ったので、

「エマは、もう3回も行ったのか。リピーターだね」

僕は、言葉を返した。

「それでは、メンバーがそろったし、行こう!」

レオとリアムが、元気よく言った。


土星までの行き方は、

中継浮遊コロニーを経由して、

月と火星間のようにカプカに乗って、

ファイカプから移動する。

時々、太陽と土星の位置によって、

何個も中継浮遊コロニーを経由しなくては

いけない場合があって、

月と火星間の移動よりは少し時間がかかる

けど、僕が地球にいた頃のことを思うと、

簡単に、お手軽に日帰りで行き来ができる。


「中継浮遊コロニー」とは、

地球と火星の間の位置で、

太陽の周りを非常にゆっくり、見た目では、止まっているように見えるくらいの速度で、周回していて、

等間隔の幅で、20個設置してある、

ファイカプが設置してある人工物のこと。


「土星には耳がある」

僕は、この言葉が好きだ。

天体に耳があるなんて、

こんな素敵な表現、発想、比喩は、

僕には思いつかない。

これは、地球の暦でいうところの、

西暦1610年、

科学者のガリレオ・ガリレイが、

自作の望遠鏡で、

初めて土星を見た時の言葉だと、

地球にいた頃に読んだ本に書かれていた。

ガリレオの倍率の低い望遠鏡で土星を見ると

土星の両端に耳が生えているように、

見えたそうだ。



僕達は、月にあるファイカプへ行って、

スクエアに、

「大型のカプカで、土星まで」

と頼んだ。

出現したカプカの側面にあいた人型の

出入り口から乗り込んで、

全員が浮いているクッションに座ると、

カプカの出入り口がふさがった。

自動で最短ルートを検索して、

「出発します」

スクエアが言って、

移動を始めた。

カプカには、大きな窓がついていて、外が

見えるようになってはいるけど、

すさまじい速さで移動しているから、

景色は一切、楽しめない。

だから、窓には、ゆっくり宇宙空間を

移動している風の映像が流れている。

中継浮遊コロニーを、いくつ経由したのか、分からないけど、出発してから数分後、

土星の環に作られたスケートリンクと

つながっている、

「浮遊コロニーST10」に到着した。


カプカを降りると、

目の前に、壮大な景色が広がっていた。

「すごい! 何これ……お、大きい!」

「これが、土星……」

僕達は、驚愕した。

土星を呆然と見ていた僕達に、

「今日が、初めてですか?」

土星の環リンク管理室所属の案内係の人が

声をかけてきた。

「はい! これって、どうなっているのですか?」

僕が聞くと、

「ここは、土星の環の2m上に、特殊な氷を環の形に沿って作って設置した施設です。この氷を冷やしているのは土星自身で、太陽から遠いので表面温度が、マイナス180度にもなるので、氷を冷やすのにもってこいだ!

ということで、スケートリンクを作ったそうです 」

と教えてくれた。

「天然の冷凍庫ですね」

僕が言うと、

「そうなりますね。リンクには、内側、中央、外側の3つのコースがあって、中央は、オーヴウォークになっているので、疲れた時はこの中へ入って、ゆっくりと移動してください。大きさが大きさなので、自力でここまで戻って来られないと思った時や早く戻りたい時は、テレパをしてください。迎えに行きます」

案内係の人が言った。

「スケートリンクに来て、帰れないって、さすが、土星。スケールが違うね、地球にあったスケートリンクとは」

エドが言った。

「もしかして、土星の環を構成している氷の粒とかが、見えますか?」

少しマニアックな質問をすると、

案内係の人が、

「もちろん、見えますよ。詳しいですね」

と言ったので、

「地球にいた頃、宇宙が好きで」

僕は答えた。

「スケートリンクの下を、ぜひ、のぞいて見てください。環を構成している、小さな氷の粒などが、動いているのを間近で観察できますよ」

案内係の人が教えてくれた。

「それは、すごい!」

僕とステファンは、顔を見合わせて、

同じことを言ったね、と笑った。

「外は、マイナス180度の極寒なので、この保温シールドを頭に被ってください。全身がすぐに、ポカポカしてきますよ」

案内係の人が、

ひとりずつ、頭に被せてくれた。

「それでは、いってらっしゃい」


案内係の人に見送られて僕達は、

浮遊コロニーST10と土星をつなげている

地球では見たことがないけど、アムズでは

時々見る花の彫刻が施された橋の通路を、

土星に向かって進んだ。

「これを取ったら、本当に寒いのかな? 今、すごく暖かいけど」

リアムが、保温シールドを頭から少し離して

すぐに被ったので、

「どうだった?」

エドが、ニヤリとしながら聞くと、

「これ絶対、何がなんでも、取ったら駄目なやつ! 今、一瞬、凍えて死ぬかと思った!

