第24話 下邳への水攻め、呂布の最後
呂布は曹操の矢文で精神的に弱っていた。
「酒を持って来い!! 酒!! 飲まずにはいられない!! 酒を持って参れ………」
その夜は酒の御蔭でぐっすりと眠ることができた。
しかし、鏡を見ると自分の顔が大いにやつれていたのである。
「なんてことだ!!? これが俺の顔なのか!!?」
呂布は己がどれだけ衰弱していたのかを酒で忘れてしまっていた。
この事により、呂布は酒を禁止し、酒と言う者には体罰を与える法律を強要させた。
そんな中、兵士皆が精神的に弱ってきているのを不安に思い、呂布軍のために動こうとしていた男が居た。
侯成である。
侯成はちょうどこの頃、呂布軍から裏切り者が出たために、それらを捕まえていたのである。
裏切り者は曹操ではなく、劉備に馬15頭を献上して降伏するつもりであった。
しかし、侯成の手によって捕まってしまい、おまけに馬15頭も敵陣に突っ込んで取り返してしまったのである。。
「全く、男なら一度忠誠を誓った者に最後まで尽せというもの………しかし、貴様の気持ちもわかる。何、俺がお前たちのために宴会を開いてやろう。おい、こいつを牢に入れておけ!! 後で出してやるから待っていろよ?」
そう言うと侯成は呂布軍の士気のためにイノシシを10頭も捕まえてきた。
これには皆も大喜び、侯成に心打たれてしまう。
「侯成さん!! 俺は一生あんたについていくぜ!!」
侯成も気分が良くなり、早速呂布将軍の元へと向かった。
「まだ飲食はしておりません。呂布軍の士気のために!! さぁ、今宵は大いに飲みましょう!! ささ、是非最初は呂布将軍に………!!」
しかし、呂布はこの時、禁酒令を出したばかりであったために侯成に対して喜ぶどころか激怒することになる。
「貴様はこの俺が禁酒令を出したばかりでなんでこんなことをするんだ!!」
侯成は面罵されてしまい、驚愕する。
皆が侯成を庇い、呂布を宥めるも、次に呂布は全員を疑った。
「貴様らは共謀して反乱でも起こすつもりか!!?」
大事になりそうなところで陳宮、張遼、高順が駆けつけて侯成に非がないことがわかり、なんとか収拾が着くが、呂布の怒りは収まらなかった。
「今度こんな真似をしたら許さんからな!! このイノシシは全部野に返し酒は捨てておけ!!」
侯成はこの一件で恐怖と憤懣を抱えてしまう。
劉備に裏切った武将が侯成のことを思い、助言する。
「呂布は身勝手なやつだ!! あんな奴のために命を捧げてどうする!! 侯成は誰よりも呂布のために頑張っているのに評価すらしてくれない!! 有能な君ならそれがわかるはずだ!!」
侯成の中の忠義はすっかりなくなり、溜息をついてしまう。
そんな時、侯成のことを思う者たちが集まってきた。
魏続と宋憲である。
「もう我慢ならん!! 侯成!! 俺たちがついている!! 呂布を裏切ろう!!」
そう言うと侯成が捕まえてきたイノシシを持ってきてくる者たちが数人ほど現れる。
「呂布が食わないなら俺たちで食おうじゃないか!! 俺は侯成のために食うぞ!!」
侯成はその姿を見て涙しながら言う。
「馬鹿野郎!! それを食っちまったら………お前らも俺と同じ罪人になっちまう………だろ!!? な、なんでだ………なんで俺は泣いてるんだ!!」
侯成の涙に皆が言葉では表せない友情を口にする。
「馬鹿野郎!! それは涙じゃねぇ!! 『友情』だろ!!」
侯成は胸に詰まった思いが涙となって溢れてしまう。
「俺たちは呂布のためにこのイノシシを料理したじゃねぇよ………侯成、お前のためだ!!」
侯成は皆が作ってくれたイノシシの鍋を口にする。
その味は涙もあってしょっぱかった。
しかし、侯成は涙を拭いて言う。
「あぁ、これこそ、漢の味………酒がなくても旨い!!」
皆は侯成のためにイノシシ10頭をすべて夷らげる。
「侯成、美味かったぜ………イノシシがなくなっちまったな。」
侯成は決心して言う。
「あぁ、次は呂布だ!!」
侯成の心は決まった。
そんな時だった。
