第8話 物事は計画的に行おう!

 「日陰ってあのリイアのリア友らしいぜ」


 「あー見た見た。通りであの実力と装備だよねって感じ。でも、なんでトラップにあそこまで引っかかるんだろ?」


 クラスでは今、日陰と言う新人配信者の話で盛り上がっていた。


 「おかしい⋯⋯」


 何故、ここまで周囲に広まっているのか。

 確かに、誰か一人が見て、誰かに広めた可能性はある。

 だけど、クラス全体まで広がるモノなのか?


 俺も今、スマホで調べているのだが⋯⋯今回のバズりは俺が原因じゃなかった。

 ⋯⋯なんだよリイアたん。そんなに凄い人だったの!

 日本を代表するレベルの実力者って知らないし!

 なんだよ日本五天皇って!


 ただ、時々雑談配信見たりして癒されたり、ダンジョン攻略の実況を見て癒されていただけなのに!

 オーダーメイドの専用装備ってあるのかよ! つーか高! 数十億もするの?!


 そのせいで今は日陰がリイアたんの知り合いである事が確定してバレている。

 そこからリアルの関係性まで突き止めようとしている人も居るし。

 ⋯⋯だけど、二人ともリアルに繋がるような情報はないだろうから問題ないだろう。


 「なんだ? お前もダンジョン配信に興味あるのか?」


 「芹沢⋯⋯」


 「お前もダンジョンで稼げよ! そしたら俺達に寄付出来るだろ?」


 もう既にやってるよ!

 クソ、なんで三本しか動画公開してないのに、ここまで広まるんだよ。

 意味わかんね。


 ステータス情報を完全に変えたいから金が必要だし⋯⋯モンスターカードを全力で集めないと。

 一級をオークションで売れば八億円とかすぐに集まるだろ。


 今日の放課後もダンジョンだな。


 放課後、絡まれるよりも素早く家に帰り、着替えと軽食を持って外に向かう。

 道場で剣道を教えている両親にはメッセージで晩御飯が要らない旨を伝えておく。


 剣道は普通に競技用の技術を教えているので、愛梨が参加する事は無い。

 だからだろう。家を出た瞬間に愛梨が待っていた。


 「あ、日向くん。さ、行こっか」


 「悪いが今日は必要ない。全力でガチャポイントを集める」


 「え?」


 「イベントガチャは一ヵ月後の期間があるから問題ないと思うけど、ステータスの偽装はそうじゃない。この調子だと、本当に芹沢達に無理矢理ダンジョンに行かされかねない。その為の準備をする」


 データ情報改竄権利システムを購入する。

 俺の呪いスキルとガチャスキルを隠して、全身を隠せる装備と声を変えられる装備も購入する。

 これで問題ない筈だ。


 十億あればデータ世界に入れる。

 そこでさらにカードを売れば、俺の存在は完全に消せる。

 その為の金が絶望的に足りない⋯⋯。


 「狙うはシークレットと金になりそうな一級モンスターカード⋯⋯無課金勢の全力を見せてやる」


 「わ、私も手伝うよ! パーティ設定すれば、私が倒してもポイント手に入るでしょ!」


 必死の様子な愛梨の俺は不思議に思う。

 何故ここまで一緒にやろうとするのか、と。


 「⋯⋯レベルが上がりにくくなるんだろ? 大丈夫だよ」


 「そ、そうはいかないよ! そ、それにほら! トラップに引っかかった時に助けられるからさ!」


 「それもモンスターで出来るから問題ない⋯⋯」


 「⋯⋯Vは余裕だったら次はUに挑戦しよう! おーたまたま近くにUランクのダンジョンがあるみたいだよ! ささ、行こう行こう!」


 「おい待て、押すな!」


 「日向くんがリイアを推すなら、愛梨は日向くんを押すよ!」


 「意味の分からん事を!」


 結局、Vの一個上であるUランクダンジョンに二人で入って来た。

 そしてパーティ設定も行った。


 「ん? なんか他に三人居るけど?」


 「それは私の友達だよ。パーティ設定しても同じダンジョンに居なければ経験値や報酬は分配されないから安心して」


 友達と時々やるって言ってたな。

 バイト感覚か遊び感覚か。


 この三人は俺が入る事を良しとしているのか? クランには入ってない⋯⋯っぽいけど。

 んん?