本気で 」

青い顔をして、リアムが言った。

「リアムって、バカだね。さっき係の人が、マイナスの極寒って言っていたよね?」

エドが、大笑いすると、

リアムは、照れ笑いをしていた。

スケートリンクには、

たくさんの人が楽しそうに滑ったり、

環を観察したり、土星を眺めたりしていた。

リアム、レオ、エドは、

「行くぞ! 数万kmのリンクを、自力で走破してやる!」

意気込んで、はしゃぎながら、

リンクの外側を滑って、行ってしまった。

「あの辺で、観察してくるよ」

ステファンは、ゆっくり氷の上に立って、

歩いて行った。

「どうする?」

エルザに聞いてみると、

「底が見えないところは怖いから、ここにいる」

と言った。

妹を置き去りにしたのは、レオだけど、

僕は、エルザをひとりにして、ここを離れることはできないな、と思ったから、

「一緒に歩く?」

と誘ってみた。

少し、どうするか考えて、

エルザは笑顔でうなずいた。

その笑顔に僕は、一瞬、

釘付けになってしまった。

はっ! と我に帰った僕は、気を取り直して

「環は、遠くから見ると1枚の板みたいだけど、近くで見ると、氷とかの粒でできていて、つながっていないから、落ちそうに感じるよね。でもほら、見て。足場は、頑丈だよ」

リンクの上で、ジャンプして見せた。

「どう? 大丈夫そう?」

と聞くと、うなずいたので、

僕はエルザの手を取って、ゆっくりと一緒に

まずは両足のつま先だけスケートリンクの

上に立った。

エルザを見ると、目を閉じていた。

「もう少し、歩いてみよう」

一歩、もう一歩と歩いて、

体が完全にリンクの上に来た時に、

「目を、あけてみて」

僕が言うと、

エルザが、目をあけて、

「怖い!」

抱きついて来たので、

僕は驚いて、硬直した。

「戻ろう」

エルザが言ったので、

「う、うん。目を閉じていて、僕が誘導するから」

僕は、ドキドキしながら、抱きつかれたまま

通路に向かって歩いた。

「ごめんね、怖いって言っていたのに」

と言うと、

「うん、大丈夫」

と言ってくれた。

「通路に戻って来たよ」

僕が言うと、

エルザが目をあけた。

その時、

通路をこちらに向かって歩いてくる人が

いたので、僕とエルザは、

パッと離れて、

通路の手すりに背中をくっつけて、

道を譲った。


横顔しか見えなかったので、

表情が分からないけど、

エルザの頬が、ピンク色をしていた。

僕の頬も見えないけど、

熱を帯びているのを感じた。


歩いていた人達が、

僕とエルザの前を通過した。

すると、

エルザが、ゆっくりと一回転して、

両手で手すりを持ったので、

僕も同じように、一回転して、

手すりを持った。

僕の動きは、なんだかぎこちなくて、

カクカクしていた。

僕とエルザは、通路の手すりにもたれながら

お互いの顔は見ずに、

景色を見ながら話をしていた。

自力で走破する!

と意気込んでいたくせに、

結局、数十メートル滑っただけで、

疲れてしまったレオ達は、

リンクの一部を、行ったり来たりして、

時には、オーヴウォークの中に入って、

景色を眺めて、

僕とエルザの前を通過する度に、

「おーい!」

と手を振ってきたので、

僕とエルザも、手を振り返した。

土星の環の観察を終えたのか、

巻き込まれたのか、

いつの間にかステファンも、

レオ達と一緒に、リンクを行ったり来たり

していた。


時計がないので分からないけど、

数時間くらい、滑っていたのかな?

