第88話 お前たち! 行くぞ!!

 どうやらダイチは、この町から近い森に潜んでいたようだ。


 もっと遠くに移動していると思っていたからちょっと驚いた。逃げ出さない理由があったのだろうか。


 もし僕を仲間に引き込むことを諦めてないのであれば諦めて欲しい。考えを絶対に変えることはないのだから。


* * *


 ダイチを捕まえるためルアンナさんが率いる騎士団とテレシアさん率いる衛兵団、さらに外国騎士のヘンリエッタさんと僕たちが森の前に集まっている。


 総勢で百名を超えていて、三人を捕まえるだけにしては人数が多い。


 過剰なんて感じるほどだけど、スキルを無効化させるちからは驚異的だし逃げられたら捜索しなきゃ行けないから、このぐらいは必要なんだろう。


 みんな装備をチェックしてて準備を進めている。僕は既に片手剣や革鎧を身につけていてやることがないので、その様子を眺めている。


 騎士を率いているルアンナさんが来た。そろそろ働けと言われそうだ。


「もう使います?」


「うん。イオディプス君、よろしくね」


「わかりました」


 ダイチ捕獲部隊のみんなを守りたいと思う。スキルブースターが発動した。


 変化を感じたであろう周囲がざわめいた。


「ありがとう。後は我々に任せてくれ!」


「気をつけてくださいね」


 男である僕は騎士たちの後ろを歩くと決まっている。安全を考えるのであればこの場で待っていた方が良いんだけど、危険な仕事を女性に押しつけて安全な場所でのんびりするなんてしたくないから囮として同行したいと志願したのだ。


 みんな反対してきたけど、男性の強いお願いには勝てない。


 最後はごり押しした。


「ありがとう! その言葉だけで頑張れる気がするよ!」


 手を振ってくれたので、僕も同じことをする。


 ついでにこっちを見ている騎士たちにも笑顔を向けると、「きゃー!」といった歓声が上がった。


 囮として参加しているので今日は男の姿だから、みんな喜んでくれたみたい。


 少しでも頑張る力に貢献できたら良いな。


「お前たち! 行くぞ!!」


 ルアンナさんの号令が出ると騎士たちは森の中へ入っていった。


 目的地ははっきりしているので、五人一組のグループに分かれて移動を始めている。


 ダイチに気づかれる可能性はあるけど、その辺についてはちゃんと考えてある。


「私もいってくるよ」


 僕たちの切り札の一つ、ヘンリエッタさんが声をかけてくれた。


 彼女は暗殺スキルを持っているらしく、今回の作戦では単独行動が許されている。他の騎士たちよりも先にダイチがいる小屋に行って、監視をするのが仕事だ。もし逃げだそうとしていたら追跡や妨害までしてくれる。


「お気を付けて」


「ケガ一つせずに戻ってくるよ。だから仕事が終わったら、私の国に――」


「はーーい! そこまで! それ以上はダメでーーーーす!」


 僕の護衛として後ろに控えていたレベッタさんが間に入って止めた。


 今日は大人しくするって約束だったんだけど、我慢できなかったみたい。


「イオ君はこの国の宝。渡さない」


 続いてヘイリーさんが僕の腕を掴んできた。アグラエルさんは後ろから抱きしめてきて、メヌさんはハンマーを構えている。


 一緒に作戦を実行する仲間だというのに、めちゃくちゃ警戒しているじゃん!


「ガードが堅いね。これはイザベル王女に頑張ってもらうしかないか」


 とりあえずは諦めてくれたようで、ヘンリエッタさんは後ろに下がる。


「言ってくるね」


 投げキッスをしてくれた。ウィンクまでしてくれて魅力的だと感じていると、右腕に痛みが走った。ヘイリーさんが強く握ったみたいだ。爪が食い込んでいる。


「痛いですけど……」


「他の女を見ていた罰。早く私にも手を出して」


 テレシアさんとベッドのなかでイチャイチャしていたことを根に持っているみたい。アレは事故だったんだから許して欲しいんだけど、何を言っても納得はしてくれないだろう。


「最初は私だよ。ヘイリーは二番手。そう決めたでしょ」


 レベッタさんが割って入ってきた。これは一騒動起こりそうだと思ったけど、意外とすぐに終わる。


「わかっている」


 文句を言わずにヘイリーさんが引き下がったのだ。掴んでいた腕も放してくれている。


 さすがに今は言い争いをする状況じゃないと分かってくれているようだ。


「それじゃ行ってくる」


 またウィンクをしてくれたヘンリエッタさんの姿が消えた。存在感がなくなって見失っただけなんだけど、透明になったように感じる。さすがSに近いAランクスキルだなと感心してしまった。


 騎士たちは森に入ってしまい、残されたのは僕たちだけ。そろそろ行動しなきゃ。


「置いて行かれちゃうから僕たちも出発しません?」


 みんな頷いてくれた。


 歩き出そうとすると、アグラエルさんに抱きかかえられてしまう。


「交代制で運んであげるから」


 どうやら僕は歩くことを許されてないようだ。


 このお楽しみ時間があるから、さっきは口論を止めたのかもしれない。


 抱っこされながら森の中に入っていく。危険な仕事だというのに、なんて格好をしているんだろう。作戦開始早々から不安が大きくなっていた。

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