 俺は気づいてしまった。

 コレ、非常に不味いのでは無いだろうか。


 「ん? どうしたの?」


 「この画面にはリイアの名前がある」


 「うん。一応そうしてる」


 「これは退出するまで継続されるよな」


 「そうだね。スマホの中だから現実世界でも適応されるし」


 「そして今、パーティメンバーの名前が見えるよな?」


 「見えてるね。日向くん以外は偽名だね」


 そんなのは重要じゃない。

 俺達からパーティメンバーの名前が見えると言う事は、あっちからも俺達の名前が見えると言う事だ。


 「友達さんはリイアの事を知ってる?」


 「勿論」


 「日陰さんの動画見てたり、する? どっかの誰かさんの不注意でバズった」


 「うっ。意地悪い言い方だなぁ。確かに予備の武器を使わなかった事はミスだと思ったよ。でも、そんな言い方⋯⋯ごめん、ちゃんと見てるし、なんなら私がコレ私って認めた」


 俺と愛梨は目を合わせた。


 このスマホにはパーティに加入しましたと言うログもきちんと確認出来てしまう。

 ちゃんと名前も添えて。


 「やばくね?」


 「やばいね」


 相手が今、ソレを確認してしまったら、俺の存在がバレる。

 芋づる式に日陰の正体もバレる!


 不味い。


 「急いでポイント集めてガチャ引いて金稼いで名前変えるぞ!」


 「ごめん! またもやミスったあああ!」


 「ちくしょう、なんでログシステムがあるんだよ! それ無かったら抜ければ済む話なのにぃ!」


 俺はタコ男、そしてカムイを召喚して全力でエネミーを狩りまくった。

 視界に入るありとあらゆるエネミー、つまりは敵モンスターを倒しまくった。

 金でも素材でも無い、俺だけが手に入るポイントを求めて。


 今回のダンジョンはオーガと言う大きな鬼が出て来るのだが、こいつは俺の力では中々倒せなかった。

 レベル不足のようだ。

 でも、モンスター達は問題なく瞬殺していたので、効率化を狙って分散させている。


 エネミー1体に付き6ポイント。


 連発は一万なので⋯⋯1666体以上は倒さないと行けない!

 効率だ。とにかく効率を重視しろ!


 あーもう既に20体を俺一人で倒してる筈なのにレベルが上がらねぇ。

 これがパーティメンバーに加入したデメリットか!

 パーティの全体レベルが高すぎる!


 つーか、カンストはないのか!

 なんで皆、500越えなんだよ!

 世界ランカーの上位でも600代らしいので、カンストまでは遠い話だ。

 そんな奴でも単騎ではFランクダンジョンの攻略も難しいらしい。


 「でもパーティのお陰で、ポイントの効率は良い!」


 リイアたんも全力でモンスターを狩り尽くしている。

 もっと高ランクなら効率も上がるだろうが、それだと下手をしたら俺が死ぬ。

 そうなってしまったら金が無駄にかかる。守ると効率が悪くなる。


 「ちくしょうめ!」


 同じダンジョンに居ないと報酬は分配されない、この仕様くっそ要らねぇ!


 「はぁ、はぁ」


 皆で全力で狩りまくったら一万を超えた。レベルは上がらなかったよちくしょう。


 「こい、高額カード、こい、メイドシークレット!」


 「⋯⋯メイド服を着たら私も見てくれるかな」


 俺は愛梨の小さな呟きが全く聞こえず、連発をタップした。


 「最低保証⋯⋯のみ」


 大・爆・死。


 しかも四級かよ。

 既に時間は十時。愛梨も居るし帰らないといけない、な。


 「この四級、スキル的に生産職か? 戦闘用じゃないなら売れないか。帰ろうか、今日は」


 「そうだね。一応パーティは外れておこう。もしかしたらログを確認しない可能性があるからね」


 「それもそうだな」


 この時もまたミスが存在する。

 スマホの元来から存在する機能『通知』を。

 友達付き合いの上手いJKが果たして、通知音を切っているのか。或いは通知をオフにしているのか。

 音を切っていても結局バレる、オフにしている事を願うしかない。


 ⋯⋯そんな希望的観測すら思い浮かばない俺達は、軽食を食べて両親が用意していた晩御飯を温め、二人で食べていた。

 晩御飯は要らないと言っていたのに、用意してくれていた。

 軽食しか食べてないので、ちゃんと食べる事は出来た。


 「この時間でも、愛梨の両親は帰って来ないんだな」


 「うん。深夜に帰って来て。私が学校の間に仕事に行っているんだと思う。時間帯が違うんだよ」


 顔を合わせる時間が上手く噛み合わない。

 しかも、あっちの家族も愛梨がここで食事している事を許しているから朝以外は用意してないらしい。

 朝ごはんを用意している辺り、愛情がない訳では無いのだろう。

 寂しいな。


 本人はソレを受け入れて満足しているっぽいけど。

 それで良いのかね。

 食費は断っているらしいけど⋯⋯今の愛梨なら家政婦を雇える気がする。


 「システムを買ったらどうするの?」


 「そうだな。リイアたんの新規グッズに備えるのと、自分の好きなラノベとかを買い漁るかな」


 「贅沢⋯⋯」


 「金があってしない人と金が無くしてしたい人、経済はどっちを求めると思う?」


 「どっちも求めないでしょ」


 「俺もそう思った」

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