第31話 劉備、雷に怯えて誤魔化し、徐州へ帰る

 劉備は動揺を見抜かれてしまい曹操の顔を見ることができなくなってしまった。


 そんな時であった。


―――ピカッ!! ゴロゴロ、ドッカーン!!―――


 雷が鳴り響いたのである。


「うわ~~!!!」


 劉備は声を上げて机の下に逃げ込んでしまった。


 劉備が驚いたために、曹操も驚いてしまった。


「な、なんだ!!?」


 曹操は恐る恐る劉備に訪ねた。


「劉皇叔、もしや、雷が怖いのか?」


 劉備は曹操の問に息を飲み込む演技までして答えた。


「は、はい、どうも雷は苦手でして………飛んだ醜態を晒してしまいました。」


 曹操は天を見上げて考え込む。


(人のために命を投げ捨てられる英雄が雷を怖がるだろうか?)


 曹操が次に劉備を確認すると劉備の手は震えていた。


 劉備は俯いたまま曹操とは目を合わせなかった。


 近くに居た女侍たちが劉備を見て『クスクス』と笑い始めてしまった。


 英雄が雷に怯えて女から笑われてしまったために、曹操も思わず笑ってしまった。


「はっはっはっはっは!! そうか、英雄も雷は怖いか!! さぁ、劉皇叔、今宵は飲みましょう!! 儂が着いておる!! はっはっはっはっは!!」


 曹操は劉備の手を握って安心させれば酒を注いだ。


 曹操は劉備が欲しかったが殺そうかと悩んでいた。


 しかし、本当は小心者で臆病なのだと思い込んだ。


 周りから英雄になれと言いつけられたに違いないと思った。


 つまり、劉備は周囲から英雄に仕立て上げられた被害者ということである。


「なるほどな………張飛や関羽が仕立て上げたのか………」


 曹操が意味深なことを呟くと劉備はアンドのため息を付いた。


 宴が終われば関羽と張飛にこのことを早速相談する。


「弟たちよ。曹操は私を英雄と敵視しておる。曹操に同様を見にかれてしまったが、運良く雷がなり、それに怯えるふりをした。」


 それを聞いて関羽はこう返す。


「流石は兄者です。では、曹操の疑いは晴れたのでは?」


 劉備は首を振って答えた。


「曹操は私への疑いはなくなった。しかし、関羽や張飛の疑いが濃くなってしまったようだ。」


 これを聞いて張飛が首を傾げる。


「なんで俺達が疑われるんだ?」


 劉備は事細かに説明した。


「なるほど、兄者は漢王朝の血筋、それを俺達が利用してるってことか………」


 これを聞いた関羽は激怒した。


「ふざけたことを………我々は登園の誓いを立てた義兄弟!! 命がけで今まで生き抜いてきたというのに!!」


 劉備は二人を静止させて言う。


「私は一度、ここを離れようと思う。」


 それを聞いて張飛は喜んだ。


「そうだそうだ!! こんな堅苦しいところ、性に合わない。さっさとでていこう!!」


 そんな時、恐ろしい声が聞こえた。


「今の話、聞かせてもらったぞ!!」


 吃驚仰天した三人は声のする方向へと振り返った。


 これぞ、程昱である。


「見つかってしまっては、もう強行突破するしかないな。」


 関羽が剣を引き抜けば、程昱は静止させた。


「待て、私は劉皇叔に一計授けに参りました。」


 これを聞いて関羽は動きを止め、劉備が問う。


「それはどういうことですか?」


 程昱が郭嘉の陰謀を話した。


 それを聞いて、三人は驚き、劉備が程昱に聞いた。


「では、あなたは何を我々に助言してくれるのでしょう?」


 すると、程昱はかくかくしかじかと三人に話した。


 三人はこれを聞いて名案だと思った。


「はっはっは、確かに、これなら無傷で逃れられるし、曹操に対抗できるぞ!!」


 張飛が喜ぶ中で劉備が質問する。


「しかし、なぜ、我々を逃がしてくれる? おまけに、兵を与える策まで授けられて、あなたはどちらの味方なのでしょう?」


 この質問に、程昱はため息を付いて答えた。


「正直、天子のことを思うと、胸が痛む。しかし、曹操の恩義もある。もし、使えるものが曹操でなければ、胸は晴れていたことでしょう。曹操に見を寄せてしまった愚かな私をお許しください。」


