第13話 終わったら三人で買い物に行こう
「お待たせ」
三十分後に、二人は俺の寝室に戻ってきた。
にこやかに笑っていて、手までつないでいる。ケンカしそうだった雰囲気はなくなっている。仲良しだ。
ギスギスした空気が改善して本当によかった。
「レベッタの代わりに私が勉強を引き継ぐ。終わったら三人で買い物に行こう」
「良いんですか!?」
外出は大分先だと思っていたので、思わず立ち上がって喜んでしまった。
部屋の外での話し合いで予定が変わったのだろうか。
実はこっそりと窓から外を眺めていたときがあった。歴史を感じる石造りの建物や地球と変わらない青空、たまに見かける異国風の女性達。そのすべてが、俺の好奇心を刺激する。
今すぐ外に出て、観光したいという気持ちが高まってきた。
「楽しそうな顔。そんなに出たかったの?」
「はい! 知らない場所を探索するのが好きなんです!」
ヘイリーさんは何も言わずに俺の隣に立つと、腕を絡め、一緒にベッドの上へ座った。
観察するような目をされて少しだけ居心地が悪い。
「好きなことをするために勉強しようか」
俺の太ももにヘイリーさんの足が乗った。密着している。控えめな胸の柔らかさが腕に伝わり、話が頭に入ってこない。
嬉しいんだけど、じっと見つめられているので気は抜けない。変態だって思われないように下半身をコントーロルせねば。
「レベッタから女の恐ろしさを聞いたと思うから、私からは男について教える」
女性に手を出すクソ野郎どものことか。
聞いた話を思い出すだけで苛立つ。逆に殴りつけたら気持ちいいんだろうな。
「怖い顔をしてどうした?」
「いえ、何でもないです。続きを教えてください」
感情が顔に出てしまったようなので、無理やり笑顔を作りながらヘイリーさんを見た。
気持ちを見透かされているような気もするが、何も言ってこないのでわからない。短気な男なんて思われてなければいいのだが。
「男には二種類いるんだ」
悩んでいる俺のことには触れず、ヘイリーさんは話を始めた。
「一つは女の夫として生きる道。もう一つは子種を提供するだけの家畜」
「家畜ですか?」
夫はわかる。一夫多妻が常識なのも聞いている。でも、男が家畜扱いってのは初めて聞いたぞ。
「子種を提供させるためだけに生かされているから、そう呼ばれている」
「提供って、どうやって?」
「男から子種を奪って女性の体内に入れ、妊娠させる」
「そんなことができるんですか……」
「妊娠スキルを使えば」
「!?」
男が少なく科学も発達してなさそうな世界で、人口を維持できている理由がわかった。
スキルである。
人であれば必ず一つは覚えるスキルに、妊娠スキルというのが存在するのか!
このスキルがあれば男なんて生きてさえいればいいのだ。家畜みたいに扱っても種の存続・繁栄という意味では問題にはならない。非常な判断ではあるが合理的でもあると感じた。
「でも妊娠スキルも万能ではない。子供のスキルランクは必ずCかDになってしまう。だからみんな、自然妊娠を望む」
この前の授業でスキルランクは親から遺伝すると教えてもらっていた。
例えば父親がCランクで母親がAランクだった場合、九割九分はCランクの子供が生まれるとのこと。残りはAランクの子供が生まれる。男の方が影響力は大きいらしい。
同じランク同士であれば子供も同じランクで生まれるので、母親はランクの高い男を求めるのが一般的である。
スキルランクは社会的な評価に大きく関わってくるから、ヘイリーさんの話には納得できた。
「では家畜扱いされる男は少ないんですね?」
「うん。重犯罪者か、スキルランクがDやCぐらいの男ばかり」
ヘイリーさんの手が伸びて俺の頭を撫でる。優しい手つきだ。安心する。
「イオ君みたいに優しく高ランクのスキル持ちの男の子は、家畜扱いされないから」
スキルランクがSSでよかったと、このとき初めて思った。家畜扱いされたらこの体に憑依した意味というのを見失ってしまう。
俺が気をつけることがあるとしたら重犯罪者にならないよう、清く正しく生きることだろうな。
「俺の呼び方を変えたんですか?」
「レベッタと決めた。短い方が言いやすい。嫌だったなら元に戻すけど」
「いえ。そのままで大丈夫です」
「よかった。じゃ、話を続ける」
頭から手が離れると、ヘイリーさんは立ち上がって俺の膝の上に座る。向かい合う形だ。
突然の行動を突っ込むよりも、頑張ってコントロールしていた下半身のアレが急成長していることに気づかれないよう、ポジションを調整するのに必死だった。
「家畜になった男は一生を牢獄で過ごすけど、普通の男は女が働いた金で贅沢な暮らしができる」
「男は働かないんですか?」
「ううん。男もちゃんと働く」
好きな人と一緒に働くのが夢なのでよかった。男は貴重だから働くなと言われたら、絶望していたところだ。
「どんな仕事があるんですか?」
「子作り」
「……」
いや、さ。確かに一緒に働いているのは間違いないけど、俺がイメージしていたのとはちょっと違う。
花屋さんで一緒に接客するとか、冒険者としてパーティを組んで活動するとか、そういうのを求めていたんだよ!
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