第17話 単独行動は許さないからね

 腕を組まれて大通りを歩いて行く。


 屋台からタレを焼いた香ばしい匂いが漂ってきて、空腹が刺激される。どうやら串焼きを作っているようで、鉄網の上からジュージューと美味しそうな音が聞こえる。近くには木製の丸椅子がいくつかあって、数人のお客が食事をしていた。


「お腹減ったの?」


 首を横に振って否定した。


 食べてみたいとは思ったものの今は観光を優先したい。


 屋台を通り過ぎると、絨毯が並んでいる店や家具屋みたいなものまで色々と見つかる。鍛冶屋ではクレイモアを片手で振っている女性を見かけたので、思わず立ち止まってしまった。


 何でそんなことができるんだと疑問に思ったが、目が光っていたからスキルで肉体を強化していたのだろう。


「他の女を見るな」


 ヘイリーさんが俺の顔を掴むと強引に動かした。


 女性を物色していたように見られたのか、ちょっと怒っているみたいだ。


「気をつけます」


 女性は見られることに敏感だと言うし、変な視線を送って男だとバレたら問題だ。他人をじっくり観察するのはやめておこう。


 二人が守ってくれていることもあって、誰にもぶつからず大通りを歩き、無事にお店の前に着いた。


 レベッタさんがオススメするお店は木造の一階建てだ。標準的なコンビニが十個以上は入りそうな大きさで、店前にはガラス瓶のイラストが描かれた看板がぶら下がっている。


「店内に入っても、ずっとこのままだよ」


 腕を組んだまま商品を探そうと考えているらしい。正直なところ一人でじっくりと見たいので断りたいが、許してはくれないだろう。レベッタさんの顔がマジなのだ。残念ではあるが、今は従うしかない。


「単独行動は許さないからね」


 黙っていたらヘイリーさんが追撃してきた。


 わかってるって。拒否なんてしないから焦らないで。


「このままで良いですよ。だから、そんな怖い顔をしないでください」


 笑顔を作ったら、二人とも気まずそうな顔をしていた。


 楽しみにしていた観光なんだから、気分を変えないとな。レベッタさんの耳元に口を近づける。


「オススメの商品を教えてくれる?」


 男だとバレないように小声で囁いた。


 レベッタさんの全身がブルっと震え、口から涎が出る。体から甘い匂いがぶわっと出たようだ。思わず抱き付きたくなってしまう。


 これは罠だ! 俺の自制心が試されているっ!


「私が案内する」


 可愛く頬を膨らませたヘイリーさんが、俺の腕を引っ張りながら歩き出した。


「怒ってます?」

「大丈夫。怒ってはない」

「だったら、なんでそんな顔をしているんですか?」

「秘密。教えない」


 やっぱ怒ってるじゃん! と、突っ込める心の強さは持っていなかった。


 機嫌がコロコロと変わるし、女心はよくわからない。理解しようと思うのは諦めよう。男には永遠にわからないものだから。


 ぼーっと突っ立っているレベッタさんを置いて、俺とヘイリーさんは店の奥へ進む。


 思っていたより人が多く歩きにくい。どうやらセールをしているみたいで、みんな必死にお得な商品を探していた。肩がぶつかることも多く、二人固まって良いどうするのは難しい。どうしようか悩んでいると、


「あっ」


 店内を歩いていたら獣人の女性とぶつかって、ヘイリーさんから離れてしまった。


 人混みに紛れてしまい姿を見失ってしまう。


 これは一人で行動するチャンスじゃないだろうか。近くに居るはずだし、少しぐらいなら大丈夫だろう。


 すぐに戻りますからと心の中で呟いてから、近くにある商品を見る。


 どうやらこの辺は日用品を売っているらしく、木製のコップや皿、スプーンなどがある。他にはティーポットらしきものや、フライパンといった調理器具も置かれていた。


 世界が変わっても食事の道具は似たようなデザインになるらしい。

 使う人たちの体が似ているから当然か。


 食器を眺めていると、ワイングラスを見つけて目がとまる。ステムと呼ばれる細長い棒状のところに赤や黄、緑など、色とりどりの小さな宝石が埋め込まれており、光りを反射させて綺麗だ。


 俺がバスローブを着てワインを飲んでいる姿を思い浮かべた。


 首を横に振って妄想を振り払う。


 あんなのは体格がよく、イケオジと呼ばれる年齢じゃないと似合わない。十代の俺では、かっこつけているクソガキにしか見えないだろう。


 いつか似合う男になってやるからな!


 よし、気を取り直して他の商品を見よう。


「捕まえた」


 後ろから羽交い締めにされた。知らない声だ。


 何をされたのか分からず、頭が真っ白になって動けない。声を出してしまえば男だとバレてしまう。何も出来ず小部屋に連れて行かれてしまった。


 ここは試着室のような場所で全身の映る鏡がある。そこに俺と知らない女性が二人いた。片方は幼い。少女といった感じの人間だけど、もう一人は猫耳の生えた大人の女性だ。


 獣人が目の前にいることで、恐怖より驚きや好奇心が勝る。左右に動く猫耳をじっと見てしまった。


「姉さん。人さらいは不味いって」


 少女が獣人のお姉さんの服を引っ張った。

 大胆な犯行をしているわりには、少し気が弱いみたいだ。


「大丈夫。ちょっと、イタズラするだけだからさ」

「でも、この子でいいの?」

「武装したヤツが守っていたんだぞ。きっと綺麗な顔をした高貴な女だろうよ」

「姉さんは好きだねぇ」

「お前もだろ?」

「もちろん。だから協力しているんだから」


 男だとはバレてないみたいだが、綺麗な女だと勘違いされて狙われているらしい。顔は隠しているのに妄想だけで襲おうとするなんて。


 この町、どんだけ治安が悪いんだよッ!


 性別は関係なく危険だなんて、そんなの聞いてないぞッ!!




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