愛の力
「皆を助けてくれて、ありがとう」
大怪獣ジュラガカンを倒したヒーロー、超常戦士エクセレント。
正確にはそのコスプレをして活動していた青年、天野誠一の追悼式でそう小さく声に出し、深く頭を下げる少年がいた。
初めてジュラガカンが顕れた数年前の日、少年は詳しくは覚えていないが、大混乱の街の中で、母親と逸れてしまったことがある。
それはジュラガカンが顕れた日で、少年は母親から手を離してしまい、瓦礫だらけの街に取り残されてしまったのだと、母親から聞かされた。
そして、逸れた少年を助けてくれた人がおり、その人にずっとお礼を言いたかったが、後からエクセレントの正体が世の中に発表されて、母親は驚いた様子で、ニュースに映るエクセレントの中の人、天野誠一の顔写真を指差して言った。
「この人だ! あの日、あなたを助けてくれた人、この人だ! エクセレントだったんだ!」
超常戦士エクセレントは、大怪獣ジュラガカンが顕れたのと同じ頃に現れた。
はじめの頃はゴミ拾いだとか福祉施設の手伝いとかを、特撮ヒーローの覆面とスーツを身に付けてやっていた奇特な人物として見られた。
けれど次第に、何を任されても頑張るエクセレントを、本気でヒーローだと慕うファンが増えていった。
そして遂には、エクセレントは政府の開発した兵器を手に、ジュラガカンの口元にその兵器を撃ち込む役割に自分から志願したと報道されている。
追悼式の壇上に、天野誠一の盟友だったという技術者である紫尾田さんが立った。
いつの間にか、あの大怪獣は映画『大怪獣ジュラガカン』に出てくる怪獣の名前で呼ばれるようになったが、その映画に出てくる登場人物と瓜二つ、そして同名だということで「ジュラガカンを倒すのは私達の役目だ」と決意した人なのだと報道では紹介されていた。
紫尾田は天野誠一への感謝と、この場に本人が居ない悔しさを語り、そしてこう続けた。
「私だけではきっと、ダメだった。この世界に来て途方に暮れていた私に“ジュラガカンを倒す紫尾田”の役割をくれたのも、その役割から逃してくれたのも君だった。覚えているか? 私が君に指摘したことがあった。『気付いているか? 君はあの怪獣を一度もその口で、“ジュラガカン”と呼んだことがないんだ』と。すると君はこう言ったな。『俺のジュラガカンはスクリーンの中にいる』って。きっと、君のそうした“畏れ”がジュラガカンを──いや、あの怪獣を倒す力になったんだ」
ありがとう。
紫尾田は、マイクがギリギリで拾えるくらいの大きさの声でそう呟き、頭を下げた。
「ありがとう」
少年も同じように、感謝の言葉を口にした。あなたが救ってくれたこの命、きっと無駄にはしません。僕はあなたに助けられたことを誇りに思えるような、そんな大人になりたいです。
少年は感謝と共に、心の中で決意する。
そうやって、少年も、式に集まった他の者も、紫尾田に続くように頭を下げて、黙祷した──。
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