第10話 他に何が知りたい?

「大丈夫。誰もいなかった」


 しばらくしてヘイリーさんが戻ってきた。


 ドアを閉めると、さっき座っていた場所に戻る。


「安全は確認できたから、話を再開しようか。他に何が知りたい?」


 驚くことが多くて理解が追いついてない。他の質問なんてぶっ飛んでしまってる。


 今知りたいことは、ただ一つだけ。


「俺の覚えたスキルが凄いことはわかりました。これからどうすればいいですか?」


 安全に生きていくために必要なことを知りたい。本来は自分で考えるべきなんだけど、危険の回避方法なんて思い浮かばない。


 助けてくれた二人に頼る。


 選択肢は、それしかなかった。


「まず始めにやることは、スキルについて私とレベッタ以外には教えないこと。もし他の人に言いたくなったら相談してね」


 SSランクだって自慢し回ったら、すぐに目を付けられてしまう。当然の対応だ。関係ない人には絶対にスキルのことは言わない。


「わかりました」

「いい子だね」


 母親のように愛情のこもった声だったように聞こえた。


 子供扱いされたかもしれないという苛立ちなんてない。年上に褒められた嬉しさの方が勝つ。今まで気づかなかったけど、甘えるのが大好きらしい。


「他にも守って欲しいことがある」


 ヘイリーさんの声は、少し緊張しているようにも聞こえる。


 それほど重要なことなんだろう。聞き逃してはいけない。うなずいてから、しっかりと目を見る。ヘイリーさんの頬が少し赤くなったけど、気のせいだろう。


「この家に住む、一人で行動しない、外に出るときは男だとバレないように変装する、何かあったらすぐに私かレベッタに相談、この四つは守れる?」


 俺の行動が大きく制限されてしまう内容だ。日本にいた頃なら絶対、断っていただろう。けど、この世界では必要なことだといのは理解している。


 貴族に囲われて生きていくなんて嫌だ。


 クソ親父と一緒に死んで新しい体を手に入れたんだから、好きな人たちと自由に過ごしたい。この程度の内容であれば受け入れるべきだ。


「大丈夫です。ちゃんと約束は守ります」

「本当?」

「本当です」


 また頭を撫でられてしまった。ヘイリーさんは嬉しそうにしている。


 後ろから抱きしめてくれているレベッタさんは、俺のことを優しく包み込むように腕を回しているし、なんて幸せな空間なんだろう。


 だからこそ、さっきの約束で気になることがあった。


「俺がこの家に寝泊まりしても大丈夫なんですか?」


 さらっと、この家に住むと言っていたけど、話はそう簡単には進まないと思っている。


 部屋や家具、お風呂など、色々な問題があるからだ。


「もちろん! 部屋は二つも空いているし、他の仲間だって絶対に歓迎するから! もちろんタダだから安心して!」

「他にもこの家に住んでいる人いるんですか?」


 そういえばレベッタさんはパーティで購入した家と言っていた。てっきり仲間はヘイリーさんだけだと思っていたけど、違ったみたい。


 話したこともない人と暮らせるだろうか。不安になってしまう。


「あと二人ほど。実は種族は人間じゃなくて、ドワーフと龍人なんだ。イオディプス君は、どう思う?」

「どうって、仲良くできるかなって不安があるぐらいです」

「それだけ?」

「はい」


 返事を聞いたヘイリーさんは黙ってしまった。


 どうすれば良いかわからず顔を上げてレベッタさんを見ると、覗き込むように俺を見て微笑んでくれた。


「イオディプス君は優しい子だね。お姉さんは大好きだよ」

「あはは……」


 好意をまっすぐ向けられたことなんて、母さん以外にはなかった。非常に照れくさい。


「ここに居ない二人は街の外にでていて、しばらく帰って来ない予定だから。この話は後にしましょっ」


 レベッタさん手が俺の脇の下に移動すると、軽々と持ち上げてしまった。


 ソファから移動して階段をのぼり、二階に着く。


 細い廊下があって左右に六つのドアがあった。


「二階は個人の寝室になっていて、手前にある二つが空室なんだよ。どっちに住む?」

「左側の方でお願いします」


 タダで住まわせてもらえるんだから、細かいことを言うつもりはない。

 どっちでもよかったので利き腕と同じ方を選んだ。


「案内するね」


 俺を右脇に抱えると、レベッタさんがドアを開けた。


 室内は広い。着替えに入った部屋とデザインは似ていて、三人は寝られそうなベッドがある。


 ベージュ色のシーツを使っているようだ。上には四角く畳んでいる布があり、掛け布団のようだ。薄そうなので暖房性は低そうである。


 他にも木製のテーブルがあって、燭台やろうそくもある。椅子は三脚ほどあるので、来客があっても問題なさそうだ。


「新しいメンバーがいつ入ってきても大丈夫なように、一通りの家具は揃えていたんだ」


 ようやくレベッタさんは俺をおろしてくれた。


 自らの足で歩き、部屋を探索してみる。


 奥にある扉を開いたらクローゼットだった。服は掛かっていない。


 レンガの壁を叩いてみると重い音が返ってきた。多少、大きな音を出しても隣には聞こえないと思う。プライバシーに配慮した設計だ。


 床に使っている板を踏んでも軋むような音はしないし、頑丈な作りをしているんだなと感じた。


「気に入ってくれた?」

「もちろんです。本当にタダで使っても良いんですか?」

「こう見えても、私たちお金持ちだからね。安心して良いよ」

「ありがとうございます」


 クソ親父を殺して、よくわからない世界にたどり着いた俺は、なんとか安心出来る場所を確保できたようだった。

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