第15話 スキルで動体視力を強化して、その程度なの?

「ごめん。暴走したのは謝る。けど、よく見て」

「何よ」

「嫌がってない」


 怒っているレベッタさんが俺を見た。本当なの? と聞いてくるような目をしている。


 恥ずかしいからといって嘘をついたらヘイリーさんに迷惑をかけてしまう。とはいえ、今の下半身の状態は知られたくない。どうしようか……。


「もしかして、それって」


 レベッタさんの視線が一点に集中していた。


 何を見ているなんてわかる。どうやらバレてしまったようだ。


 顔が熱い。なんか変な汗も出てくるし、いますぐ逃げ出したい気持ちになる。


「言ったでしょ?」


 勝ち誇ったような顔をしたヘイリーさん。もう逃げ道はない。諦めるしかなさそうだ。


「えーと、嫌ではないですよ?」


 俺が言った直後、二人の動きは速かった。


 レベッタさんの足が伸びて、ヘイリーさんの腹を蹴る。拘束から解放された俺は抱きかかえられてしまった。壁に叩きつけられたヘイリーさんは立ち上がると、瞳が光っていた。普段とは違う雰囲気をまとっていて、初めて怖いと感じてしまう。


 下半身が暴走しかけたせいで、命の危機が訪れているのだ!


「私の男を返せ」

「いやよ。私が最初に見つけたの。スキルを使って脅しても無駄だから」

「共有する話はどうした?」

「するよ。私が終わらせた後でね」


 瞳を光らせながら、憤怒の表情をしたヘイリーさんが飛びかかった。

 レベッタさんは俺をベッドに投げてから、激しい殴り合いが始まった。


 防御なんて考えてないようで、お互いの腹や胸に拳がめり込む。


 接近戦を主体にしているヘイリーさんが有利かと思ったけど、狩人であるレベッタさんも負けてはいない。


 素人の俺からすると実力は互角のように見える。


「スキルで動体視力を強化して、その程度なの?」

「うるさい」


 椅子持つと、ヘイリーさんが振り回した。


 壁に当たって木片が飛び散り、ベッドに突き刺さる。俺の部屋がボロボロだ。まだ数日しか住んでないんだけど。


「ねばるな! 早く倒れろっ!」

「うるさい!」


 罵り合いながら殴っていると、レベッタさんの攻撃が当たりにくくなってきた。動体視力を強化しているヘイリーさんが、動きになれてきたのかもしれない。もうすぐで争いは終わるだろう。


 そして、二人の間にできた溝は深まる。


 恩があるのに、見ているだけで良いのか?


 いや。ダメだ。この争いは俺が止める。その責任がある!


 ベッドの上に立つと二人に向かって飛ぶ。跳躍だ。


「争いはダメ!」


 声に気づいて二人とも俺を見る。狙い通り驚いて動きを止めてくれた。


 狙い通りだ。何とか仲裁できそうである。


 着地して両腕を広げてると、レベッタさんとヘイリーさんの距離を開ける。


「落ち着いて。俺の話を聞いてくれませんか?」

「わかった」

「いいよ。聞いてあげる」


 二人から力が抜けたように見えた。よし、第一段階は突破した。


 次は説得するぞ。


「俺は二人が好きです」


 恋愛というのはよくわからないが、少なくとも人として好意は持っている。


 その後の言葉を続けようとしたら、左右から抱きしめられてしまった。幸せな感触を楽しんでいたいけど、それは後にしよう。


「だからケンカしないでください。その、俺のことが、好き、なんでしたら……っ!」


 もし違っていたら家出するレベルの恥ずかしさなんだが、考えはあっているはず。


 頼むから言うことを聞いてくれ! と願いながら反応を待つ。


「お姉ちゃんもイオ君のこと好きだよ。でもね、それと、今のケンカは関係ないいんだよ。これは女のプライドを賭けた……」

「違います。関係ありますからっ!」


 大声でレベッタさんの言葉を遮った。強引にでも、俺のペースに持って行かないと。


「俺は誰の物でもありません。もし、奪い合うような戦いをするのであれば、この家から出て行きます。それでもまだ、女のプライドと言って戦うつもりなんですか?」


 流石に今の言葉は効いたみたいだ。二人とも俺から離れると、力が抜けたみたいにペタリと座り込んでしまった。


「お姉ちゃんを置いて出て行くって、嘘だよね?」


 レベッタさんは涙を流しながら懇願するような目で俺を見ている。


 ものすごい罪悪感を覚える光景だ。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」


 一方のヘイリーさんは、同じ言葉を呟くだけの人になってしまった。目には何も映っていないように見えて、少し怖い。


「皆で仲良く生活。それができるなら、俺はずっとここにいますよ」


 同じパーティで活動するほど二人の関係は良好だったんだから、無理やり仲良くなれとは言っていないはず。


 落ち着けば、この提案を受けて良かったと思ってくれるだろう。


「わかった。お姉ちゃんは守るよ。守るよ」

「許してくれるなら、何でもする」


 よかった。ちゃんとわかってくれた……よね? 大丈夫だよね? もう暴れないよね?


「だったら、仲直りの握手をしようよ」


 左手でヘイリーさんを、右手でレベッタさんの手を持つと、近づけて握手をしてもらった。


「さっきは殴ってゴメン。ヘイリーのことは好きだよ」

「私も」


 二人とも笑顔だし、しっかり手を握っている。これで一段落付いたと思っていいだろう。


 男を取り合う女性なんて空想上の出来事だと思っていたけど、この世界だったら普通なのかもしれない。レベッタさんやヘイリーさんだけじゃなく、まだ会っていない同じパーティの二人にも気をつけて接しよう。


 俺も頑張るからさ、みんなで仲良く過ごせると良いな。

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