 劉備は程昱の義を称えて礼を言う。


「ことがうまく行けば、かならず、あなたをお迎えに参ります。」


 程昱は深く頭を下げて、その場を早々に去っていった。


 張飛が言う。


「しかし、罠だったらどうします?」


 劉備は張飛に返答する。


「それはない。罠を仕掛けるなら、郭嘉の策だけで十分であろう。わざわざ事情を話す必要などない。」


 これを聞いて、張飛は納得し、三人は程昱の策に従うことにした。


 翌日のことである。


「申し上げます。袁紹が公孫瓚を破り、袁術が玉璽を献上し、援助を求めてる模様です。」


 これを聞いた曹操は驚いて立ち上がるが、劉備がいち早く進言した。


「丞相、袁紹と袁術が組めばその勢力は計り知れません。何としても阻止しなければなりません。しかるに、この劉備は徐州の地に覚えがあります。この劉備が袁術を生け捕りにしてみせましょう。」


 それを聞いた曹操よりも天子が先に褒め称える。


「素晴らしい。皇叔たってのご申出手だ。丞相、いかがかな?」


 曹操は話の展開に少しついていくことができなくなっていた。


「そうですな。袁術を止めなければ厄介なことになる。しかし、劉備には兵がない。」


 ここで天子が即座に提案する。


「しからば、丞相の兵馬を貸してあげ、皇叔に功をたてさせてはいかがであろうか? 劉備は漢室の末裔、逆賊袁術を生け捕りにできれば、歴代の皇帝の威厳もますます高まり、董卓らの悪政による汚名も返上され、民心の回復へ繋がるだろう。」


 そこへ劉備が続く。


「恐れながら、丞相、15日以内に任務を果たせぬ時は、この劉備、処罰を受ける覚悟です!!」


 これを聞いた曹操は眉間にシワを寄せた。


 考える日まもなく、天子が続く。


「立派な忠義心だ!! ここまで言われては、丞相も否とは―――」


 これに曹操は天子を睨んだ。


 天子は黙って俯いてしまった。


 曹操は頷いてから口を開く。


「劉備殿、そなたに5万の兵馬を貸し与えよう。」


 劉備は平伏してお礼を申し上げる。


「ありがとうございます。この劉備、必ずや期待に答えましょう。」


 ここで郭嘉がにやりと笑う。


 これを見た程昱が鼻で笑った。


 程昱がまず、先手を取る。


「丞相、劉備に朱霊をつけては? 必ずや助けになるでしょう。」


 これを聞いた曹操は笑っていう。


「そうだな。朱霊を同行させよう。劉備殿の力になるであろう。」


 朱霊は曹操の見張り役である。


 何かあれば、何でも曹操に報告して報酬をもらっていた。


 郭嘉は程昱がポイント稼ぎしているのだと思った。


「ふん、私の策を利用して、なんてやつだ。」


 郭嘉は軍議が終わると曹操に慌てたふりをして報告する。


「丞相、劉備を行かせてはなりません。劉備は胸に大志を抱いており、漢室の末裔です!!」


 曹操は郭嘉の言葉にため息を付いて言う。


「儂もそう思っておった。郭嘉よ。どうすれば良い?」


 これに郭嘉は提案する。


「許褚将軍を送って劉備を連れ戻してはいかがでしょう? そして、兵馬は許褚が指揮し、袁術を捉えさせるのです。」


 なるほど、と曹操は頷いた。


「確かに、それなら、劉備だけを連れ戻して、袁術を捕らえることもできよう。」


 郭嘉はしめしめと思った。


 許褚は劉備を殺し、袁術を捉え、劉備が戦死したと報告する手筈である。


 しかし、これには曹操が心配して言う。


「だが、許褚一人では不安だ。張遼もつけよう。」


 郭嘉はまさか、張遼をつけるとは思わなかった。


「張遼は忠義のものですが、まだ、丞相の腹心ではないのでは?」


 郭嘉の言葉に曹操が笑っていった。


「だから、張遼をつけさせるのだ。」


 郭嘉は曹操の考えていることがわかってしまった。


「はぁ………わ、わかりました。」


 曹操は張遼を褒め称えて腹心にさせるつもりなのだと、郭嘉は許褚を呼び出して命じた。


「作戦変更だ。許褚よ。劉備を連れ戻すのはやめろ、同行するように、そして、協力して袁術を捉えてから劉備を殺せ!! 張遼は殺すな。いいな!!」


 許褚は出発前に郭嘉にもう一度確認する。


「劉備を戦死したと報告する手筈だが、これだと、そんな言い訳ができないのでは?」


 郭嘉は笑っていう。


「袁術の残党に奇襲されたといえば良い。」


 これを聞いて許褚は迷いがなくなり、顔つきが変わって郭嘉の計に従うのである。


 そこへ程昱がやってきて郭嘉に言った。


「うまく行けばよいですな~。」


 これに対して郭嘉もいう。


「全くだ………」


 程昱は読み通りだと笑っていた。


 程昱が郭嘉の策を利用しているなど、これっぽっちも疑わなかったのである。


 次回、郭嘉の裏を欠いた策略が明かされる。


 果たして、劉備と許褚の決着はいかなるものになるか………

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