下邳城に水が流れ込んできたのである。
濁流は多くの人々を飲み込んだ。
下邳は川で囲まれた城、どの門からも水が入り込んできて東西南北から入り込んできた濁流がぶつかり合い、大惨事となる。
その後で川下の門から水が逃れて行った。
そんな中でこんな声が聞こえる。
「誰か!! 助けてくれ!!」
呂布である。
呂布は建物の倒壊に足を奪われてしまった。
「侯成!! これこそ天の導きだ!! 呂布を捕まえるぞ!!」
天の導きではなく、曹操軍の計略である。
しかし、侯成にとってはまさにそれであった。
「あぁ、曹操なら俺の気持ちがわかってくれるかもしれん!!」
侯成は迷うことなく呂布を縄で縛り上げた。
皆もこれに続いたという。
その後で陳宮も生け捕りにされた。
翌日、曹操に降伏、侯成は曹操に訳を話して呂布を差し出した。
呂布は縛り上げられたまま曹操に言う。
「縄がきつい!! 少し緩めてくれ!!」
呂布が言うと曹操がこう答える。
「虎を縛っているのだ。縄を緩めるわけ無いだろう?」
部屋の奥で悲鳴が聞こえる。
「ぎゃあああああ!!!」
高順の悲鳴である。
高順は夏侯惇の片目を射抜いたために鬱憤を晴らしている。
夏侯惇が真っ先に高順を連れ込んだために、曹操はこの時、よくわかっていなかった。
しかし、悲鳴を聞いた呂布の顔は一気に変貌し、恐怖に染まっている。
曹操は『郭嘉の計略だな』と思い込んだ。
恐怖した呂布が言う。
「はっはっは、これで天下は定まった!! 貴殿が歩兵を指揮し、私が騎兵を指揮すれば天下統一間違いなしだ!!」
それを聞いた曹操の表情が少し曇ってしまう。
劉備は曹操が呂布を許すのではないかと不安になってしまって笑いながら言う。
「はっはっは、父親になれば殺され、兄にすれば裏切られ、次は弟にでもしてやりましょうか?」
劉備がこう言うので曹操は大いに笑って答える。
「はっはっは、弟にしたら侯成の様になるだろうな!!」
これには侯成も笑ってしまう。
「そうですね!! 弟になってもだめですね!! って私が呂布の兄かい!!」
呂布は激怒して言う。
「おのれ!! この恩知らずの大耳野郎と奴隷兵め!!」
散々人を裏切っておきながら恩知らずと言われてしまった劉備と侯成、二人は呂布に謝罪する。
「申し訳ございません。兄上………」
「すまなかったな。弟よ………」
これを聞いた呂布は口が閉じることは無かった。
「ええい、喧しい奴だ。さっさと打首にしろ………」
曹操が命じると呂布は最後まで口を閉じる気配がなかった。
呂布が下げられて居なくなると奥の方から大声が聞こえる。
「黙れ!! 敗軍の将なら黙って覚悟を決められよ!!」
その声を聞いた曹操は部下に聞く。
「今の声は誰の声だ?」
曹操の部下が答える。
「呂布軍の張遼でございます………」
曹操は興味を持ち、張遼を呼びつける。
曹操は張遼に聞いた。
「なぜ、主に口を出した?」
その問いに張遼が答える。
「フン、俺が使えるのは呂布ではない………誠の将軍だけだ………さっさと斬れ!!」
曹操は考える。
「では、誠の将軍が誰か聞いてみようではないか………ここにいる誠の将軍とは誰だ?」
それを聞かれた張遼は劉備の隣にいる関羽をちらっと見て即座に目を背け、こう答えた。
「りょ、呂布将軍です………」
曹操は笑っていう。
「はっはっは、ならばよろしい。誠の将軍と同じ運命を辿るが良い。」
そう言うと、情に厚い関羽が曹操に申し出る。
「曹操様、張遼は忠義の者です。どうかお助けを………!!」
曹操は誠の将軍に頭を下げられたために張遼の縄を解いてやった。
張遼は関羽が頭を下げる先が曹操であったために感服してしまう。
「この張遼、一生着いていきます!!」
こうして、曹操と呂布の長きに渡る因縁が切られたのであった。
「さて、次が問題だな………」
曹操は最後に陳宮を呼び出したのであった。
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