「疲れたぁ……」

口々に言いながら、レオ達が通路に戻って

来たので、帰るために、

浮遊コロニーST10へ向かった。

「スカイとエルザって、いい感じ? 兄としては、どうなの?」

エドがレオに、

少し前を並んで歩いている僕とエルザを見て言った。

「そうだね、スカイは優しいし、男の僕から見てもカッコイイし、影があると言うかミステリアスな雰囲気があって、魅力的だと思うから、スカイになら、妹を任せられるよ」

レオが言うと、

「確かに! スカイになら、安心して妹を任せられるね」

エドが言った。

「僕は、どう?」

リアムが聞くと、

「任せられないな」

レオとエドが同時に即答して、笑った。

「2人して、酷いよ。ね、ステファン! 酷いよね!?」

リアムが、ステファンに訴えた。

またいつもの3人が、今回はステファンを

巻き込んで騒いでいるなと思いつつ、

エルザと並んで、話をしながら、

僕は歩き続けた。


浮遊コロニーST10に着くと、

「お帰りなさい、楽しめました?」

案内係の人に聞かれたので、

「はい! 楽しかったです」

と僕達は答えた。

「よかったです。ファイカプの手前に、立方体の機器が浮いていて、その画面に表示してあるお土産をひとり、ひとつ、欲しい物があれば、貰って帰ってください。写真という表示を押すと、土星の環に乗っている風の写真が撮れて、人数分、出現させて持ち帰れます。では、保温シールドを回収しますね」

案内係の人に、保温シールドを返して、

僕達は、お土産を見に行った。


「観光地に来たみたい、お土産だなんて。どんな物があるのかな?」

「記念写真だって、珍しいね。せっかくだから、撮っていこう」

宙に浮いていた機器を見つけて、

画面を見ると、お土産がいくつか表示されて

いた。

環が回転している土星の形をしたキーホル

ダーと、

土星の本体に、AIヒューマン風の耳が

ついたキーホルダー、

土星が実際に自転 ( 土星は約11時間で一回転 ) をしている、大きさが自由に変えられる

ポスターと、

これと同じ柄と仕組みのラグと、

なぜか分からないけど、

あのリサの等身大のぬいぐるみがあった。

ぬいぐるみは、お腹と背中に土星の模様、

耳には、土星のリボンがついている、

土星仕様になっていた。

それを見た瞬間、

僕は、どれにするか、すぐに決まった。

「すごく面白いから、リサがいいな」

僕が言うと、

「僕も! キーホルダー、ポスター、ラグときて、リサって、意表を突かれた」

エドが笑うと、

「僕も、一緒」

ステファンも笑った。

「レオとリアム、エルザは、どうする?」

エドが聞くと、

「スカイと一緒がいい」

エルザはレオに、こっそり伝えた。

「僕とエルザも、リサにするよ」

とレオ。

「もちろん、僕も。土星のお土産が、リサっておもしろすぎ」

リアムが笑った。

みんなで、リサのぬいぐるみを貰って、

一緒に写真を撮った。

写真をひとり、1枚ずつ貰って、

カプカに乗って、

ファイカプで、月へ移動した。

カプカに乗っている時に、リリアさんから、

リアムにテレパがあって、みんなでリアムの

家に行って、ご飯を食べることになった。


リアムの家がある浮遊コロニーM02へ行く

三日月ベンチは、3台しかないので、

先にリアム、エド、ステファン、

次に僕、レオ、エルザの順番で移動した。

リアム達の体が、ナノサイズに分解されて、チューブの中へ完全に吸い込まれていった。

僕達の順番がきて、

三日月ベンチに座った時、エルザと僕は、

たまたま向き合うように座ったので、

目が合った。

その瞬間、

エルザがニコッとして、

「また、あとでね」

と手を振ったので、僕も手を振った。

急に、

ドクンドクン、

動悸がして、胸が苦しくなった。

でも、チューブを通って、

M02の三日月ベンチに移動して、

体が復元して、しばらくすると、

動悸は治まった。

エルザが僕のところへ来て、

「行こう」

服を引っ張った。

僕はうなずいて、今度は2人で、

みんなの後ろを並んで歩いた。

リアムの家で、おいしいご飯を食べて、

僕達は、それぞれ家路に着いた。


○次回の予告○

『異変の予兆』




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